第7話 影、もう一人の私と私の前世。

もう一人の私。それは影と呼ばれたり、時には自身の前世かもしれない。


今回は「Liliy」《リリィ》と言う、繰り返し現れる「もう一人の私」について語ります。


「Liliy is myGod!」そう告げるのは十九歳で火刑にて処刑されたジャンヌ・ダルク。リリィとジャンヌはドンレミ村からの親友だった。


それはただの作られた記憶なのか。それともそうあって欲しいと言う願いなのか。


きっかけは友人に紹介された少女漫画を読んだ事から始まった。


韓国に飛行機で帰る主人公が、日本にいる友人に飛行機の中から窓を開けて手紙を渡す。非現実的だ。ありえない。おかしい。


しかしながら、少女漫画ではそれは現実に起こっている。


主人公の設定が、現実にさせている。紙を自分の意思で、自由自在に操れる。

かつ、主人公は百年に一人の逸材。ずば抜けた才能の持ち主。

それが、この少女漫画の設定。(作品名:read or dream R.O.D 原作倉田英之 作画綾永らん。ウルトラジャンプにて掲載 集英社)


ジャンヌにとって、リリィが目の前にいたのは非現実的な事であり、奇跡だった。


それもそうだろう。元フランス人だった親友が、イギリス領にどういうわけか、いたのだから。


ジャンヌ・ダルクの処刑にはオレルアンを追われ、恨みいっぱいの司教が主催者だ。


裁判の文章、わざわざ復刻版を手に取って読んだが、悪意の塊だった。


ジャンヌ・ダルクは無実の罪で、殺された事がハッキリと理解できる内容だった。


裁判の間、ジャンヌ・ダルクは「ラピュセル」(小さなジャンヌ)とバカにされた呼ばれ方を始終されている。


そして火刑を避けるために(火刑はキリスト教信者にとっては、直接ゲヘナ(地獄)へ落ちるため最も忌避する処刑方法だった)一度は司教の言っていた事を受け入れ、男装も辞めた。その翌日にそれらを撤回し、また男装し、受け入れていた事も全部拒絶した。ここは色んな推測ができるし、謎な部分でもある。


こうしてジャンヌは火刑に自らの意志で立つ事になった。


歴史書では、ジャンヌは神への信仰を取り戻し、家族の事を思い出しながら死んだと、描かれるものが多い。


アニメ、漫画では・・・ジャンヌは世界を呪い、神を呪い、人間を呪い、火炙りに苦しみ、絶望しながら死ぬ姿を描かれている作品が多い。


歴史書と漫画で、極端に分かれるジャンヌの死に様。


どちらなのか?


それはもう一人の私に確認するまでも無く、歴史が教えてくれた。


たった一人の少女の死が、時の大公爵の心を揺り動かし、国王と和平を結ぶきっかけを作った。


イギリス王家と繋がっていた大公爵は当時のフランスの三分の二の領地を持っていて、当時のフランス国王シャルル七世は三分の一だったのだ。


戦況は圧倒的に不利だった。何故ジャンヌの死が大公爵の心を揺り動かしたのか。


ジャンヌの処刑を取り仕切っていたのは司教だが、その場を提供したスポンサーは大公爵だったのだ。


つまり、大公爵はジャンヌの処刑の見届け人だった。


これを発見したのは、フランス皇帝にもなったナポレオン・ボナパルト。


彼の発見により、ジャンヌ・ダルクはフランスの救世主として爆発的な人気を得る。


それから、ジャンヌ・ダルクの死後、500年後。


第二次世界大戦後、法王によって、救世主では無く、聖女と認定される。


話を戻す。


ボクはリリィが見せてくれるジャンヌの死に様が、真実だと思うように思えた。


どうして元フランス人だったリリィはイギリス領、大公爵の領地にいたのか。


もう一人の私、リリィによると


修道女をしていたが、大公爵の愛人か、何かになったのか、孤児を預かる孤児院の経営を任されて移り住んでいたようだ。


孤児院では、大公爵と自分の子ども(愛人だったようだ)。長女、長男、次女の三人の子を一緒に育てたようだ。


かつ、長女と長男はそれぞれ家庭を持ち、独立して行く。


次女だけは一ヶ所にとどまらず、旅をしながら雇われ、人生を過ごしたようだ。


どちらにしても、もう一人の私、リリィは胃癌で、夜中の二十二時頃。


椅子に座ったまま、暖炉に当たりながら、大きな黒い狼を見て

「やっぱりあなたが迎えに来たのね。ジャンヌ、ごめんね。わたしはゲヘナへ行くわ。守ると言ってくれてありがとう」


と言うボクにとっては意味不明な記憶だ。


ただ大きな黒い狼が「クロちゃん」だと言うことはすぐにわかった。


このすぐ後に、リリィがジャンヌの処刑場の土をこっそりと川に流している映像が見えた。


「私があなたを守るから」と、聖霊せいれいとなったジャンヌがリリィに声をかけていた。


こういう記憶が一度では無く、何度も


繰り返し再生される。


前世とは?もう一人の私とは?


本当に意味不明だ。


冒頭に戻る。「Liliy is my God!」

火刑台で


リリィを見つけたジャンヌは奇跡としか思えなかっただろう。


敵国の地で


どう言うわけか


親友に巡り会えたのだから。


リリィは転倒していた。ただ異国の魔女を見てやろうと近所の人間と一緒に来ていただけだったのに。いざ来てみれば


自分から走り出し、ジャンヌに近づいて、足をもつれさせてこけた。


顔からこけた。


泥だらけになりながらも起き上がり、ジャンヌを見た。


距離的に声は聞こえずとも、唇の動きを読んだ。読唇術はジャンヌとの遊びの中でよくやっていたからだ。


「Liliy is my God!」


そう、読み取れた。


リリィも唇だけでジャンヌに何か返答したようだが、そこはまだ分からない。


ただその後、リリィは大公爵に呼び出されている。


大公爵はジャンヌ・ダルクが、そなたの名前を読んでいたと、言われた。


リリィは素直に答えたようだ。「ええ、そうです」


「昔の知り合いなのか?」と、大公爵は聞く。


「親友でした。今も昔も」


「・・・・・・知らなかったとはいえ、すまない事をした。今月の寄付は多めに渡す」と、大公爵は言ってきた。


大公爵にとって、リリィとはどういう存在だったのか。


愛人であり、自分の良心の呵責かしゃくを慰めてくれる存在だったのかもしれない。


話を戻す。ジャンヌ・ダルクは敵国の地で、「親友」に出会うという奇跡を体験し、死んでいった。


まさに歴史書にある通り


ジャンヌ・ダルクは神への信仰を取り戻し、親友と奇跡的に出会い、家族の事を思い出して死んだ。


奇跡に感謝し、神に感謝し、火刑で苦しむ事も無く。


これはリリィの記憶。それはボクの願いなのか。


作ったものなのか。


それでも何度も繰り返される、この記憶を語る。


火をつけられ、すぐにジャンヌは二人の兵士から心臓と肺を槍で貫かれる。


即死だ。


その上、火は五分経過したぐらいで消される。


煤(すす)のついた囚人服を剥ぎ取られ、裸にさせられる。


ジャンヌが神の使いでは無く、ただの人間だった事を強調するために。


司教の悪意そのものだろう。


その姿のまま数時間放置され、完全に焼かれた。


焼け落ちた灰は兵士たちによって集められ、川では無い場所へ捨てられた。


リリィは灰の無くなった場所にわざわざ出向き、その土を持って帰り、川に流した。


その時だ。ここで繋がる。


聖霊としてジャンヌ・ダルクがリリィの前に現れる。


リリィは涙を流していた。ああ、あなたはちゃんと天国の門を叩いていたのね。


そう安心したようだ。


その上、「私があなたを守るから」と、言われた。


さぞ嬉しかった事だろう。


ただ自分には。ボクにはこの記憶が意味するところは全く理解できないままだった。


ジャンヌともう一人の友人の物語は何度か小説にした。


二人はどんな少女時代を過ごしたのか。


どんな事で喧嘩したのか。


信仰に関する事だったのではないか。


そう、想像しながら、物語を描いた。


そもそも前世とは何なのか。


どうしてこんな記憶がよみがえるのか。


もう一人の私は歌うのが好きだった。歌うのは、今のボクも大好きだ。


前世を紐解くワークを学んだおかげで、自分の前世はどんなものだったのか。


自分なりに紐解く事ができた。


それは何の役に立ったのか。


六百年以上前から・・・クロちゃんが見えていた事は何を意味するのか


はっきりと理解できた事は


驚くほどボクは


食べ物に意地汚く、貪欲で、暴食だった事が何も変化していない。


もう一人の私。


良くも悪くも黒き狼こそが、私そのものなのだと結論づけている。


そんな私をジャンヌは「私が守るから」と、言った。


あの時すでに。


ジャンヌは大いなる何か。目には見えぬ大いなる何かと


同一の存在になっていたのかもしれない。


そう思えるようになる。


こんなもう一人の私こそ、救いの対象。


そう、言ってくれていたのかもしれない。


リリィは、もう一人の私なのかもしれない。


そして彼女が教えてくれる事は


最後の最後に出会うのは


押し込めていた負の感情そのものであり


迎えに来てくれたのは、やっぱり


大きな黒い狼だった。


だからこそ。


もう一人の私と


手を繋ぐためにも。


ジャンヌのような、大いなる何かを


味方に。


認め合って


影、もう一人の私と手を繋いで。


そう、ジャンヌに言われているような。


「私があなたを守るから」


ずっとずっとずっと。


そう言われ続けているような。


目には見えざる神の手に導かれているような。


前世は確かに意味不明な記憶だった。


それでも。


それは


もう一人の私を


影を理解するためにも


影と共に歩くためにも


大いなる何かに頼るためにも


目には見えない大きな力に頼るためにも


必要な出来事だったのかもしれない。


ボクのように前世を思い出す人はごく稀だとは思う。


もしもあなたが


ある日、突然。


前世?


と、思えるような事があるなら。


何度も繰り返される自分では無いが、自分としか思えない記憶


そんなものに出遭った時の参考にしてほしい。


それは何か意味がある。


大いなる何か。目には見えない大きな流れを教えてくれているのかもしれない。


過去世の失敗を繰り返して欲しく無いのかもしれない。


もう一人の私。


それは時として影であり、前世の自分かもしれない。


もう一人の私も、あなたであり、あなたの隠れたメッセージ。


あなたの幼い心。


どちらにせよ


目には見えない力に導かれている。

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