ゴルトと彼の楽しい仲間

【第1章：ゴルトさんはモテない-3】

「この野郎、俺は兄貴の仇を取る！」

2匹目のサルは、ゴルトの体をつかみ上げ、指を使って彼の体を押しつぶそうとしています。ゴルトの肋骨は限界まで曲がり、不自然な音が鳴ります。

「ゴルトさんを放して！」

アッドは釘を取り上げ、サルのような夜魔に向かって突き刺します。しかし、夜魔は力強く腕を振り、アッドを簡単に吹き飛ばします。

倒れたアッドは、力の差による深い絶望を感じます。ゴルトは救い出せないだろうし、自分には武器も経験もありません。この残酷な世界でさえ、二日生き延びるのは幸運と言えるでしょう。

アッドが残酷な結末に備えていると、急な足音が森から聞こえてきました。

眩しい光が一瞬で通り過ぎ、鋭利な刀が夜魔の右腕を切り落とし、赤い髪が回転する動きと共に美しく振る舞っています。

「わあああ！？」

右腕を失った夜魔は、ゴルトの拘束を緩め、恐れて後退します。

壮麗な登場を果たした赤髪の女剣士は、若々しい容姿と引き締まった体つきをしており、赤色を主体とした軍服を着ています。白い乗馬パンツは太ももを豊かに引き立てています。

彼女は刀の刃を前に構え、一歩前進してサルのような夜魔を追いかけます。相手はすぐに姿勢を立て直し、残された左腕を使って反撃に転じます。

女剣士は左にかわし、右にかわします。優雅で軽やかな避ける動作は、まるでダンスのようです。

大胆な振り上げ後、夜魔は隙間を見せますが、女剣士は攻撃をかわし、自分から後退します。

彼女の動きをサポートするように、空気を切り裂く銃声が鳴り、銃弾が夜魔の頭部を貫通し、その命を絶ちます。

銃を持つ老人が遠くの木から飛び降り、白髪交じりの彼は体格がよく、左眼には黒い眼帯があります。

アッドはこの二人の出自を知らなかったが、彼がまた命を救ってくれたことだけは知っていた。

堂々とした女性は刀から血を振り落とし、綺麗な動作で腰の鞘に納めた。

助け出されたゴルトは、地面に落ちた帽子を拾い上げ、かぶって彼女に挨拶した。

「お久しぶりです、互角剣士。」

「その呼び方は呼ぶな。」

女性はアッドを見下ろし、不機嫌そうに眉をひそめます。

「もしあなたが不当な人身売買に加担するなら、私はあなたを許しません。」

「俺に対して誤解が深刻すぎるようだ。サリーナ。」

「サリーナ？ あなたがサリーナ・アボット女爵なのか？」

この名前を聞いて、アッドの目は輝きます。灰だらけの顔でもかまいません。彼は即座に彼女の前に駆け寄ります。

「あなたのお姿を拝見できるなんて、本当に光栄です！」

アッドの熱狂に直面して、名前をサリーナという女性は頷き、友好的な笑顔で返事をします。

「弟さん、私を知っていますか？」

「もちろんです。ヨーロッパ中で知れ渡った夜魔ハンター、お客様が話すあなたの物語を聞くことがよくあります。」

アッドは酒場で働き、兄弟や姉妹もいないため、客が外の出来事を話すことが日常の楽しみでした。

「私のお気に入りはメアリー・クイーン号事件です。」

記憶に浸りながら、ゴルトは適切なタイミングで話に参加します。

「俺は相手を完全に死なせるために最後の一撃を手伝いました。」

「そして、トレ市反乱も忘れてはいけません！」

「本当に懐かしいですね、その戦闘で俺はガイド役を務めました。」

ロバートウェルズ邸事件も忘れてはいけません！」

「そのとき俺もいましたが、戦闘はもう終わっていました。」

「ゴルトさん、なぜいつもあなたが関わっているのですか？」

「ふんふん、俺もハンターギルドの会費を支払っているんだ。各地の夜魔の最新情報を知るのは特別なことじゃない。」

アッドは初めてハンターギルドという言葉を聞いたが、小さなことよりも大切なのは、長らく憧れていた相手が目の前にいることだった。

「あなたの話を聞いてから、ずっと夜魔ハンターになりたいと思っていました。」

「ほら、彼の言葉を信じるな。この子はうそをつくんだ！」

ゴルトの騒動を無視し、サリーナはアッドの肩に手を置き励ましました。

「志を持つことは素晴らしいことですが、先生を慎重に選ぶことをお勧めします。」

「でたらめを言うな。この世に俺より優れた先生はいないと言っても過言ではない。」

自己陶酔に耽るゴルトは、二つの鋭い視線を感じ、咳払いをし、話題を変えました。

「でも本当に懐かしいね。前回会ったのはいつだったかしら、オーストリアの晩餐会か、ウィーンの舞踏会か？」

「二か月前のパリよ、私はあなたが娼婦の家から追い出されているのを見かけたわ。」

「お願い、俺を金のない客のように言わないでくれ。俺はその時、夜魔の隠れ家を調査していただけだ。本当だよ、アッド、あなたはどうしてそんな目で見ているんだ？」

その時、さっきの狙撃手が白馬に乗ってやってきて、手には黒い石が握られていました。

「お嬢様、あなたが言った石を見つけました。このサイズで大丈夫ですか？」

「いい仕事、ノーマン。」

ゴルトは状況を見て、手を広げて言いました。

「おいおい、俺が研究成果を喜んで共有しているからこそ、あなたは隕石をここで掘るべきだと知ることができたんじゃないか。もしかしたら、俺に食事をおごってもらうべきではないか？」

「私はあなたを命からがら救ったばかりで、過去の借りはまだ清算されていない。あなたにお礼を言う余裕はありません。」

サリーナは目を閉じて無視し、顔を背けました。彼女の腰まで届く長い髪が揺れました。

「残念ですが、俺はあなたに最新の研究成果を共有するつもりでした。」

「…今回、何か発見したのか？」

明らかに動揺したサリーナが右目を開け、顔を少し戻しました。それに応えて、ゴルトの口元に不快な笑みが浮かびました。

「いいぞいいぞ、先生は真面目に学ぼうとする生徒が好きなんだ。」

ゴルトはコートの中から弾丸を取り出し、中の火薬を注ぎ出しました。

「まず、弾丸を取り出して、火薬の三分の二を注ぎ出し、乾燥した可燃物の枯れた木や草の上に振りかけ、弾薬の空いた部分に乾草を詰め、それから弾薬を装填します。次に、このステップは少し危険ですから、少し後ろに下がってください。」

ゴルトは木を向けて銃口を向け、すぐに炎が上がりました。

「このようにして、銃口を火薬が振りかけられた物体に密着させて射撃することで、簡単に火をおこすことができます。野外で打ち火を持っていない場合に便利ですね。」

サリーナは腰を振って火を倒し、不満を表現しました。

「夜魔とは関係ないことを聞くのは嫌！あなたとの会話は時間の無駄、ノーマン、行こう。」

「はい、お嬢様。」

「待って。」

非常に不機嫌な表情を浮かべながら、サリーナは足を止めて尋ねました。

「また何かするつもり？私はあなたの無駄な時間を過ごす余裕はありません。」

ゴルトは瓶を手に取り、中に半分の黒い粉末が詰まっているのを見せました。それはアッドの労働の成果でした。

「時間が急ぎますから、俺の言うことを聞いた方がいいですよ。これは俺たちが一日中掘り下げて手に入れた隕石の粉末です。少年のためにも、帰る前にちょっと買ってみてはいかがでしょうか？」

酒場の中、男たちの喧嘩のような叫び声が満ち溢れ、角の席に座るゴルトとアッドは、賑やかな雰囲気に静かに溶け込んでいました。

この光景を見て、アッドは思わず感傷的になりました。

もし山熊亭がまだあれば、いつもならこの時間の店内風景はこんな感じのはず。

「お店のおやじ、もう一杯ビールください！」

味覚に障害があるにもかかわらず、ゴルトは普通の人と同じようにお酒を好んで飲んでいました。おそらくアルコールは平等に人々を喜ばせるものだったのでしょう。

「ゴルトさん、お金は少し節約すべきじゃないですか？収入を得るのは簡単じゃなかったですよ。」

「今日はお腹を満たさないと、明日にどんな力が出るんでしょうか？おやじ、もう一つシチューパイも持ってきて、パイ生地はカリカリに焼いてください！」

気前の良いサリーナは、高値で隕石の粉末を買うことに同意し、彼女のおかげで二人は居酒屋でちゃんとした夕食を楽しむことができました。

「でも、ゴルトさん、あなたとサリーナさんはその粉末をどうするつもりなんですか？」

その後、アッドはまた二本目の瓶を掘りましたが、一刻も早く樹海から出たかったので、ゴルトも手伝いに来てくれました。

彼は昼間に注文した銀のペンダント、赤い液体で満たされた小瓶、そしてどこにでもある普通のコンパスを取り出し、これら三つのものをテーブルに並べました。

「よく見てください、これは俺が普段から収集している夜魔の血液です。これにいくつか滴をペンダントに落とし、それから隕石の粉末を振りかけます。」

粉末に血液を振りかけると、血液は迅速に凝固し、宝石のような赤い粒子に変わり、ある力の影響を受けてペンダントの中で回転し、何回か回転した後、コンパスの隣に置かれた位置に留まり、東北の方向を示すことができました。

ゴルトは満足げに微笑みながら、一口飲んでから説明しました。

「夜魔の血液は方向性を持っています。これらの隕石の粉末はこの特性を強化でき、天然の銀製品に抵抗することができるので、これは血液のコンパスになります。これは俺の時代を越える重要な発見です。秘密にしておいた方がいいですよ。」

「この針の向きは何を示していますか？」

「三公の位置です。」

「三公って何ですか？」

「聞いてください、アッド。夜魔という種族には階級があり、アリと同じようです。」

「えええ、初めて聞きました。」

アッドが驚いた声を上げた、主にアリのこと。

「夜魔の王は真祖と呼ばれ、夜魔を絶滅させるためには彼を倒す必要があります。真祖は200年前の戦争で力を使い果たし、現在は眠っていると言われています。」

「無政府状態を防ぐために、真祖は自分の力を信頼できる三人の側近に分け与え、現在の夜魔を管理させましたが、俺たちが知っている通り、200年間にわたる教会の追求の結果、夜魔はほとんど姿を見せず、残りの一団は散り散りになり、荒山や野山に潜んで人間を襲撃するだけになりました。」

「もうそんなに時間が経って、三公も死んでしまったかもしれませんね？」

「いいえ、彼らはまだ生きており、真祖の力を持つ三公は、真祖の眠っている場所の鍵です。彼らが死なない限り、その場所の封印は解かれません。」

「三公を討伐したら、ギルドと教会の人々だけでなく、新聞にも俺の英雄的な偉業が大々的に掲載されるでしょう。」

まるで前もって祝うように、ゴルトは再びビールを注文しました。

アッドはグラスを持ち上げ、ぶどうジュースを一口飲みながら考え込んで尋ねました。

「午後から一直思っていたんですが、ゴルトさん、モテないんですか？」

【アッドの日記 4月14日】

今日、ゴルトさんと一緒に冥闇樹海に行き、硬い石「隕石」を探しました。

予想以上に怖かった場所で、以前から夜魔が出没すると聞いていましたが、予想どおり襲撃を受けました。

幸いにも通りかかったサリーナさんが私たちを助けてくれました。彼女は噂以上に強力で、魅力的で慈悲深い方でした。陰気で不気味なゴルトさんとは正反対です。

憧れのアイドルに会えて、人生に再び希望を見出す。

それにしても、夕食の後、ゴルトさんはずっと黙っています。おそらくお腹を壊したのかもしれませんね？

【ゴルトの日記 4月14日】

今日、サリーナに助けられました。彼女もまた隕石で羅針盤を作ることを思いついたのに驚きました。俺が以前のヒントを与えなければ、彼女はそれを思いつくことはなかったでしょう。

ところで、彼女が白いパンツを履いているのがとても気に入っています。しかし、それを賞賛すると、きっと不快に思われてしまい、次回からは着なくなるかもしれません。なので、俺は賢明にも黙っています。

夕食のとき、アッドが俺に「モテないんですか？」と尋ねたので、正直に言うと傷つきました。俺のような善行を欲しがらず、名声を求めない真の男性は、広く一般の人々には理解されないこともあるのです。

三公を狩猟に成功した後、名声は自然に訪れるでしょう。