第2話 送別会

 その日もマガミは変わらない日々を過ごしていた。


「マガミィ!ちゃっちゃとやれよぉ。」

「ちゃっちゃとやってますって!?」


 何も変わらない日々だ……いつものように倉庫の荷入れや運び出しをヴィークと共にこなす。


 この作業にも慣れたものだ。なにせ、父が死んでからマガミはずっとこの場所で仕事をさせてもらっていたのだから。


 故に、作業員の皆ともかつてから知っている仲、マガミからすれば第三の父親のような存在だ。


 ヴィークは、慣れた手つきでドローンに荷物を運び入れ、次々と山盛りになる荷物をドローンで倉庫へと運ばせる。


「今日は最速で終わらせるぞぉ!でねぇと夜の祭りに遅れちまうからな!」

「「「はい!」」」


 夜の祭り……それは、イチカの送別会だ。村一番の若者が村からさると言う事で、ここは派手に送別会をと言うのが皆の意向らしい。


 無論、マガミもそのつもりだ。いつ会えなくなるのかも知れないのなら、思う存分笑って見送ってやるのが本望だ。


 マガミ達は、いつもとは比べ物にならないスピートで仕事を済ませる。いつもこのくらいのスピードでやればいいのに……何時もは手を抜いている証だ。


 若しくは、祭りの時だけ作業能力が向上する魔法にでもかかっているのか?だったなら面白いことだが。


 すると、現場監督のリディがマガミへ声をかけてくる。


「マガミィ!そう言えばお前、イチカの嬢ちゃんとは何処まで行ったんだよ!」

「何処も行ってませんよ。」


 リディの勘ぐりに、マガミはサラリと返す。イチカとは幼馴染だ、無論友人として大切な人間だとは思っているが、それ以上もそれ以下もない。


 すると、リディはやれやれと言わんばかりに肩をすぼめ、他の仕事仲間もこれだからマガミは、とか失礼なことをつぶやく。


 マガミも流石に黙ってはいられずに、目を細めて呟く。


「……なん、なんすか。」

「マガミィ、お前なぁ……イチカのお嬢ちゃんは街に行くんだぜ?街ならイケてる男なんて5万といる。そんなどこの馬の骨とも知れんやつにイチカが取られていいのかぁ?」


 ニヤつきながらそんなふうに言葉を発するリディ。しかし、マガミは軽く肩を窄めて呟く。


「イチカが認めた相手ならいいでしょ。」

「お前……マジか。」

「あんないい女の子と居て何孤高の男ぶってんだよ!」

「カッコつけ!イキリ!中二病!」

「だぁれが中二病じゃぁっ!?」


 マガミも作業員から言いたい放題言われて、苛つきながらヴィークから飛び出す。


「言いたい放題言いやがって!イチカとほそんなんじゃ無ぇって言ってんだろ!」

「そんなんじゃねぇやつと普通は飯は一緒に食わねぇんだよ!」

「そんなの人によるだろうが!」


 言い争いながら作業員と揉みくちゃになるマガミ。とは言っても荷入れ作業をその身一人でやっている本職の方々に筋力で勝てるはずもなく。


 マガミは逆は全員に組み付けられる。


「いででで!?」

「おら!マガミ言え!具体的に恋バナを言え!」

「それが目的かあんたら!?ねぇよ、ねぇよんなもん!」


 この後、近くを通りかかっか農家のハゼのおばあちゃんに救助され、俺はなんとか助かった。


 作業員の皆んなは村で一二を争うほど怖いハゼのばあちゃんの説教を受けてくたびれた姿で発見されたという。






 時間は過ぎて、夜。村はすっかりお祭り騒ぎの装いだ。色鮮やかなライトが殺風景な村を彩ってくれている。


 出店が立ち並び、皆が思い思いの商売を、思い思いのひとときを過ごしている。


 マガミもまた同様だ……しかし、どうやらマガミの一時は少し慌ただしいもののようで?


「あん?どこ行ったんだイチカの奴?」


 マガミが探しているのは、祭りの主役とも言えるイチカだ。先程から祭りの会場を行ったり来たりして探しているのだが、一切見つからない。


「マガミくん。」


 すると、背後から大人の声が聞こえる。マガミはそっと振り返ると、そこにいたのは180cmある男性だ。この人はイチカの父、カルラ・バーバラヤンだ。


「親父さん。イチカが見つからなくて……」

「あぁ、イチカなら君に会いに行くと君の家に向かったが……入れ違いだったか。」

「はぁ……」


 全くイチカは……勝手なことをしてくれる。まぁ、場所さえわかれば後は迎えに行くだけだ。マガミはカルラに頭を下げる。


 すると、カルラはマガミへひと声かけてくる。


「マガミくん。君は本当にいいのかい?その……街に出なくて。」


 カルラはそう言って目を細める。カルラは村……いや、街に出ても通用する資産家だ。そして、マガミの父、ゴウとは幼馴染の関係でもある。


 だから、色々と世話を焼いてくれた……マガミに取っては第二の父親と呼べる存在だ。故に、当初カルラはマガミもイチカと共に街へと学生として送るつもりだったのだが……


「以前断ったとおりです……これ以上親父さんの手を煩わせたくない。」


 マガミ自身が断ったのだ。これ以上世話をかけたくないと、ここでの生活が気に入っているからと、そんな理由で。


 カルラも初めこそ少し強気に出てみたが、想像以上にマガミのこの地に残る決意は固かったようで、カルラの、方がおとなしく折れることにしたのだ。


 それをまた蒸し返すとは……カルラは、自身も面倒な大人になったものだと苦笑する。


「そうか……いや、大人が余計が気遣いをしてしまった。済まないな。」


 そう言って、カルラは微笑む。マガミは、カルラの方を振り返って笑顔で微笑みかける。


「親父さん。これからも、お願いしますね……友人として。」

「……あぁ。」


そう言ってマガミは一礼すると、スタスタとその場から立ち去った。その後ろ姿を見送りながら、カルラは空を見上げる。


「……ゴウ、お前の息子は真っ直ぐに育ちすぎだぞ。全く……」


 マガミはゴウを反面教師としているのか、昔から真面目な子だった。いくらカルラが支援しようと言っても、自分の生活は自分で栄えたいからと、なるべくその支援を受けなかったのがマガミだ。


 大人びていると言えば聞こえはいいが、子供気はあまり見られなかった。逆に、イチカの方は子供気がありありだったから余計にマガミの大人びている部分が目立つ。


 カルラとしては、イチカから悪い虫を追い払う意味でもマガミを街へイチカとともに向かわせたかったのだが……ああもこてんぱんに断られては仕方があるまい。


 しかし、マガミはこの地で終わるような男ではないともカルラは思っている。これは、他でもない資産家の感……と言うやつなのだが。


 ……まぁ、それもこれも亡きマガミの父の影響だろう。カルラは、ゴウが息子たちに残した影響を憂いながら、ライトアップされた村の道を見つめるのだった。

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