第5話

 その日の夜も、ユタカは広大な校舎をあちこち走り回っていた。


「俺は怪人、サイコ目六男。サイコロの目を6だけにして世界を滅ぼす!」

「意味わかんない。」


 今日も現れる意味不明な使命のもと暴れる怪人を、光の速さで粛清する。


「『ストライクドグマ』セット。【マグナムバレッド】」


 最強の通常攻撃一撃で沈めたあとは、その走りのまま旧校舎の方へ走り、


「俺は怪人、馬牛男。馬と牛を支配して世界を滅ぼす!」

「豚と鶏も支配できたらよかったね。」


 そう言いながら、サイコ目六男を潰した【マグナムバレッド】をその怪人にもたたきつける。


 流れるように殺しているが、どちらもBランクとAランクの強力な怪人である。


「今日はやけに多いわね。」


『昨日少なかった分、今日多くなったのかも。もしかしたらイベント時期かもしれないよ。』


 イベントとは、特定の時期にのみ不定期に発生するもので、MPの獲得量が増えたり、カタログに期間限定の物が追加されたりと様々だ。


「イベントはどうでもいいけど、昨日のガキが気になって」


「俺は怪人、電化製品男。電化製品を支配して世界を滅ぼぶぉおおおお?!」


「今日もろくに居眠りできなかったんだ。」


『じゅ、授業中に寝るのはよくないけど、こんな簡単に怪人を倒すのはユタカだけ……難儀な話だよ。』


 話の途中で一体怪人を処理したユタカは、その流れでA校舎群の屋上に上る。


 正門から最も近く、高等部三年の教室があるA‐9校舎の屋上に仁王立ちするユタカは、次の怪人の出現に備えて回復に集中する。


「俺は怪人。五臓六腑男。五臓六腑を操って世界を滅ぼす!」

「キモ……」


 スプラッタなビジュアルの怪人に嫌悪感を示しながらも、裏拳一発で沈めたユタカは、再度瞑想に戻る。


 しかし、瞑想も回復も中途半端に辞めさせられる。


『PPP!緊急アラート!SSランクの出現感知!』

「SSか、久しぶりに来たね。」

『出現場所はA‐8校舎屋上!すぐそこだ!』


 目視できる範囲に、大きな魔法陣が形成され、その平坦に見える文様から人型の化け物があらわれる。


 今まで出てきた出オチ担当のような怪人たちとは雰囲気も威圧感も何もかもが一線を画す存在感。

 黒い右半身と白い左半身に、髪と目は左右の色が違う、セン〇ーマンのような見た目。

 しかし、その魔力にギャグの要素は一つもない。


「俺は怪人。白黒男。世界から色を取り除き滅ぼす!」

「返り血で染まる戦装束、黄昏に沈む破壊の戦士、バスターピンク、推参!!」


 互いに名乗りを上げ、校舎を跨いだ戦闘が始まる。


「『ストライクドグマ』セット!【ホーミングバレッド】!」


「ふん、『SHIROKURO』セット!【ホワイトシールド】」


 遠隔で自動追尾式のナックルを、白い盾に防がれる。

それも、なかなか手ごたえの無い感じのノーダメージ。


 Cランク以下なら一発で消し炭になる威力をガードされた。


「『ストライクドグマ』セット!【シャイニングバレッド】【ダークバレッド】【ユニゾンバレッド】!」


 遠隔攻撃は早々にやめ、直接殴ることにする。

実は、このコンボだけでSランクを殺した……沈めたこともある。


「無駄だ!『SHIROKURO』セット!【ブラックナックル】!」


 黒い拳と光るメリケンがぶつかり合い、校舎の全体が揺れ始める。

大規模な戦闘の予感、二人ともエンジンをふかし始めている。


「『デストロイイクシード』セット。【ブラッドメルト】」

「『キラーコントラクト』セット。【スパイダーネット】」


 そんな二人の周りに、大量の血色の弾丸と、金貨の雨が降ってきた。


「これは」

「何者だ!」


「過剰摂取と不健康、顔色血の色青くなる。デバフブルー、見参!!」

「この世の全てを買える金。生命の価値は金次第。マネーイエロー、参上!!」


 見ると、A-7校舎の屋上に、昨日戦ったミナトと今朝話したコガネの姿があった。


 そして、ミナトの放った血色の弾丸は白黒男とユタカに深刻な動悸のデバフを与え、コガネの放った金貨は二人の体を屋上に張り付けた。


「コガネ!お前、ミナトと手を組んだのか!」

「そーゆーこと!ユタカはんよりミナトはんの方が金払いよかったん。」


 明らかな妨害行為。

虚を突かれたユタカは、体の動きを著しく欠く。


 Sランク以下との戦闘なら、絶対に食らわなかった奇襲。

白黒男は、一足先にその呪縛から逃れる。


「動けないバスターピンクは放っておいて、先に貴様らからだ。」

「SSランクの怪人。Sランクで100万MPだったんだ。Aランクとの差を考えても、1億まで一気に近づけるはず。」

「ちゃんと報酬、用意してなぁ。危険なユタカと敵対までしたんやから。」


「相談か?余裕だな。『SHIROKURO』セット!【ブラックランチャー】」

「余裕やよ。あんたとユタカ、二人倒すつもりでおるんやから。『キラーコントラクト』セット。【ボルケーノショット】」

「絶対に殺す!『デストロイイクシード』セット。【バレッドレギオン】」


 闖入者二人と怪人の戦いが始まる。

どうする!?バスターピンク!

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