第16話 ここからやり直しましょう・後編
「ルティ様はどうして《片翼殺し》と呼ばれているのですか? 私を殺そうとしたのはダニエラ様とジェミアン様で、最終的に私の自殺だったかと」
「……この雰囲気で他の男の名前を出すなんて、シズクは悪い子だ」
「ルティ様」
熱の帯びた眼差しを
「……あのままブリジットが自殺したら、『やっぱり呪われた《片翼》だった』だと周りが思いかねない。そしてそれは後世まで語り継がれる可能性があったから『ダニエラが嫉妬のあまり
「ブリジットが死んでから……西の森に?」
「いいや。世界を巡り歩いて、拠点を作るときに西の森のほうが都合も良いと思って用意したんだ。……ここに住んでまだ180年ぐらいかな?」
「ひゃ……」
「君が生まれ変わるまで360年経っている」
「さんびゃくろくじゅう……」
「ふふっ、驚いた顔も可愛い。……君という《片翼》を得たことで私の寿命は飛躍的に延びた。それに君に片方の角を渡したことで魔力回線も繋がっていたから、魔力コントロールも落ち着いたし、魔力毒に侵されることもなかったんだ」
説明している時のルティ様は毅然としてとっても凜々しいのだけど、話し終わると私にべったりでキスをしてくる。嬉しいのだけれど、本当に我慢する気ないのでは?
「他に質問もないなら──」
「ジェミアン様とダニエラ様は……結局どうなったの?」
「……ああ、夢ではその部分は映してなかったか。愚弟は私の代わりに王になって国ために身を粉に働いているよ。愚弟もそこそこ魔力が高かったので、後天的に《高魔力保持者》となった場合、《片翼》と出会っても三年は名前が呼べない、触れ合うこともできないという術式を与えた」
今でも実の弟に対して激怒しているようで、額に青筋を立てているのが見えた。まあ、うん。私も許す気は無いけれど。
「
「あ、はい……(満面な笑みなのが、逆に怖い)」
「他に聞きたいことは?」
「……360年辛いことや悲しいことは、ありませんでしたか?」
「君を失った以上に、悲しいことはなかったよ。それに《片翼殺し》という名は多種族の《片翼》と関わる機会にも恵まれましたし、人族の感覚を肌で感じる時間は悪くなかったし」
「友人はできました?」
「うん。……いつしか《片翼殺し》よりも森の大賢者になるぐらいには、そつなくこなしていたかな。……いつか君と出会った時のために」
「でも私が転生するって……信じきれましたね」
「君が亡くなる寸前に、一度だけ転生する秘術を使ったんだ。私の多すぎる魔力を全て出し尽くして……ごめん。勝手にそんなことをして」
ゴニョゴニョと弱々しい声にドキリとした。普段の凛とした感じから、弱々しのはギャップ萌えだわ!
また一つルティ様の拗らせ具合が見えた気がした。長い時間を掛けて培った知識と経験。そして《片翼》への執着。
「まさか異世界に転生していたとは思わなかったけれど……」
「今思えばこの世界に転生しても、同じような悲劇が起こっていたと思うわ。異世界という特殊な世界で生活して一通りのことが自分でできるようになって、様々な価値観、多彩的な強さ、異世界の知識や経験があったからこそ……。春夏秋冬雫だからルティ様を好きになれた」
「シズク……。うん、気の遠くなるような道のりの果てに、ようやく私たちは通じ合うことができた」
「うん」
回り道だったかもしれなかったけれど、そこには意味があったのだ。そう思えるようになったのは、ルティ様と一緒にいる今があるから。
「……シズク。他に質問がなければ……君に触れてもいいかい?」
「触れ……!? 今も十分過ぎるほど密着して触れ合っている気がするのですが……」
「うん……でも、この夢のような今が、本物だと……思いたいから……」
うう……。そりゃあ、両思いになったので吝かではないけれど、展開が早すぎるというか、性急というか心の準備が……。
「求愛紋を施したい」
「にゃあああああ……ん? 求愛紋?」
「シズク?」
「求愛紋って……ええっと、教会のようなところで誓った?」
「そうだよ。別に教会じゃなくても、双方の承諾があれば可能だけれど……やっぱりまだ怖いだろうか……」
「…………っ」
自分でも驚くほど盛大な勘違いをしていたことに気づき、全身の熱が一気に上昇した。
ひゃああああああああ! な、なんて勘違いを!! 触れたいっていうからてっきり……ああああああーーー! 恥ずかしい!
「……羞恥心で死にそう」
「え? ……ハッ、もしかして私が触れると言ったから、その……初夜的なことまですると……」
「ひゃあああ……わかっていても口にしないでください! 恥ずかしさで辛い……ルティ様、三分前の記憶を捨ててください!」
「嫌だ」
「即答!?」
「……つまりは私とそうなることまで想像して、照れていたのだろう。どうしてそんな素敵なことを忘れなければならないんだ?」
「私が恥ずかしくて死にそうだからです」
「可愛い。絶対に忘れない」
「(このパターンは忘れる気なんてサラサラないわね……。しょうがない。私だけ忘れてしまおう。うん。精神衛生上、大事よね)……って、求愛紋を刻んだら半年以上、ルティ様の名前が呼べなくなるのでは? それに……その魔力炉とか形成するために……その……とにかく私の考えは的外れじゃないのでしょう?」
前世の記憶と、ジーナ王女たちと話していた内容を繋げると私の想像は間違いではないと思う。多分。
危なかった。危うく前世と同じような展開になるところだったわ。いやまあ、両思いなのはいいけれど……夜の時間が長くなり過ぎるのは、抵抗がちょっとある。また器としてしか求められなかったら、前世以上に絶望しそうだもの。
「ん? ああ。本来ならそうだけど、シズクは違うよ」
「ファッツ?」
「私の角を魔力炉として使えるように、術式をかけておいたからシズクとして生まれた時から、魔力炉と魔力回線がある。転生した肉体に負荷が掛からないように体の成長と共にできあがっている。これなら求愛紋を施しても、前世のように名前呼びができなくなることや夜の生活……夜……私としては、シズクの希望を聞く形で構わない。情熱的な夜の時間も悪くはなかったけれど、今の環境を維持できるような昼の時間を大切にしたい」
ルティ様の言葉を聞いて心から安堵した。私と同じように今の生活スタイルを大切にして、考えてくれていたのだと分かると不安など消えてしまった。
その日、私は心からルティ様の《片翼》として、求愛紋を施して貰った。胸元に刻まれた紋様は前世よりもハートに似た紋様が色濃く、そして輝いていた。
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