第5話 出涸らし令息、妹さんと会う





「えーと。理事長先生から話は聞いていると思いますが、俺がフィオ・アスティンです。こんなナリですけど、立派な男です」


「私はアメリア・フォン・ザナード。ザナード帝国の第二皇女。リタ姉様の妹。よろしく」



 女子寮の一室で、俺よりも少し年上と思わしき絶世の美少女と固い握手を交わす。


 綺麗な銀色の髪と整った顔立ちの少女だ。


 リタの真紅色の瞳とは相対的な空色の瞳が真っ直ぐ俺を見つめている。


 スタイルはリタほどではないが、おっぱいが大きくて男好きのする身体だ。

 特にお尻が大きくて太ももが一番エッチな太さをしている。


 と、あまりじろじろ見ると下半身が大変なことになるので視線を逸らす。


 逸らしたのだが、どういうわけかアメリアはずいっと俺に顔を近づけてきて、俺の顔を覗き込んできた。



「本当に男……?」


「疑わないでください!! 俺だってもう少し普通の格好をしたら男に見えますから!!」



 姉さんとは瓜二つだが、初対面で性別を疑われることは今までに一度もなかった。


 しっかり男の子っぽい格好をしていたからな。


 今疑われてしまったのは女子用の制服を着ているから、だと思いたい。



「……フィオ、貴方がリタ姉様に勝ったというのは本当?」


「え? いや、勝ったというか、リタさんが魔力制御を誤って自爆したというか……」


「……そう、ならよかった。やっぱり姉様が負けるわけがない」


「え、あ、うん。そうだね。あのまま続けてたら俺が負けてたと思うし」


「ん。そう言える貴方には見所がある」



 そう言うとアメリアは俺から興味を失ったのか、リタの方を振り向いた。



「姉様、会いたかった」


「……私は会いたくなかったわよ」


「でも私は会いたかった」


「本当にアンタは昔から会話が通じないわね!!」



 犬のようにリタに懐くアメリアと、猫のようにアメリアにツンツンするリタ。


 仲がいい姉妹で羨ましいなあ。



「ていうかアメリア!! アンタ、いつの間に勇者学院の試験を受けてたのよ!?」


「姉様が受けるなら私も受けたいって言ったら、父様がいいよって」


「っ、本当にあのクソオヤジは……」



 リタが心底忌々しそうに言う。


 ……リタはツンツンした性格だが、あまり人を憎むようなタイプではない。


 姉さんがリタにしたような、余程のことをしない限りは怒りを露わにすること自体そうないのだろう。


 しかし、そのリタが心の底から嫌悪するように父をクソオヤジと呼ぶ。


 親とは仲がよくないのだろうか。



「……はあ、ここにいないクソオヤジのことで怒っても仕方ないわね。それよりアメリア、アンタ特別選抜クラスに入ったってことは、あの理事長から聞いてるんでしょうね?」


「ん。赤ちゃんを作ることが課題って話?」


「そうよ。アンタ、婚約者がいるんだから適当に理事長に話しておきなさい。免除されるかも知れないから」


「別に必要ない」


「……え?」



 リタはアメリアの思わぬ発言に目を点にしてしまった。



「ちょ、な、何言ってんのよ!? 婚約者がいるのに浮気はダメよ!?」


「私は姉様と赤ちゃんを作る」


「本当にアンタ何を言ってんの!? 流石に困惑するんだけど!?」



 いや、まじで何を言っているのだろうか。


 俺と赤ちゃんを作るとか言われても困る話だが、リタと作るってどういう意味だ?



「私が勇者学院にやってきた理由は、勇者になりたいからじゃない。もっと大きな野望がある」


「は、はあ? 何よ、その野望って」


「それが姉様と赤ちゃんを作ること。姉様の赤ちゃんを産んで育てる。そのために必要な魔法の知識を得るために、勇者学院に来た」


「!?」



 とんでもねぇ妹だな……。



「可愛い私とカッコよくて強い姉様の赤ちゃん。きっと可愛いくてカッコよくて強い子に育つ」


「……フィオ、助けて。私、妹が怖い」


「俺は部外者なので」



 俺はエイデン王国で『出涸らし令息』と呼ばれているが、姉さんに日々ボコボコにされて育ったからか危機察知能力だけは高い。


 何となくアメリアからは嫌な匂いがしたので、早々に退散しよう。



「ちょっと、どこ行くのよ」



 しかし、あと少し遅かった。


 俺はリタに腕を捕まれてしまい、逃げられなくなった。


 や、やばい!!



「……お、俺は部外者なので!! 姉妹の問題は姉妹で解決すべきかと!!」


「私を見捨てるとか許さないわよ!! 散々私の身体を楽しんだんだから!! 少しくらい助けてくれたっていいでしょ!!」


「それは本当にごめんなさい!!」


「……姉様の身体を、楽しむ……?」



 俺とリタの会話を聞いていたアメリアが、首をぐりんとしてこちらを見た。


 その瞳には光が無い。どこまでも暗い目だった。



「っ、そ、そうだわ!! 私はここにいるフィオ・アスティンと付き合ってるのよ!!」



 と、そこでリタが思わずといった様子で叫ぶ。


 更にはわざとらしく俺の腕に抱きついてきて大きなおっぱいを押し付けてきた。


 おうふ!! 役得だが、意味分からん!!


 でもその意味の分からない発言に俺以上の困惑した様子を見せたのがアメリアだった。



「!? 姉様が、付き合ってる……?」


「そう!! だから、その、あれよ!! もうエッチなこともしてるから!!」



 ちょ、本当にリタは急に何を言い出したんだ!?



「……そう。姉様に恋人が……」


「そ、そうよ!! 私はフィオと結婚するの!! そ、その、赤ちゃんもコイツと作るわ!!」


「ちょ、あの――痛っ」



 俺が何か言おうとすると、リタが思いっきり踵で俺の足を踏みつけてきた。


 あ、はい。余計なことは言いません。



「そ、そういうわけだから!! だから私のことは諦めなさ――」


「まさかもう、解決策が見つかるなんて」


「は? え? それってどういう……?」


「流石は姉様。私では思いつかないことを平然と思いつく。そこに痺れる憧れる」



 多分、リタは俺と付き合ってると嘘をついてアメリアの子供を作る云々を断ろうとしたのだろう。


 しかし、事は意外な方向に向かった。


 アメリアはリタと反対側の俺の腕に抱きついて、リタほどではないが、大きなおっぱいがむにゅっと形を歪める。



「フィオが姉様と赤ちゃんを作るなら、姉様を穿ったイチモツで私とフィオが赤ちゃんを作ったら間接的に姉様の赤ちゃんを孕むようなもの」


「あ、これダメですね、リタさん。多分アメリアさんって自分に都合のいい解釈をしちゃうタイプです。無敵の人です」


「え、えぇ……?」



 そのあまりにも突拍子のない、常人が思い至らないような発想はリタをフリーズさせるには十分な破壊力だった。


 そして、その間にもアメリアは行動する。



「ん。フィオ、見ての通り私は可愛い。姉様ほどじゃないけど、身体もエッチ。当然ながら姉様とは姉妹」


「う、うん?」


「私もフィオの恋人にして、姉様共々遠慮なく可愛がってほしい」


「!?」



 え、何そのご褒美みたいな展開!?







―――――――――――――――――――――

あとがき

どうでもいい小話


作者「嘘から始まる恋、いいと思います。そのままずぶずぶの関係に……」


フ「ちょっと黙って」



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