第3話

「私、長宝院ちょうほういんみなと。真寺花縷学園中等部1年。よろしくぅ。『デストロイイクシード』セット。【パラライズバレッド】」


「っ!『ストライクドグマ』セット!【クイックバレッド】!」


 ミナトが取り出したのはこれまた厳ついアサルトライフル。

その細腕では反動で肩ごと吹っ飛びそうなほどの大きさだが、それをエアガンのように乱射する。

 対するユタカは、メリケンサックを軽量化形態にして迎撃する。

50発の弾丸を打ち落とす動体視力と反射神経。

 それでいて、その攻防はただの挨拶替わりでしかないという状況。


「『ストライクドグマ』セット。【ストロングバレッド】」

「ちょぉっ!?『カラミティヴェイン』セット。【フリースタイル】!」


 弾丸を全部弾いたユタカは、そのままミナトの顔面に拳を向けた。

その弾丸以上に素早いストレートパンチを、ミナトは手元に召喚した巨大注射器で受け止めた。


「それがあんたのサブウェポン?見た目と傾向からして、毒や状態異常主体の戦法?」

「な、なんのことだかわかんないっすね。『デストロイイクシード』セット!【バーンバレッド】」


 露骨に焦りながら、火炎を纏った弾丸を撃ち出すミナト。

その不意打ちにも、ユタカはクイックバレッドで迎撃する。


 しかも、魔法少女の肉体強度なら弾丸程度が当たっても大したダメージにはならない。

 それを理解したうえで、ミナトを徹底的にぼこぼこにする。


「真寺花縷学園は私の縄張り。ここにほかの魔法少女は必要ない。怪人はよそで探せばいい。」

「そ、そうはいかないんすよ。真寺花縷学園の怪人出現率は他地域の比じゃない。それをみすみす、一人の魔法少女に独占されちゃ、困るんす。先輩。」


 弾丸と拳の戦いでありながら、拳に軍配の上がるという目を疑う状況。

 そして、ユタカにはまだまだ余裕がある。


「私のサブウェポンすら引き出せないのに、ここの怪人は倒せない。」

「くっ、『デストロイイクシード』セット!【アシッドバレッド】!」


「無駄、魔法少女の拳は壊れない。」


 酸の弾丸すら、ユタカの拳をぬめらせる程度の効果しかなく、ミナトは攻撃手段を全て潰された。


「事情があるなら聞かなくはない。だから、話……」

「うるせぇ!お前のナワバリ、寄越せ!!!」


 対話に移ろうとするユタカに怒鳴り、ミナトは荒々しくアサルトライフルを乱射する。

 魔法少女にとって、周囲への被害は最低限に抑えるのがマナー。

それを、ミナトは軽々と無視した。


『あの子にちゃんと研修うけさせたのか?』

『あ、ああ、72時間の研修を受けて、試験も通ったはずだ。』


 ユタカがミナトの契約精霊のハチに目を向ければ、シャコもハチに批難の目を向けて苦言を呈していた。


「とにかく落ち着かせる。」


『頼んだよ、ユタカ。』


 シャコの言葉にうなずき、ユタカは再び拳を握る。


「『ストライクドグマ』セット。【ブレイクインパクト】」


「うぶぉおおお!!?」


 圧倒的な魔力の籠った拳が、ミナトの鳩尾にめり込み、木々を薙ぎ倒しながら数十メートル吹き飛び、地面をえぐりながら停止した。


 トラックに撥ねられるくらいの衝撃を受けたミナトは当然気絶し、それをやったユタカは拳を天高く掲げて勝利のポーズをとっていた。


『お、おま、えぇ?」

『うちのユタカもこんな感じだった。』


 ドン引きのシャコとハチを残して、ユタカはミナトを担いで校舎の中へと戻っていった。


◇◆◇


「はっ!?っうぅうう!!」


 目を覚ましたミナトは、腹部の鈍い痛みでもだえる。

魔法少女の強靭な肉体と驚異的な回復力をもってしても鈍痛の残る鳩尾には、未だ大きな青あざが残っており、そこから強い痛みが襲ってきていた。


「目が覚めた?あなたが暴れたからちょっと大変だったんだよね。」

「ぐっ、暴力脳筋女……んずぉおおおお!!?」


 悪態をつくミナトに、ユタカの拳が炸裂する。

頭を軽くシバかれただけだが、生身のミナトと変身状態のユタカでは肉体強度に差がありすぎる。


「で、ハチ、このチビはなんで私のナワバリを狙ったの?」

『は、ハチ……み、ミナトは強い資質を持つ魔法少女だ。魔法少女になってまだ数日というのに、サブウェポンまでもを自在に操っている。』


「それは見ればわかる。歴戦の魔法少女にも引けを取らない。」

『それもこれも、願いに対するミナトの執着心の現れ、理解してほしい。』


「理解はできる。『願い』も、私は一年でここまで貯められた。」


ユタカとハチの話の要。

 それは、MPカタログの1ページ目にでかでかと書かれているもののこと。



『なんでも願いをかなえる権利【1億MP】』

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