第2話 ボクの影との出遭い、クロちゃんと呼ぶまで
影との出遭いは・・・二十四歳頃だった。近づかない。話さない。取引しない。
それを守っていた。いや、それしか他に方法を知らなかった。
祈りを捧げても、どんなに振り払っても、黒い影はどんどん巨大になって行く。
もうどうしようも無い。このまま影に喰われて、犯罪者になってしまうのか。
その影が、JRの駅を飲み込むぐらい大きくなった時。
ボクは運よく瞑想の本に出会った。
早速、迷わず瞑想をした。
本に書いてある通り、呼吸を整えて、宇宙のシンボルとしてゲーム知識で好きだった世界樹をイメージした。
そう、何かをイメージしなさいと、書かれていた。その瞑想の本は当時流行していた新興宗教団体が出版していた本で、今は全く関わっていない。
それはいい。とにかく
呼吸を整えて、黒いモヤを息と共に吐き出して、どんどん吐き出して、息を吸う時は自分の決めた宇宙のシンボルからエネルギーを吸収しなさい。と言う内容だった。
でも無駄だった。黒い影はボクの目の前から消えて無くなる事は無い。
黒い影が消える時はボクが怪我をしたり、事件に遭遇したりと災難が降りかかった。やっぱり、何とかしないと・・・。そう思った。
それとは別に天使が見える日もあった。そんな日は臨時収入があったり、何かといい事が立て続けに起こったりした。
でも、黒い影はやっぱり見える。どうして何だろう。どうして宇宙を信じたり、神様に祈りを捧げているのに、どうして見えるんだろう。
最近はサタンの姿まで見えるようになってしまっている。駄目だ。このままじゃ。
そんな時、もうタイトルも覚えていないけど・・・アメリカの映画に心を救われた。
いや、正確にはこの映画を見てしまった事が、遠回りになるとは思わなかったけど。
その映画の主人公は学者で、とても賢い人で、後に凄い賞を取るような人なんだけど
ボクと同じように影が見えていた。その人の影は幼い少女とか、どこかの国のスパイとか。とにかくそんな感じの複数の影がその人の前に交代で現れる。
その人は影に出会うまでに学者としてある程度成功していて、大学で研究を続けるうちに影に人生を壊されて行く。
スパイの影の事で、存在しない住所に手紙を書き続けてたり、幼い少女に脅されたり、何かをしろと言われたり、または何も言って無くても、現れるだけで怖くなって
他人から見れば理解できない行動を取り続ける。ぶざまだった。
それでもそんな主人公から目を離せなかった。
主人公はある日とうとう子どもを傷つけようとするところを妻に止められ、妻は家を出て行こうとする。だが、その時。影は年を取っていないと言う事実に気づき、妻にそれを伝えた。
そう、見える影は年を取らない。必ず「同じ姿」で目の前に現れる。
影と関わらないために主人公が取った方法は、触覚に頼る事だった。
あと妻と言う理解者もいた。
触覚で感じている事が現実で、見えている影は幻。または何か。
その映画ではそれ以上は知らされないままだった。
影はボクにとって、霊のような存在だと思っていた。
どちらも幻だったのか。ボクの中で「幻」という部分に影響を受けてしまった。
イメージできた事が、黒い影であったり、天使に見えていただけなんじゃ。
そう思えた。
それにまつわる事件などもすっかり忘れ、ボクはそう結論づけた。
そうか。強いイメージを持てば、影に怖がる必要も無い。
黄金に輝く龍をイメージできるようになった。サザンアイズと言う漫画からヒントを得て。
これで大丈夫。これで安心。
甘かった。
黒い影は黄龍の代わりに出てくるようになった。
もう訳がわからない。
自分がイメージしたのは、間違い無く、黄龍のはず。
なのに、目の前には黒くて大きな狼がいた。赤い眼をした怖そうな狼が。
その狼と一緒に黒い髪をしていて、巫女衣装の女性が見え出した。
時間は深夜を回り、死ぬ事を考えた。
霊に憑依されて、死ぬのだろうか。ボクは結局こんなところで。
そう覚悟した。
しかしながら・・・女性は守護霊だった。
頭には「守護霊」と、はっきり聞こえた。
彼女が自分を守って来てくれていた人だったのか。
その日、初めて理解した。
霊はいた。イメージとは「自分」で選べるものではなかったと理解した。
黒い狼は「溜めてきた負の感情」だと守護霊は言った。
そんなバカなとボクは反論する。
こんなに溜めていない。そんなはずは無い。
ボクはもっといい人間の・・・。
だが、実際に黒い狼はボクをじっと見つめていた。
フェンリルと名付けてみた。
フェンリルを見つめていると守護霊と名乗ってくれた女性の霊が動き、黒い化物を抱きしめてくれた。
不思議な光景だった。
黒い化物はみるみる内に小さくなり・・・。
柴犬のような小さな小さな犬の姿になって、尻尾を振って守護霊に懐いている。
「負の感情はお前に何を伝えたかったのか?ちゃんと聞いてごらん」
続けてそう言われた。
守護霊からの言葉を聞いて、どう言うわけか声を出して泣いていた。
しばらく泣き続けて、疲れ果てて、その日は眠りについた。
次の日、黒い化物、柴犬になっていた狼のような化物、ボクの負の感情に対して
瞑想を行なった。
瞑想はノートを利用した。
下記にノートに書いた事を綴る。
黒い線を五ページほどいっぱい書いた。ぐしゃぐしゃの曲線、斜めの線。
その後、うガー。馬鹿野郎。この野郎。愚痴が続く。
これは九ページも書いてしまった。恥ずかしい限りだ。そこまで書いて、認めると言うアクションをやってみようと試みる。
「うがーーー。噛み殺す」と言うメッセージを書いて、指でなぞり、絵を描いたりして、他に浮かび上がる事を待つ。待っていると、新しいメッセージが浮かび上がる。
「あいつら・・・。ボクを馬鹿にしやがって」と言うメッセージをノートに書き留める。あいつらとは、専門学校の同級生たちのことだろう。年齢は七つほど年下の彼らに馬鹿にされた事で腹を立てていたことを理解した。三人組、四人組、その主犯格の相手の顔まで浮かび上がる。それをただ見つめる。そう、静かに見つめるか。意外と難しいな。雑念だらけだ。だが、それでいい。雑念を認めていく。それがWHO(世界保健機関)が認める瞑想なのだ。だから誰でもできる。
主犯格の同級生の顔をおもしろおかしく絵に描く。多分、それがボク流の見つめると言う作業なのだろう。そうやって完成した絵を眺めていると、
「そんな馬鹿にした奴らにさえ、認めて欲しかったのか」と言うメッセージをノートに書く。何だかちょっと悲しくもあり、そばにあったスヌーピーのぬいぐるみを抱きしめた。抱きしめてからそんな悲しい自分を絵にしてみた。ヘンテコな絵だ。
またその絵をじっと眺めた。音楽をかけながら、さらに眺めた。
「認めてくれない事が、さらに恨みの原因に」と言うメッセージをノートに書いた。
そこで笑ってしまった。
さらに質問をする。「つまり、認めてほしかった。そんなどうでもいい奴らにさえ、認めて欲しいほど、愛に飢えているのか、ボクは」
それもノートに書き留める。
それを読み返す。当時のボクはその瞑想の結果を見ながらさらに一枚の絵を描いた。
黒くて赤い目をした狼が仏さんに頭を撫でてもらう絵になった。それを眺めていたら目の前のフェンリルが笑った。それが今ではクロちゃんと呼んでいたりする。この時から影は、もう一人の自分なのかもしれないと、思うようになった。
ちなみにこの瞑想。六時間かかった。六時間かけて、自分の影を理解しようとした。
影を理解する過程で、何らかの作品が生まれる事はある。
影との葛藤をそのまま小説にしている作家さんも現実にいる。
影とのやり取りを結果として楽しんで欲しい。
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