第2話 出発

唖然としているエリックにお構いなしにジルは言う。

「その魔力核コアの力は覚えていないかな?」

エリックは弱々しく首を横に振る。


想定内と言わんばかりにそのまま話を続ける。

「だったら試してみるしかないね、外に行こうか。」


言われるがままに部屋を後にし、ジルについていく。

グラムもやっと動けるのが嬉しいのかはしゃいでいた。


部屋を出て目にしたのは、切り立った崖に囲まれた噴火口のような地形にある村落だった。

アキ村は田舎村だとジルが言っていたが、周りには本当に何もない。


ジルとグラムは何人かの村人と言葉を交わしながら歩き続ける。ひたすらそれについていく。


「この村に住んでいるのはほとんどが年寄りなんだ。

 何年か前まではもう少し活気があったんだけどね。

 王国の君主制が崩壊すると同時に多くの人が村を出て、今ではこの有様さ。」


ジルの背中が少し寂しそうに見えた。


「それでも商人は来てくれるし、食糧は自給自足でやっていけるから物資には困らないんだ。けど」

足が止まった。


「昨日の地震で村唯一の出入り口が瓦礫と土砂で塞がれてしまったんだよね。」


視線の先には、往来が不可能なほどの瓦礫、土砂が積み重なっていた。


「ゴーレムに手伝ってもらえば、どかすことは可能だけどかなり時間がかかりそうでね。」

「そこでだ、エリックの魔力核コアの試運転も兼ねて役に立ちそうな力なら手伝ってほしいんだ。

 君にとっても悪くない話だろ?」


その通りだ。いつまでもこの村にいるつもりはないし、なによりもジルとグラムには助けられた。

その恩を少しでも返せるならば、役に立たない力だとしても自分に出来ることはやるつもりでいた。


「もちろん大丈夫だ、ただ力の使い方が分からない。」

いきなり魔力があると言われてもあまりピンときていなかった。


「僕の感覚的な話になるんだけどね、魔力核コアに対して力を込めるとゴーレムを作ることができるんだ。」

「あとこれは、もしかしたらなんだけど、エリックが記憶を無くしているとしても身体が覚えているなんてこともあるんじゃないかな?」


確かに、この魔力核コアが俺の物なら記憶を無くす以前は使ったことがあるはずだもんな、

ジルの言っていたことを参考に試してみよう。


「それじゃ僕とグラムは少し離れているからね。」

そう言ってそそくさと離れていった。


魔力核コアを右手に握りしめ、期待と不安を半々に力を込めるように意識してみる。

すると、右手が光だした。

本当に力が使えることに驚いているうちに、その光がみるみる大きくなっていく。


初めは拳が光る程度だったのに光の範囲は球状に大きくなり続け、あまりの異質さに訳もわからず右手を掲げた。


当然のように光はとどまることなく大きくなり続ける。

ついには全身が球状の光に包まれる、ビビって閉じた目を開ける。


身体に変化はない、どうやら光自体に害はないようだ。だが、大きくなり続けている。


どうすればいいんだと困惑していると光の拡大が止まった。

ホッとすると同時に何も起こらないことに不安になる。

あれこれ考えてもわからない、何も考えずに身体の動くままに任せよう、観念し自暴自棄になる。


掲げていた右手が瓦礫に向けられる、さらに右手の親指と人差し指が立つ。身体が自然に動く、こうやって使うんだと言わんばかりに。


すると、光が人差し指の先端に移動し圧縮されていく。


後ろからジルが走ってくる音と声が聞こえる。

「それはマズい、やりすぎだ!」


「え?」

後ろを振り向くと同時に右手が振り上げられ、圧縮途中の光が放たれる。


その光は地面を抉りながら瓦礫に向かって一直線に進んでいく。そして、瓦礫に命中した。

その勢いは衰えることなく直線を進み続け、瓦礫のあった場所にはなにも残っていない。

それどころか、その先の道や木々を削り飛ばしながら進みやがて力を無くしたのか霧散した。


エリックは力が抜けたように気を失った。


「まいったな、これほどとは」

ここまでの破壊力がある魔力核コアがあること。

これだけの魔力をエリックが扱えること。

ジルの常識において全てが規格外だった。


「グラム、エリックを運ぶの手伝ってくれ。

 一旦、診療所に戻ろう。」


「分かったよー」


僕はとんでもないものを拾ってしまったのかもしれないと乾いた笑いを漏らした。

エリックは軽視できるような存在ではない、

王国のパワーバランスなど容易に壊せるのだから。




目が覚めるとそこは見慣れたベッドの上だった。


「パパ、起きたよー」

グラムが叫びながらジルを呼びに行った。

この光景を見るのは2度目だ。


バタバタ走ってくる音が聞こえる。

「夜のうちに起きたね。何があったか覚えてるかい?」


「魔力核コアを使って気を失ったと思う。」

今回は確かな記憶がある。


「そうだね、おそらく魔力を使い過ぎてしまったんだろうね。」

ジルは頷きながら言う。

「毎回力を使うたびにこうなっては困るから、エリックは力の使い方を身に付ける必要があるね。」

「そこでだ、王国に行ってみないかい?」


突然の提案に驚きながらも答える。

「王国に行けば力の使い方が身につくのか?」


「絶対とは言えないけど、僕よりも教えるのが上手い人がいるから。それに王国に行けば記憶の手がかりもきっと集めやすくなると思うよ。」


行くあてもなく彷徨うよりはその方が良さそうだな。

「村に止まるのも悪いし、そうしよう。

 手がかりで思い出したが、ジルはフランシアって場所に心当たりはあるか?」


「フランシア?そんな地名あったかな?

 ごめん。僕じゃ分からないや。」


ジルが知っていれば話は早かったが仕方ないな。


「あ、王国に行くなら専門家に頼むように口利きしておこうか?」


「そんなことができるのか?」


「うん、なんといっても僕は賢者だからね!」

胸を張って誇らしそうにしている、

「わたしも賢者なんだよー」

グラムも真似して同じポーズをしている。


「なにか分からんけどできるなら助かる。頼む。」

自慢のようだったがリアクションの薄さに2人ともガッカリしている。


「今日はもう遅いし明日の朝になったら王国に向かおうか。」

「それじゃ、おやすみ」

そう言うと、ジルとグラムは別の部屋に移動した。


今日だけでいろんなことがあった。

まだ思考が落ち着いていない感じがするが、やることは決まってきた。

魔力核コアを制御できるようになること。

フランシアについて調べること。

そのために王国に行くこと。


考えだすとキリがない。

ともかく、明日の出発に備えて寝よう。




「朝だよーー」

グラムの凄まじい声量で起こされる。


「おはよう、元気だな。」


「おはよう、グラムはいつでも元気だよー」


「よし、みんな集まったね。」

「それでは王国に向かって出発!」

「と、いきたいところだけど、僕はこの村に残るね。」


「「えぇーーっ」」


「地震もあったし、今の状況じゃこの村を離れられないからね。

 そのかわり、この手紙をライラに渡してくれるかい?」


「おつかい!?グラムおつかいできるよー」


「じゃあ、グラムにおつかいを任せたよ。」

「というわけでエリック、グラムのこと任せたよ。」


「!?グラムと2人で行くのか?」


「うん」

「あ、王国までの地図も渡しておくね。」

「ちょっと遠いかもしれないけど気をつけてね。」


「それじゃー、行ってきまーす!」

「エリック、はやく行くよー」


「待てよ!」


そんなこんなでグラムと2人で王国に向かうことが決まってしまった。

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