第12話 現在……ヒロインと食パン咥えて走ってます!

「ねぇ、山田くん……これ、似合ってる……? 」


 そう、お風呂から上がってきた彼女が聞いてくる。

 彼女は今、さっきのショッピングモール、「モオン」の中に入っている……

 「サニクロ」という服屋にて、買った、パジャマを着ている。


「……うん、とっても似合ってる……」


 そう、これはお世辞でも何でもない……本当に似合っていたのだ……


「えへへ、よかった!」


 彼女は嬉しそうにそう言葉を漏らした。


 そう、彼女と会話をしていると、今日ずっと、疑問だったある事を思い出して、彼女に質問した。


「……そういえばさ、中川さん……今日も、昨日も学校大丈夫だった……? その、中川さんの世界とこちらの世界……じゃ、授業内容が違うんじゃないかだと思って……」


「……そんな事は、なかったと思う……普通に授業ついていけてたし……勉強内容が全然違うー! なんてことはなかったわ……」


「そうなんだ…それは良かった……」


 俺にしても、彼女にしても、この情報は一安心だ。


「ありがとね、心配してくれて……」


 そう、彼女は俺の目をじっと見て感謝をした。


「じゃあ、俺もちょっとシャワー浴びてくるよ……」


 俺は彼女にそう、例を入れて、洗面脱衣所に向かった。



 俺は、シャワーを浴び終わり、ドライヤーを手に取って、髪を乾かす……


 ドライヤーを回してる時……

 洗面台に置いてある、歯ブラシと歯磨き粉が入った。二つのマグカップが目に入った。


 一つは、俺が前から使っていたもの……

 二つ目は、中川さんに家の中で使っていなかったマグカップをあげたものだ。


 ……これは、いわば夢物語だと思うかもしれないが……

 実際、中川さんはこの世界にいるのだ……

 俺の好きなゲームのキャラの中川さんは、俺の洗面脱衣所の先にあるリビングにいるのだ、


 ……このいわば、漫画や、小説みたいな、話が現実に起こっているのだ…………

 時々、これは夢かと思う事もあるが……そうではない……現実なのだ…………


 そう、二つの並んだマグカップを見てそう思った。


「……上がったよ……中川さん」


「おかえり……山田くん! このテレビ番組とっても面白いね!! 私、めっちゃくちゃ笑っちゃった!」


「あっ、この番組今、とても人気なんだよ〜」


 彼女が今見ているのは、今、人気沸騰中のお笑い番組だ。


 俺は、彼女と横並びになってこの番組を鑑賞した。


「うーん、面白かった!! やっぱり、この世界って面白いね」


 そう、中川さんが背伸びをしながら言った。


「あっ、もうこんな時間……明日も学校だし、早く寝なきゃ……」


 俺はこの番組を見終わった後……ふと、リビングにある時計を見た。

 ……すでに、時計の針は午後十一時を迎えていた。


「そうだね、じゃあ、そろそろ寝ようか……山田くん……」


「そうだね、それで、寝るとこなんだけど……やっぱり俺ソファーで……」


「別にいいじゃん、昨日と一緒で……」


 ……やっぱり、そうなりますよね……

 まぁ、ある程度予想をしていたが……


 俺と彼女は、とりあえず俺のベットがある、寝室へと足を運んだ。


 寝室へ着くと、彼女がそこにある、ベットに腰掛ける。


「今日は疲れたね〜〜山田くん!」


「本当だね……」


「あれ? 山田くんは腰掛けないの!?」


 そう言って、中川さんがベットをトントンしてくる。


「じゃあ、遠慮なく……座らせてもらいます……」


 俺は照れながらそう言った。


「ふふ笑、山田くん、おかしなこと言うんだね! ここは君のベットだよ、遠慮なんてする必要ないよ笑」


「……それもそうだね」


 俺は、そう言って、ベットに腰掛ける。


「…………」


 しばらく沈黙の時間が続く


「じゃあ、そろそろ寝よっか、」


 そう言って彼女は、ベットに横になる。


「ほら、山田くんも横になんなよ、疲れ……取れないよ……」


「っ! ……うん、そうします」


 俺は胸の奥がとくん、とくん、と波打つ感じがした。


 ……それから俺はできるだけ彼女に近付かないように、ベットのはじで横になった。


「……山田くん……私……最初、この世界に来た時……すごく不安だった。いきなり、一人……知ってる人がいないこの世界にやって来て、不安で押しつぶされそうだった……」


「だけど……今日一日、もちろん昨日の夜もだけど……山田くんと出会って、雫と出会って……私の知らない事、この世界の事いろいろ、たくさん教えてもらって……今や、この世界に来てちょっと良かったと思う自分もいる……」


「……中川さん……」


「だから、感謝を言いたくて、ありがとう……山田くん……」


 中川さんは、そういう風に思っていたのか……

 俺も彼女と出会ってから、まだ、ほんの二日にも満たないけど……彼女と接していくうちに……日常が花開いていく……そんな感じがした。


 感謝を述べるのは、こっちだよ……中川さん……


 そう思っていると……急に抱きしめられた感覚に至った。


 ……これは!? 俺は今、中川さんに後ろから抱きしめられている。

 ……ど、どういう事!?


 俺はいきなりの事態に困惑した。


「ちょ、ちょっと! 中川さん? いきなりどうしたの!?」


 俺はそう、彼女に聞いたが、返事がない……


 その代わり聞こえてきたのは彼女のとても可愛い鼻息だった。


 そう、彼女は寝ていて、寝返りを打った関係でこうなってしまったのである。


 ……これは、しばらく眠れないな……



 そして、次の日の朝……


「やばいよ! 遅刻しちゃうよ! 山田くん起きて〜〜」


「……へっ? 一体今何時?」


「もう、七時半……回ってるよ!!」 


 ……ん、やばい!?


「本当だ!! ありがとう中川さん起こしてくれて、中川さんが起こしてくれなかったらやばかったよ」


「いや、今も十分やばいよ!!」


 そう、彼女に言われ、急いでベットから身を乗りだし、学校へ行くための準備をする。


 ……てか、何で目覚ましが機能しなかった? 

いや待てよ……そもそも俺……目覚ましかけたっけか?

 まぁ、終わってしまった事は、今はいい、


 それよりも、俺はともかく、彼女だけは遅刻させるわけには行かない……


 それから俺と彼女が足早に支度を済ませ、学校に行く準備が済んだ。


「……よし、行こう、中川さん!」


「ちょっと待って! 山田くん!」


 俺は靴を履こうと玄関に向かおうした所、彼女に静止された。


「これ、食パン焼いたから……はい!」


 ……はい?


「えっ……どういう事?」


「もう時間ないから、この食パン! 咥えながら……走って行こう!! 途中……お腹空いたら困るでしょ!」


 ……へっ?


「ほらほら、いくよ! 山田くん」


 そう言って彼女は食パンを口に咥えつつ、玄関に向かう。


 俺も、後に続いて、食パンを咥えて、玄関に向かう。


 ……玄関に向かう途中……私立金森学園物語の中川鈴音のポスターの方を見た。


 ……そういえば……今目の前にいる中川さんは、この中川さんなんだよな?

 そう思うと、今までの会話を含め、急に恥ずかしかなって来た……


 それから、俺たちは、エレベーターを使って、一階に行って、マンションの外に出た。


 そして、食パンを口に咥えたまま、学校に向けて走り出した。


 ……さっきからなんか妙に視線を感じる……


 それもそうだ……なにせ、制服を着た男女が口に食パン咥えて走っている……

 そんな、異様な光景が広がっているのだから……


 なんだか、少女漫画の冒頭部分みたいだな……


 これが、中川さん一人だけだったら、少女漫画が始まるのだろうか?


 俺はそんな事を考えながら食パンを食べつつ、学校へと足を進めた。







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