第36話 流れるプール

 俺と中川さんは電車にのってプールが近くにある駅を目指した。

 彼女はもちろん別の世界の住人なので……交通系ICTカード「ICHIGO」を持っていない……なので、今回は切符を買って電車に乗った。


「えへへ! 私この世界の電車乗るのはじめて!」


 彼女は電車の席にて俺の横に座ってそう呟いた。

 なんだか彼女は嬉しそうだった。

 そうか……彼女は電車に乗るのはこれが初めてか……だとしたらなんだか感慨深いな……


 そうこうしてるうちに電車は俺たちの目的の駅に到着した。

 駅に到着して、駅の外に出ると、外のベンチで、正孝がスマホをいじって待っていた。

 俺は正孝に気づいて、声をかける。


「よう! 正孝元気にしてたか!」


「なぁ、海人……本当に今日……結菜来るんだよな?」


「ああ! 橘さんも、もちろんくるぞ!」


「何というかよ……結菜が来るって聞いて、朝から緊張しちまって……」


「なんで緊張するんだよ? 昔よく遊んだ幼馴染だろ?」


「あのな! 幼馴染たってもあれは昔の話だ! 今とは全く別の話でよ!! それにこの前もお前に言ったが結菜のやつなんかいきなり可愛くなりやがってよ本当に調子狂うぜ……」


 正孝はバツが悪そうに頭をポリポリ書いた。


「あ、そうか……お前橘さんのこと好きだもんな!」


「おま! お前ふざけんな! 好きじゃねえーし! それにでかい声でそんなこと言うんじゃねえぞお前! もし近くに結菜がいたらどう責任取ってもらうんだ!!」


「アハハ……悪いな……正孝」


 そんなに大きい声で話したつもりはないのだが……

 あれ? 中川さんは一体何してるんだろう……

 中川さんは今現在駅の横の広場にある銅像に興味津々だった……


「やっほ〜〜みんな!!」


 すると、月野さんが手を振ってこちらにやってきた。後ろには橘さんもいた。


「こんにちは〜〜月野さん……橘さん」


 俺はそう二人に挨拶した。

 確かに……橘さんも中川さんや月野さんに負けず劣らずの可愛さだな……


「やっほ〜やっほ〜ところで鈴音ってもう来た?」


 そう月野さんが聞いて来たので……俺は月野さんのいる方向を伝える。

 相変わらず中川さんは銅像の周りにある花に心を奪われてその場でぴょんぴょん跳ねている。


 本当に何してるんだろう……中川さん……?


 すると、月野さんは笑いながら中川さんのいる方向へ走って行った。


「よう〜!! 正孝!! 元気にしてたか?」


 そう言って、橘さんは正孝の座ってるベンチの横に座って正孝と肩を組む。


 正孝は顔を真っ赤にして俺に助けてくれ! そう言いたそうだったが、俺にはどうすることもできなかった。

 てか、むしろ良かったじゃないか! だって好きな人とこんな近くに居られるんだぞ! まあ、もしかしたら好きな人に近づかれたら困ってしまうなんてこともあるのかもしれないが……俺はゲームのキャラやアニメのキャラしか好きになったことはないからそこらへん知らないが……


 ーーそして、俺たちはここら辺で一番でかい大型プール施設、「プールエンジョイランド」へと到着した。


 俺たちはプールに着くなり、それぞれ水着に着替えるために更衣室に向かって行った。

 そして、着替えを完了させると、俺たちは空いているスペースにプールシートをひいてそこに座った。

 正孝はそこでしばらく座っていだが……俺は浮き輪を膨らませに行っていた。


 俺が浮き輪を膨らませ終わって、浮き輪を持ったプールシートがある所に戻ったら丁度同タイミングで月野さんが俺たちの所にやって来た。


「やっほ〜待たせたね! どう、私の水着似合ってる?」


 そう月野さんが体を一回転させて聞いてくる。

 月野さんの水着姿に周りの人も心を奪われているようだった。

 それはそうだ……なんたって何かの撮影と言われてもなんら大差ないほどの美しさだったから……


「どうしたの? もしかして山田くんわたしの水着姿に見惚れちゃったかな? どうなの?」


「いや……その、とても似合ってまず!」


 ちょっと緊張しちゃって最後の方噛んじゃったけど、今の状況でからかってくるのは卑怯だろう……

 確かに見惚れてないと言ったら嘘になるけど……恥ずかしくてそんなこと本人言えるか…………


「じゃじゃーん!! どう? 私も水着になってみたよ!!」


 続いて中川さんが水着姿になってこちらにやってきた。


「うわー! 鈴音なんだかなんかのモデルみたい!! すっこぐ似合ってるよ!! ね! 山田くん!!」


 月野さんは中川さんに水着の感想を述べた。月野さんは中川さんになんかのモデル見たいというけど、あなたも大概ですよ……

  

「どうかな? 山田くん……私のこれ似合ってる?」


 中川さんは恥ずかしそうに俺に感想を求めてきた。  


「うん……似合ってるよ……本当にとっても」


 俺の目の前に立っている中川さんはとっても可愛かった……


「あれ? そういえば橘さんはまだ来てないの?」


 俺は橘さんがまだ来ていないことに気がついて二人に聞く。


「アハハ! 結菜ならさっきからそこにいるよ!」


「二人とも仲良さそうね!!」


 月野さんと中川さんの二人は俺の後ろの方に向かって感想を述べていた。

 俺は気になって後ろを振り返ると、橘さんが笑顔で正孝の肩に手を置いて笑っていた。

 正孝は水着姿の橘さんに近づかれて悪戦苦闘しているようだった。


 本当に何があったんだ……


「さーて! どこから泳ぎに行きましょうか!」


 すると月野さんが元気よく俺たちに呼びかけてきた。


「流れるプール当たりがいいんじゃねぇーか?」


 橘さんが月野さんにさあ言った。

 流れるプールか……確かにいいな……


「ねぇ、山田くん……ここのプールってお魚さん泳いでないの?」


「……は?」


 中川さんが俺が座ってる横に座ってそう言ってきたもんだから……

 俺は顔をはてな全開にした。

 

「えっ? 私何か変なこと言ったかな?」


 ええ……もちろん変なこと言ってますよ……


「その……お魚さんとは?」


「え? 私の世界のプールはお魚さんいつも泳いでたから」


 おいおい……冗談だろ!?


「それは……そういう魚が泳いでいるプールじゃなくて……普通のプールでも……」


「うん!! 当然!!」


 まじか!? まじでどうなってんだ!? 私立金森学園物語の世界は!?!?


「あはは……大変だね」


 俺はただ笑う事しかできなかった……



 それから俺たちは流れるプールに入水した。

 流れるプールに入った瞬間……流れるプールと書いてある文字通り俺たちはある一定方向へと流されて行った。


 俺は持って来た、浮き輪に乗って空をざーと眺めかながら流れに身を任せていた。

 ああ……なんだか……快適だ……風が涼しく気持ちいい……最近暑かったからな、余計にだ


 一方中川さんは、流れるプールに流されながらぷかぷか浮いていた。

 彼女は流れるプールが初めてだったのか、ぷかぷか浮きながらめちゃくちゃはしゃいでいた。

 

「山田くん……どうしたの? たそがれちゃって! えい!!」


「どわ!?」


 すると、いきなり浮き輪に大きな衝撃がかかった。それは、月野さんが浮き輪に思いっきり掴みかかったのである。


「びっくりした! どうしたの? 月野さん?」


すると、月野さんはプールの中からゴーグルをした顔を出して俺に言って来た。


「ねぇ、ねぇ、山田くんも一緒に泳ごうよ!」


「いや、俺は別に……」


 俺は別に浮き輪でぷかぷか浮いているだけで満足なんだけどな……

 それに泳ぐのはちょっと苦手かも……


「もし! 泳ぐの苦手だったら! 私が一緒に手繋いで、泳いであげるから!」


 そう言って彼女は浮き輪に再度掴みかかってきた。

 彼女は浮き輪に掴み掛かると、顔を浮き輪にくっつけた。

 俺と月野さんの体がめちゃくちゃ接近する。


「えへへ、山田くんがこんな横に……えへへ」


 ちょっと!? そういうこと言うのやめてくれませんかね!? 俺が恥ずかしくなる……


 俺が月野さんとそんな事をしている内に、いつの間にか流れるプールを一周していたみたいだ……


「ほらほら! 山田くんわたしが付いてるから!」


「……う、わかったよ……」


 あれはせっかく月野さんが言ってくれたので、浮き輪をしながら流れるプールを泳いだ。


 それから俺たちは流れるプールを何周も繰り返し楽しんだ!! 


「よーし! 次! あれ行くか!!」


 そう橘さんがある方向を指差した。

 ……あれは!? ウォータースライダー!?


「いいね! いいね!」


「面白そう!! うん、行ってみよう!!」


 月野さんと中川さんが楽しそうに言った。

 ウォータースライダーってあれだろ……高いところから滑るあれだろう……ジェットコースターみたいなあれだろ……

 ちょっと俺……こういう系苦手かも……


 すると、彼女たち三人は、ウォータースライダーに向かって歩き出そうと立ち上がった。


 「行ってらっしゃい……楽しんできてね!」


 俺は三人にそう言ってグッチョブをした。

 なにせ、俺は絶叫系が苦手だからだ……


 正孝も俺の横で一緒にグッチョブしている。

 こいつもウォータースライダー苦手なのか?


「なーに! 言っちゃってんの!!」


「……へっ?」


 月野さんがそう言って俺の片腕に巻き付いてくる。


「山田くんも行こう!! きっと楽しいよ」


「いや…あの! そうだ! 波のプール! あそこもきっと楽しいよ!!」


「それは、ウォータースライダーが終わってから行けばいいじゃん!! ささ、行こう!!」


 いやいやいや……!?


「そうだよ! とりあえずウォータースライダー一緒に行こ!! 山田くん!!」


 すると、中川さんも月野さんと同じように俺の片腕に巻きついてきた。

 俺は今、女の子二人が俺の腕に巻きついてきているこの状況に喜んだり、緊張する余録はなかった……

 これで俺は両方の腕で身動きが取れなくなった。


「ちょっと、考え直そうよ……二人とも……ウォータースライダー以外にも面白いのあるってきっと」


「行こうよ! きっと楽しいよ!」


「うんうん! 雫の言う通りだよ」


 そう、月野さんと中川さんが告げると、月野さんと中川さんは歩き始めた。俺も彼女らに引っ張られるようにして歩き始める。


「……勘弁してくれぇーい!!」


 俺は二人に半ば連行される形でウォータースライダーへと足を運んだ。

 それから俺たちはウォータースライダーの最後尾に並んだ。

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