第2話

 私立『真寺花縷学園』に通う一人の少女。

 八月朔日ほずみゆたかの正体は魔法少女である。

 生まれ持った超人的な身体能力に、魔力によるブーストが掛かる彼女の体は、オリンピック選手も青褪めるスピードで躍動する。


『も〜!いきなり走り出すのやめろよ〜!』


 ユタカにだけ聞こえる声で、ソレは文句を言ってくる。


『魔力まで使って〜!ユタカの正体がバレたらどうするんだよ〜!』


 手乗りサイズの小さなシャコ。

『契約精霊』と呼ばれる『魔法少女』の相棒が彼?彼女?だ。


「……だって、猫が死んだら嫌だし。モンちゃんも言ってたのに、弱いものを救うって」

『いやそこまで直接的な意味じゃないんよ。君が救うのは怪人に脅かされてる人間なんだよ。』


 モンちゃんというのはシャコの名前だ。


彼女らはそれで一つの『魔法少女』。


『PPP!怪人出現!推定Bランク!』

「Bか、めんどうくさいなぁ。」


 夜中の校舎には『怪人』が沸く。

『怪人』にはランクがあり、EからAと、その上のSになる。

 ランクと難易度は同じと思っていいし、ランクが高いと『MP』を沢山放出する。


『A-9校舎の3階!急ぐんだユタカ!』


 『怪人』は出現こそ学校内だが、その後は学校から飛び出して外で悪さをする。

 そのため、出現後即殺が求められる。


「……いた。」


『怪人』のランクは以下の通り。


E(そこまで強くないが運動部員くらいの身体能力がある。)

D(そこそこ弱く、プロスポーツ選手くらいの強さ。)

C(ちょうど中間、銃を持った民間スポーツ選手くらい。)

B(結構強い、某国の精鋭部隊のメンバーくらい。)

A(魔法が使えるヒグマとライオンとワニのキメラ。)

S(県複数くらいは滅びるし、日本も危ない。)


そして、魔法少女はその全てのランクの怪人に対抗できる可能性を持つ。


「『ストライクドグマ』セット。【トリプルバレッド】」


 ユタカの手に装飾のイカついメリケンサックが現れる。

それこそがユタカの魔法の杖。

 『ストライクドグマ』は形状変化ができるスタンダードな魔法武器。

 ユタカの魔法とは暴力そのもの。


「返り血で染まる戦装束、黄昏に沈む破壊の戦士、バスターピンク、推参!!」


カッコいいポーズを取りながら怪人相手に名乗りを上げるユタカ、もといバスターピンク。


バスターピンクの拳は怪人の顔面を捉え、その肉を削り取る。


「ぶぼぇええええ!!?」


断末魔を上げながら怪人はその場で灰になった。

 名乗りを上げたくせに怪人の名前は聞かない。

あんまりな対応。


『PPP!MPを1万8千手に入れた!』


 そして、怪人を倒した『報酬』を手に入れる。


言うまでもないかもしれないが、『魔法少女』は慈善事業ではない。

 

 『怪人』から放出される『MP』は言ってしまえば『万能通貨』である。

 『金』にも変換できるし、カタログから欲しいものと交換もできる。


「今どれくらいMP溜まってるの?」

『1億7856万3652MPだよ。』

「まだまだ稼ぐぞ〜!」


 そして、そのMPを求めて、ユタカは校舎を駆け巡る。


◇◆◇


「『ストライクドグマ』セット。【シャイニングバレッド】」


 いつものように10体目の怪人を殺したバスターピンクは家路に帰る。


 これで一日ワンセット。


普段通りの八月朔日豊の一日。


 しかしその日は、二年生になったからかいつもとは違った。


「こんにちわ〜。ユタカちゃんで良いのかな〜。」

「今の時間は20時半。こんばんはが正しい。」

「ユタカちゃん面白いね〜。ねぇ、これなぁんだ!」


 目の前に現れた非常に不健康そうなチビの女。

目の下には隈があるし、露出の少ない格好でもわかるほどに肉がついていない。 首の角度が定まらないのか、常に首を傾げているし、姿勢も悪い。


 そんな女が手に持っているのは、異様に大きな蜂。

そう、まるでユタカと契約して魔法少女にしたモンハナシャコのような、大きなーー


「あんたも魔法少女?」


 ユタカも、他の魔法少女の存在は知っている。

しかし、その多くは商売敵と言っても良いほど、怪人の討伐を競っている。

 今でこそ落ち着いてはいるが、ユタカの入学当初、真寺花縷学園は魔法少女の戦いで荒れていたほどだ。


「そうだよぅ。私、最近魔法少女になったから縄張りとか知らなくてさ〜。せんぱいに色々聞いておこうと思ったんだぁ。」

「そこの蜂がいくらでも話してくれるでしょ。」

「ん〜でもやっぱ、現場の声って大事じゃ〜ん?」


 目の前のチビは明らかに敵意を持って対峙している。

声には表れない殺意と害意。

 荒れ狂った1年生時代を過ごしたユタカにとってなつかしさすら覚える感覚。


「あんたの縄張り、頂戴?」

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