第4話 出涸らし令息、女子寮に入る




 リタとの決闘から数日後。


 俺はあらゆる手段を用いて勇者学院を退学しようと試みたが、あろうことかその全てをアルテナに邪魔されてしまった。


 本気で選抜クラスの女子たちに俺との間に子供を設ける課題を行わせるつもりらしい。


 そうして今、俺は……。



「んあっ♡ バ、バカっ!! おっぱいは触るなって言ってんでしょ!!」


「す、すみません!? で、でもこの辺りに魔力が滞ってるので……」



 俺は医務室でリタのマッサージをしていた。


 リタはインナー姿でベッドにうつ伏せになっており、大きなおっぱいが押し潰されて横乳がはみ出している。


 当然ながら、健全な男子である俺は鼻息を荒くして前屈みになってしまった。


 あまりにも心臓と下半身に悪い。


 なのでマッサージは断ろうとしたが、無理やり腕を引かれて医務室に連れ込まれてしまった。



「あ、あの、なんでマッサージなんか……」


「アンタのマッサージを受けた後、魔力の操作が桁違いに上手く行くのよ。私が強くなるために協力しなさい。大人しく従うなら……まあ、アンタが勇者学院にいることくらいは許してあげる」


「いや、あの、俺は勇者学院を退学したいんですけど」


「ふん」



 俺の言葉を無視してそっぽ向いてしまうリタ。


 しかし、不意に顔を上げてちらっとこちらを見たかと思うとニヤニヤ笑った。



「アンタ、本当にフィナ・アスティンに似てるわよね」


「まあ、よく言われますね」


「その制服、似合ってるわよ?」


「や、やめてください!! 俺にとっては尊厳破壊なんですから!!」


「あら、からかってるわけじゃないわよ? まるでフィナ・アスティンに奉仕させてるみたいで胸がすく思いだわ」



 そう、俺は未だに女装している。


 女子用のひらひらなスカートを履いて勇者学院で過ごしているのだ。


 特別選抜クラスの生徒たちには男だとバレてしまったが、姉さんそっくりの顔と相まって他のクラスにはまだバレていない。



「あんっ♡ もう、バカ。また私の高貴なおっぱいを触ったわね」


「わ、わざとじゃないんです……」


「ふーん? 本音は?」


「……ちょっぴり、わざとだったり、じゃなかったり……」



 俺は正直に言ってしまった。


 リタは言葉遣いこそ違いがあるものの、雰囲気が姉さんに似ている。


 だからあまり嘘を吐けないのだ。


 少し違うのは姉さんだと全く興奮しないのに、リタが相手だと興奮が抑えられず、下半身が大変なことになることか。


 リタが呆れた様子で肩を竦めながら、溜め息混じりに言う。



「まあ、アンタだって男だし、そういう欲求があるのは理解してるわよ」


「……ちょっと意外です。てっきり前みたいに怒鳴られるかと……」



 俺は勇者学院にやってきた初日、リタに絡まれてしまった時を思い出す。

 アルテナにスカートを捲られて尊厳が丸出しになった時のことだ。



「あ、あれはフィナ・アスティンへの怒りとか、実は弟の方だったとか、いきなり、その、男の人のを見せられたりとかした挙げ句に赤ちゃん作れって言われて動揺してたのよ」


「冷静に考えたら後半部分だけで意味分かんないですもんね」


「まったくよ」



 そう言ってリタが笑った。


 初対面の時はカッカしていて怖い人だと思っていたが、こうして話していると楽しい。


 仕草の一つ一つに高貴さが滲み出ている。


 あとふわっとしためちゃくちゃ甘い匂いがして心臓がやたらと高鳴るのだ。


 姉さんへの怒りが暴走していたのは確かだが、おそらくはこっちのリタ・ザナードが本来の彼女なのだろう。



「ねぇ、一つ聞いてもいいかしら?」


「なんですか?」


「アンタ、私と赤ちゃん作りたい?」


「!?」



 ただでさえリタのけしからん身体を触りまくって硬くなっていた下半身の一部が更に硬くなる。



「そ、それは、どういう……?」


「その、お礼よ。アンタが魔力の滞りを治療してくれなかったら、今頃は多分精神的にもやられていたわ。だから、お礼。どうせ課題だし、抱かせてやってもいいって言ってんの。……しっかり責任は取ってもらうけどね」



 ここで頷いたら、俺は目の前の美少女と朝までズッコンバッコンできるのだろうか。


 しかし、責任という言葉は本当に重い。


 リタはザナード帝国の第一皇女。その責任を取るということは、つまりそういうことだろう。あまりにも重い。



「……す、すみません。リタさんとエッチなことはしたいですけど、責任とか取れないです……」



 俺は所詮『出涸らし令息』なのだ。


 リタの隣に立つ覚悟もないのに彼女を抱いたらただのクズだと思う。



「……冗談に決まってるでしょ。アンタってバカなのね」


「ええ!?」


「本気にしすぎ。ザナード帝国の第一皇女の初めては安くないのよ」


「お、男の純情を弄ぶのはよくないですよ!!」


「あら、今は女の子として学院にいるんだからいいじゃない」



 ぐぬぬぬ、反論できない!!



「やあやあやあ!! 何やら青春の匂いがするね!! 私がやってきたよー!!」


「「帰ってください」」


「酷いなー、君たち。可愛い生徒たちに邪険にされてはか弱い私は泣いてしまうよ。およよよ」



 俺とリタが談笑していると、医務室にアルテナがやってきた。


 相変わらず溌剌としているが、胡散臭い。



「で、何か用ですか? 私は忙しいんですけど」


「先生の目には男女が乳繰り合っているようにしか見えないがね!!」


「べ、別に乳繰り合ってないわよ!! ただマッサージしてもらっていただけ!! 本当にそれだけですから!!」


「そうかねそうかね。っと、用があるのはリタ・ザナードではなくてフィオ君でね」



 アルテナがリタから視線を外し、俺の方を見る。



「入寮手続きが完了したから、今日からは街の宿じゃなくて学院の女子寮で寝泊まりしたまえ」


「本当ですか!! ありがとうございま――今、なんて言った?」


「女子寮で寝泊まりしたまえ!!」


「はあ!?」



 俺は勇者都市を訪れてから街の宿で寝泊まりをしていた。


 入寮手続きには時間がかかるからな。


 しかし、ようやく手続きが完了した学院寮は何故か女子寮だった件。



「いやあ、対外的には君ってばフィナ・アスティンじゃん? そこで私は気を利かせて女子寮で手続きをしておいたのだよ!! あそこなら他クラスの男子の目はないからね!! 課題もズッコンバッコンしやすいというものさ!!」


「余計な気を回しすぎですよ!!」


「まあまあ、そう怒らないでくれたまえ!! ルームメイトはクラスの女子たちで固めておいたからね!! 勇者学院に到着したばかりの子もいるけど、君のことは説明してあるから!! 安心して間違いを犯してくれ!!」


「大変ね、フィオ。ちょっと同情するわ」


「何を他人事みたいに言ってるんだ? 君もフィオ君のルームメイトだぞ?」


「……はあ!?」



 これにはリタも驚きの声を上げた。



「ではでは!! 私は多忙だからね!! あ、ルームメイトは君たちの他に二人いるけど、まだ一人しか来てないからそこんとこもよろしく!!」


「「ちょ、待っ――」」



 嵐のように過ぎ去っていくアルテナ。


 残された俺とリタは互いに顔を見合わせて、どうしたものかと首を捻る。


 しかし、考えたところでどうしようもない。


 俺たちは互いに諦めて女子寮に向かい、同じ部屋で過ごすルームメイトにも事の次第を説明することになったのだが……。



「どうして、アンタがここにいるのよ!?」


「ん。久しぶり、リタ姉様。貴女の可愛い妹、アメリアが勇者学院にやってきた」


「自分で可愛いとか言ってんじゃないわよ!! 相変わらず自己評価が高いわね!!」



 どうやら新しいルームメイトはリタの妹だったらしい。


 これはまた一波乱ありそうな予感がする。



 





―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「作者は女性の身体に触れたことがない。強いて言うなら母親の肩を揉んだくらいである」


フ「い、いいと思います」



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