第3話

 沙那恵と私で猫のマスコットを作り、折角だから鞄につけたいとはしゃいで、首輪のように金具をつけた。そのまま互いのスクールバックにつけて写真を撮った。2人で作った、この世に二つしかない赤い猫のマスコットは親友の証だった。

 作り終わってからしばらくしたある日、沙那恵のスクールバックにキーホルダーが付いていなかった。その日のことをよく覚えている。もしかしたら満員電車で取れちゃったのかもしれない、それとなく理由を聞こうとしたが素っ気ない態度を取られた。まるで私の言っていることが聞こえてないようだった。キーホルダーがないことよりも、初めてできた高校の友人に無視されたことが辛かった。沙那恵の変わりようは私に何か原因があるのか、キーホルダーがつけていないことも私が原因なのか、答えが出ないことをぐるぐる考えるようになり、沙那恵とは話さなくなった。


「私が難聴になった時より前だっけ?、一緒に作ったの」

沙那恵があっけらかんと話す。

「難聴になった後だよ」

「そうだそうだ、あの時はほんとごめんね。」

「いきなりなったことだもん、仕方がないよ。」

「ほんと家出てよかったわ。あのままだったらほんとに難聴になってたかもね」

 沙那恵の両親は躾が厳しかった。毎週末に友人と遊ぶのが気に障ったらしい。私と遊びに行って帰った後、勉強のノルマが課せられ深夜まで見張られながら机に向かっていた。その後門限やら塾やら、学校以外には自由時間がないようにさせられていたらしい。

「私がたくさん遊びに誘いすぎたのも悪かったし」

つい、詫びるようなことを言ってしまう。あの時、会話が成り立たなかったのは無視しようとしたからではなく、ストレスによる突発性難聴で聞こえなかったからだ。もう少し沙那恵の置かれている環境を考えていれば何か変わったのではないかと、今でも思っている。

「あたしは誘ってくれて嬉しかった、赤猫もあったしね。今も玄関に飾ってる」

あの時、キーホルダーをつけていなかったのは、両親が捨てようとしていたからなのだった。誤解が解けたのはキーホルダーをつけなくなってから半年後、沙那恵から話してくれた。

 その後、また食事に行こうと約束をして通話を終えた。今日みた過去の私は、もしかして話さなくなった最中のなのかもしれない。だからといって今の私の前に現れた理由はなんだ?

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