第53話 終焉

 それから数日後。


 フォックスとシイナは、ひっそりと結婚式を挙げました。


「ねえ、おじ様?」


 出席者であるメアリーは、同じく出席者であるリカルドへと声を掛けます。


「な、何だ。いきなり気持ち悪い呼び方をして」


 あまりにも聞き慣れない呼び名に、リカルドはビクリと震えます。


「それじゃあ、リカルド様」


「……そんな名の男は死んだ。今の私は、変態で知られるエロイゼ大臣でしかない」


「……さすがに今更そんなふざけた名で呼びたくありませんわね。それに、お母様の気持ちを裏切る気ですの?」


 リカルドの返答に、メアリーは少し眉根を寄せた不機嫌そうな表情を見せました。


「ミュリエルの気持ちを裏切る気はないさ。ただ、この名前で大臣をやって長いからな。今更リカルドには戻せん。とりあえず騎士団長に恥じない程度に残りの人生を精一杯生きさせてもらおうと思う」


「精一杯ですか」


 リカルドの返答にメアリーは苦笑に似た微笑みを漏らします。


 きっと父も、その意志を継いだミュリエルも、リカルドに責任を背負って生きて欲しい訳でなく、人生を楽しんで生きて欲しいと思っている筈だとメアリーは思う。


 そして、それはリカルドだって解っている筈だった。


 それでもリカルドには、全てを忘れて気楽に生きる事なんて出来ないのだろう。


 良くも悪くも真面目が過ぎる性格なのだ。お堅い性格とも言える。


 それが何だかメアリーには、妙に微笑ましいというか嬉しく感じたのだ。


「大臣様」


 リカルドともエロイゼ大臣とも言えないメアリーが考えた呼び方は、役職呼びでした。


「何だ?」


「貴方は二人の結婚式、どう思います?」


 ふと、幸せそうなクイナの姿を見たメアリーはリカルドへと尋ねます。


「良い結婚式だと思う。たとえ変わっていようがなんだろうが好き合う者同士が結ばれるなら、それが一番幸せだと思うし、結婚とはそうあってほしい」


 言葉とは裏腹に、リカルドは浮かない表情です。


「何か渋い表情をしていますけれど……」


「あんなわざとらしい変態しか演じられない俺には、どうしても理解出来んのさ。自分の息子の事だが、下着泥棒の変態と結婚する気持ちなんてな。シイナ程の良い娘なら、他にいくらでも良い男が見付かるだろうに……」


 当人同士がよければそれでいいんだろうがな、と付け加えて答えるリカルドですが、それでも憮然とした表情は、どう見ても納得していないものでした。


「なるほど。確かにいくら昔好きだったとはいえ、下着泥棒にまで成り果てた相手をずっと好きで居られるかと言ったら、私には無理ですわね」


「だろう? リルムもアデラレーゼ女王陛下も誰も全く気にしてないし、俺だけがおかしいのかと思っていた」


「そんな細かい事を気にするより、お互いの愛を何よりも大事にする方ばかりですもの」


「違いない」


 そう言ってようやくリカルドは苦笑混じりではありますが顔を緩めます。


 その表情を見て、逆にメアリーは表情を固くしました。


「……ねえ、大臣様」


 そして、どこか重たげにリカルドへと尋ねます。


「どうした? 何か心配事があるなら聞くが……」


 急に深刻そうな表情を見せるメアリーに、リカルドは話を聞く姿勢を見せますが――


「再婚する気はありませんの?」


 そんなリカルドに返ってきたのは予想もしない答えでした。


「こんなエロ親父に嫁になりたいとかいう相手など来る訳ないだろう?」


 それでもリカルドは真面目に答えます。


 メアリーが深刻そうだったというのもありますが、本来、質問されて答えないような人間ではないからです。


「それはお嫁さんになりたいという人間が居れば、考えるという事ですの」


「まあ、居れば考えよう。人生を精一杯生きるという事に、恋愛も入るかと言えば入るだろうと思うからな」


「そう、ですの……」


 メアリーはリカルドの言葉に僅かに俯いたかと思うと、顔を上げないままリカルドの方へと歩み寄ります。


「お、オイ。近過ぎるぞ」


「私、貴方の事が大嫌いでした。お母様にセクハラしますし、言動も行動も何もかも変態っぽくて気持ち悪かったんですもの」


「いや、その、だな。そう思うならどうしてくっ付く? 俺は気持ち悪い変態だろう?」


 まるで純朴な青年が女性に抱き付かれたかのような、初々しさを持ってリカルドは答えます。


 泳ぐ目や赤くなった顔には、年上の威厳なんて全くありません。


「そうやって誰からも変態と思われても国を支えてきた気高さも、私に嫌われている事に気付いていたのに変わらず愛情を注いでくれていた事も、全部、日記を見て知りました」


「いや、それは俺のせいであの人が死んだんだから当たり前の事であってだな……」


 尚もしどろもどろといった感じに答えるリカルドに、メアリーは腕を絡ませます。


「オイ!」


 思いっきり裏声で悲鳴染みた声をリカルドは上げますが、メアリーは逆に腕を絡み付かせました。それこそ怪我でもさせるくらいの気持ちで、乱暴に振り解かねば離れないほどに強く。


「ねえ、親子ほど年の離れた女はお嫌い?」


 メアリーは囁いて顔を上げると、リカルドの方を見詰めます。


 その目は真っすぐにリカルドの目を見て、決して揺らく事はありません。


「…………」


 その言葉にリカルドは何も答えず、ただ目を逸らしました。

――――――――――――――――――――――――――――――――

 最終章終了ですが、ところがどっこい。

 この作品の完結は11月24日です。

 という訳で明日からは、おまけ的な話が出てくる訳ですが――

 もうタイトル通り、キャッリフレーズ通りに本当に好き勝手やりたい放題の無軌道な内容なので、心構えはしておいてくれると嬉しいです。

 あえて言っておくと――

 アデラレーゼもリルムもメアリーも。

 ミュリエルやムテキンやエロイゼだって出ません!

 読者の解釈に委ねられる、それでもこの話の締めくくりとなる話とだけ言っておきます。


 ここまで読んで面白かった、続きが読みたい。

 書籍化して絵とかが付いてほしいと思って下さる方は――

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