第34話 君とのこの暮らし……

「お久しぶりだね、母さん、父さん……」


「おう! 元気にしてたか……海人……」


「一人で寂しくなかった? 海人!!」


 そう、母さんと父さんに言われる。

 寂しいなんてことは全くないのだけど……

 だって……

 ゲームのヒロインが今は俺のそばにいてくれているから……


「あら〜お部屋! めちゃくちゃ! 片付いてるじゃない!! やるわね! 海人」


 俺はそう母さんに褒められた。

 だけど……本当に褒められるべきは、俺じゃない……中川さんだ……


「うふふ、あら〜これもなんだか久しぶりに見るわね、まだ好きなの? 中川鈴音ちゃん!」


 そう、母さんは中川さんの写ってるポスターを見てそう言った。


「ちょっと!? 母さン!!」


 俺は顔を赤らめて焦って、そう言った。

 てか、このポスターなんでまだ撤去しなかったんだ……

 このポスターを見るたびにもしかしたら中川さんが恥ずかしい思いをしているかもしれない……後で謝らないと……


 ってか、その今の母さんの発言……もし寝室にいる彼女に聞こえたら、

 変に誤解をされるかもしれない……俺はそう思った。


 それから俺はリビングにあるテーブルにお茶を出して、お話をした。


「うふふ、何だかこうして、家族水入らずの時間もお久しぶりね!」


「あはは……そうだね……」


「学校どう? 元気にやれてる?」


「うん! おかげさまで……えへ」


 俺はこう母さんと話している間もまじでけがきじゃなかった……


「そうだ……海人の部屋、色々見て回らなくちゃ……」


 ……は?

 俺は母さんがそう言って、俺の寝室を開けようとするもんだから、それを体を張って静止した。


「あら〜? なんか、見られてはダメなものでもあるの?」


「そういうわけじゃないけど……とにかくだめなの!!」


 俺と母さんは、寝室の扉の前で攻防を続ける。

 しばらくの抵抗の中、俺は母さんに押し負けて、

寝室の部屋を開けられる。


 ……頼む!! どうか中川さん……どこかに隠れていてくれ……

 俺はそう祈るが……


「は?」


「え?」


 寝室を開けると、母さんが寝室の部屋の地面を向いて、唖然としていた。

 そこには、寝室の部屋の扉の前で何故か正座をしてある中川さんがいたからだ。


 俺は手をおでこにやって、ソファに倒れ込む。


「海人?」


「はい。」


「これはどういう事かしら?」


「えーと、ですね、これは、話すと長くなると言うか……」


「話しなさい!」


「はい。」


 そして、俺は彼女をリビングに呼んで、テーブルを挟んで父さんと母さん……

 俺と中川さんで座って、話を始める。


 俺は彼女との出会いから今まで……そして、現状の状況までを……

 全て事細かく説明した。


「なるほどね……別の世界から……ふーん」


 ……うっ、やはり、信じてもらえないか……


「あの、ごめんなさい……私やっぱり、このお家出ていきます。」


 そう中川さんが言った。

 ……へ? なんで?


「あ! 中川さん……別にあなたに怒っているわけじゃないのよ……むしろこれまで海人に色々してくれて私は本当に感謝しているわ」


「そんな……違いますよ!! だって、私……洋服とか、食べ物とかいっぱい山田くんにはやってもらってばっかだし……」


 ……中川さん……君は


「ところで海人!! 状況は、わかったわ! その子が別の世界に来たか、来てないかなんて今はどうでもいい……それよりも、一緒に住むにしろ……まずは私たちに相談の一つをするべきじゃない? まだ高校生の子供だけでどうこうできる話でも

ないでしょ……」


「わかってるよ……それは、重々承知している」


「お母さんはあなた達のことが心配でそう言ってるの! それはわかってる?」


「ああ、わかってる…………」


 俺は母さんに向かってそう言った。


「ふっ〜言いたいことはこれで言えたわ! それよりも鈴音ちゃん! それで、これからどうするの?」


「えっ? やっぱり……このお家出て行こうかと……もう、山田くんには迷惑かけられない」


「行く当てはあるの?」


「それは、これからです……」


 そう、お母さんと中川さんがお話ししている。

 俺はそれを呆然と見つめることしかできなかった……


「ねぇ、鈴音ちゃん……確か、元の世界に戻るまで海人の家に座まわせてもらっているのよね?」


「はい……そうです」


「だったらさ、それまで海人のそばにいてくれないかな? ほら、海人だって、鈴音ちゃんには出ていって欲しくないって顔してるわよ」


 ……は?

 ばれていたのか


「え、でも……いいんですか? 本当に……」


「ええ、あなたがあれば私たちは安心して、海人を任せられる」


「わかりました……海人くんの事はこの私に任せてください」


 中川さんは、そう言った。

 待てよ……今初めて中川さんに下の名前で呼ばれた!?


「海人も、今度から何かあったら相談してよ……」


「ああ……わかったよ」


 とりあえず……何にもならなくてよかった……

 相談か……困ったこと……あ、中川さんのスマホ!


「母さん!! 実は中川さんのスマホがこっちに来てから使えなくて、今連絡手段がないんだ! どうにか何ないかな……」


 俺はすかさず母さんに相談した。


「あぁ! そういうことなら、母さんのもう使っていないスマホ! 鈴音ちゃんにあげるわよ!」


「えっ? いいんですか? でも、そんなの悪いって言うか……」


 そう、中川さんが謙遜を示した。


「いいのよいいのよ! それにもう使っていないスマホだし、今度持ってくるわね、多分携帯ショップまでにいけば電波繋がって、Wi-Fiがないところでも使えるようになると思うから……」


「本当にありがとうございます!」


 俺は彼女が横で頭を下がるのを見て一緒に頭を下げて、

 お辞儀をした。


 ーーそれから、俺と母さん達はしばらくてーぶるにて、談笑して、また来ると言い残して、自分の家へと帰って行った。



「ねぇ、山田くん……」


「なに?」


「私と暮らすの楽しい?」


「そんなの、楽しいに決まってるよ……いつもありがとう……」


 そう言って俺は窓の外を見る。

 あたりはすっかりと夕日に包まれている。

 いずれ彼女はこの世界から元いるべき世界へと帰らなくちゃいけない……

 そしたらまた一人暮らしに戻る。


 ーー中川さん……俺はーー


 君とのこの暮らしを失うのが……少し怖いのかも知れない……


 もちろんこれは……俺の身勝手なわがままだ……


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