第4話
「で、この女の叶えたい願いって?」
『俺は何も聞いていない。しかし、それが目的で君を襲ったのはたしかだ。』
「黙れ。あんたは私のことをしゃべるな。殺すぞ。」
痛みにもだえていたはずのミナトが、人を殺さんばかりの目で睨む。
その先にはユタカが、それ以上の目で睨み返していた。
「願いを言え、怪人は渡さないが、手伝いはしてやる。」
「はぁ?意味わかんない。怪人倒さないとMPもらえないし」
「殺したい人がいて、道理が通るなら殺してやる。
欲しいものがあって、道理が通るなら手に入れてやる。」
「は?」
「何も言わないなら、何も言わずに帰す。何度来ても返り討ちにする。それだけ。」
有無を言わせないユタカの言葉に、ミナトは意地の通し方が分からなくなる。
「……誰が言うかよ、クソビッチ。」
「『ストライクドグマ』セット。【オールロスト】」
『ちょ、待ちなさい!流石にそれはダメ!』
ただ事ではない魔力を貯め始めたユタカを止めるため、シャコが全身を二人の間に割り込ませる。
その隙をついて、ミナトは窓から外に飛び出す。
いつの間にか魔法少女に変身して、優雅に夜空を駆け、その姿はすぐに見えなくなった。
「あのガキ。次見かけたら殺すか。」
『ダメだって!魔法少女同士の殺し合いは御法度。喧嘩までなら良いけど、殺したら魔法少女じゃなくなっちゃうんだよ!』
「ぶー」
『ぶーじゃない!君の願いのためにも、魔法少女の力は不可欠!それはよくわかっているだろう?』
シャコに言い負けふてくされたユタカは、改めて帰路につく。
まだまだ暗い夜中の町を、一人で歩いていた。
◇◆◇
真寺花縷学園は日本の中で最も大きく最も怪人発生率の高い学園。
日本中様々な場所から発生する怪人だが、真寺花縷学園だけで2割以上を占めている異常地帯。
多い時だと、10体以上の怪人がダースで襲ってくるという災害発生地。
一年以上前は5人の魔法少女が協力しあって戦っていたその学校も、今ではユタカ一人のナワバリとなっている。
それもそのはず、一年前カタログに出現した一つの景品。
それによって魔法少女は互いを敵と認識し始め、競い合うのではなく、蹴落としあうことになった。
それが、『なんでも願いをかなえる権利』
結果として、真寺花縷学園はユタカ一人のナワバリとなった。
ユタカは外敵を一切認めず、魔法少女の侵攻は妨害し、怪人は発生から5分以内に皆殺しにしてきた。
そのため、怪人が学園外に出ることはなく、1年近く異常はなかった。
「ほんでぇ、ユタカはんのナワバリを荒らしたガキってのは、ここの1年やってぇ?」
朝になり、一人教室で机に向かうユタカに話しかけてくる全身が金色の女。
「怖いもの知らずなんか、あほなんかはわからんけど、あたしの情報、買っとく?」
「入学早々なんだけど、そんな情報あるの?」
その女の名前は
ユタカの同級生で、同じクラスの比較的友好的な魔法少女。
ドがつくほどの守銭奴で、金が大好きで金だけが欲しくて魔法少女をやってるかなりとがった性格の持ち主。
もちろん、魔法少女としてのナワバリは隣町にしている。
隣町の学校をナワバリにするという条件で、ユタカはコガネに金を渡している。
それとは別に、金稼ぎの手段として情報屋らしきことや、裏商売なんかもやってる黒寄りのグレー。
ユタカは軽蔑こそしているが、その情報収集能力は買っている。
「ん~、ちょっとだけなら10万、半分くらいなら50万、全部なら100万やね。」
「160万。早く話して。」
「うっひょ!やっぱわかってまんなぁ。ええよええよ。好きやでほんま。」
金の束を渡され、大喜びのコガネ。
金を仕舞いながら、ミナトの話をし始める。
「と言っても、実はあたし、あいつの元商売仲間で、軽く支援なんかしてましてん。」
「商売?」
「ヤクよヤク。あいつ、今まで流通してなかったタイプのヤクを扱うやばいやつで、それはもうぼろ儲け……んふん。ま、いろいろ金が入用なやつやったらしくて、薬学にやたら精通している天才って感じやったよ。」
「薬ね……クソが。」
貧乏ゆすりが止まらないユタカは、それでも静かに話の続きを聞く。
「魔法少女になってからはそのしのぎから手ぇ放したらしいけど、今度はMPがいっぱい欲しくてナワバリ狩りしてるって話やよ。」
「それでうちに来たのか。」
「最近だと東沈太陽中学と蜻蛉中学を自分のナワバリにしたんやって。」
「あのバカ学校と過疎学校か。戦力の方は昨日の奇襲が最大か?」
「メインウェポンはアサルトライフルと、サブウェポンは注射器。毒がメインの子ぉみたいやね。」
そんなことは知ってる。と言いたいユタカだが、それすらコガネの商売の元になりそうだから黙って聞く。
「あーあと、食事が基本嫌いで、サプリで済ませてるらしい。」
「そういうのは良い。気持ち悪い。新しい情報が入ったら言え、10万で買う。」
「お、おおきにぃ。ほんまあたし、あんたんこと大好きやわぁ。……嘘やけど。」
そう言ってコガネは少し遠めの自分の席へと帰っていった。
授業が始まり、居眠りに入ったユタカの脳裏は、ミナトの対策でいっぱいだった。
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