【詩】水面を流れてゆく君

菊池昭仁

水面を流れてゆく君

 忘れたことなど一度もなかった


 君を忘れることなど 出来やしない



 君に会えないこの切なさ 君の髪に 手に触れられないこのもどかしさも 僕は耐えてみせる


 君が好きだったジンライム 僕はこっそりミントを浮かべる


 クラッシュアイスが溶けてゆく 僕たちのように



 満月の夜 一夜だけ咲く花のように


 君は水面みなもに落ちてゆく儚い華



 君に降り注ぐ銀の雫 月の泪


 煌めいて 煌めいて



 僕は君を救うことができず ただ流れて行く君を見ている



 僕は臆病な男だから 美しく流れて行く君を穢すことが出来ない


 僕は君を 決して忘れはしない


 流されて行く 君に話しかけることもせず 触れもせず


 小舟に乗って 君と時の川を流されてゆく



 「愛してる」なんてそんな安いセリフ 僕の台本には書かれていない



 月夜の沈黙 落ちていく花々


 煌めいて 流されて



 これでいい これがいい


 美とは滅んでゆくこの瞬間にこそ存在するのだ



 月光に輝き 水面に浮かび 流されていく君と僕


 『月光』はベートーヴェンより ドビッシーがいい



 水面に沈んでいく 僕の君への想い


 輝きながら 沈下してゆく想い



 愛するが故 愛すればこそ 忘れなければならない恋もある


 愛するが故 愛すればこそ 忘れてはいけない恋がある


 恋愛はいつも 矛盾だらけだ



 愛してはいけない 愛さずにはいられない


 所詮しょせん 男と女はそういうものだ


 恋は辛いものだと わかっているのに 人は同じ間違いを何度も繰り返す


 君を抱いて 今


 水面に浮かぶ君 流されて



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