第15話 ここからやり直しましょう・前編
パッチリと目覚めると部屋の中は薄暗くて、まだ夜中だった。傍には私の手を掴んだままのルティ様が眠っている。その姿にドキッとしたけれど、零れ落ちる涙を見てそっと涙を拭った。
寝顔はあどけなくて、少しだけ幼く見える。眉を寄せて辛そうな姿を少しでも和らげようと目元にキスをして、おまけで額にもキスして見た。悪夢が見なくなりますように、と祖国のおまじないだ。
意識共有……?
《片翼》だから魂が惹かれ合った感じなのかしら? ブリジットの時はなかったのではなく……魂が触れ合うほど心の距離が遠かった?
それとも気づかなかった?
色々考えている間に喉が渇いたので、一旦考えるのをやめて飲み物と軽食を準備しておこうとベッドから起き上がった。
「ルティ様、すぐ戻りますからね」
頬にキスをしてそっと部屋を出た。階段側の窓から差し込む満月は、とても大きくて綺麗だった。
カシミロ殿下たちも各々の部屋で休んでいるのだろう。一階には誰もいなかった。大きめの水差しに檸檬とオレンジそれと蜂蜜とちょっぴりの塩を混ぜる。水分補給にちょうどいいわね。
軽食はどうしよう?
んー、フルーツにするか、チーズとか燻製とか食べられる物……うーん。
キッチンで悩んでいると、カタンと音に振り返る。
「……シズク!」
「ルティ様、目が覚めたんで──ゲフッ」
タックするような勢いで、ルティ様は私を抱きしめる……いやこれ確実に捕獲みたいな感じなのは気のせい……じゃないわね。
「あんなキスしておいて、私を放置するなんて酷い人だ」
「(あんなキス? ……ハッ!?)もしかして起きていたの!? いつから!」
「シズクが涙を拭いてくれた時ぐらい」
「ほぼ最初から!?」
ルティ様はぎゅうぎゅうに抱きしめつつも、どさくさに紛れて頭や頬にキスをしてくる。もはや遠慮もなにもないわ。
「シズクからのキスだよ? そりゃあ気づくよ。寝たフリをしていたら、あんなにキスをしてくれるなんて思わなかった……。でも現実だって実感したら、嬉しすぎて、夢じゃないって確認したくて部屋で待っているのができなかった……他のことなら我慢できるのに、シズクのことになると私は……自分が上手く制御できない」
「んー、制御する気がないとかではなくて?」
「違うよ。これでも結構我慢しているんだ」
テンションは高いし、明るい口調だけれど、ルティ様の指先は震えたままだわ。
私が生まれ変わるまで、ずっと待っていた……あの光景は十六年どころじゃない。そのことも気になったけれど、怖がっているこの人の不安を取り除くのが先だわ。
「約束した通り、勝手に居なくなったりしませんよ」
「……っ、本当に?」
掠れた声に泣きそうになる。
「はい。……ルティ様はルティ様で、一人で無茶しないで、私に相談してくださいね?」
「うん……。するよ……君とずっと……寄り添って、他愛のない話をして、一緒に食事や散歩して……暮らしたいって願っていたんだ」
コツン、と額を合わせるルティ様はポロポロ涙を流しながら笑った。鼻先が触れて吐息が掛かる距離で、唇にキスしようとするルティ様の唇を片手で覆って防いだ。
「
「今キスしたら、水分補給がだいぶ先になる予感しかしなかったので、まずはグラス一杯飲みましょう」
「ここは完全にキスの流れだったのに……。酷い」
「じゃあ、触れるだけのキスで止まりました?」
「無理」
即答である。私は脱力しつつ二人分のグラスに柑橘水を注いだ。
「はい。ルティ様もたくさん泣いたのですから、ちゃんと飲んでくださいね」
「うん……。シズクとのキス……」
落ち込み方がおかしいのだけど……。チラチラと目配せをしているので、全力で無視しても良かったのだけれど……その場合180%の確率で、凹む気がする。現在進行形でかなり拗らせているし……。
「ルティ様」
「……ちゃんと飲むから──ん」
不意打ちのキス成功!
あ。面白いぐらい固まっているので、チュ、チュ、と唇にキスを試みる。今世でのファーストキスはもっとロマンティックな感じを夢見ていたけど、こういうのも悪くないわよね。
そのままリビングのソファに水差しごと持って移動する。ルティ様は固まっていたけれど、すぐに追いかけてくると思い、座ってからグラスに口をつけた。
達成感を味わいつつ、柑橘水を口にする。ヒンヤリして、ほどよい蜂蜜の甘みと檸檬とオレンジの味わいが美味しい。もう一杯飲もうと水差しに手を伸ばしたのだが、その手をルティ様が掴んだ。
「シズク」
「ルティ様もちゃんと飲んでくださいね」
「もう飲んだよ」
耳元で囁く甘い声を、ブリジットは聞いたことがあった。しかも私がルティ様を好いていると宣言して、両思いで過去のことも夢で見たことで謎が解けて──ん?
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