酒の勢いで近づく心
美咲は、仕事が終わると少し疲れた表情でデスクから立ち上がり、時計を見る。
今日は一段と忙しい一日だったが、何とか乗り切れたことにほっとしていた。
しかし、その心の中にはまだ不安が残っていた。「翔くん、ちょっと付き合ってくれない?」と美咲は会社のエントランスで翔に声をかけた。
翔は驚いた表情を見せつつも、「どうしたの、美咲…いや、田中さん?」と困惑気味に返す。
「いや、ただ飲みに行こうと思って。いろいろ話したいこともあるし」と美咲は言いながら、軽く笑って見せる。
2人は居酒屋に入り、少し前まではありえない感じで軽く飲み始めた。
美咲は、翔が清美の身体であることを気にしている様子を見せながらも、自分の心の中での迷いを隠していた。
グラスを交わしながら、仕事の話や日常の悩みを打ち明け合ううちに、二人は次第に打ち解け、互いの現状に理解を示すようになった。
「清美さんとして、仕事が思ったよりもスムーズにいってるんだ。すごいね、翔くん」と美咲は笑顔で褒めた。
酔いが回ってきたのか、彼女の頬が少し赤く染まっている。
「美咲ちゃんも、田中さんとしてよくやってるじゃん。すごく頑張ってるよ。」翔も、少し照れくさそうに返事をする。
お酒の影響でお互いの距離が少しずつ縮まり、最後には「ちょっと休憩しようか」とホテルへ足を運んだ。
部屋に入ると、緊張感が漂うが、二人は互いに寄り添い、自然とベッドの端に腰を下ろした。
「なんだか、こうして話してると、不思議な感じがするね。清美さんの体の中に翔くんがいるなんて、まだ信じられないよ」と美咲は呟きながら、翔の手をそっと握った。
「本当だよ。こんなに違う体で…田中さんの、男に触られてどきどきするのが不思議だよ。」そう言いながらも翔も同じように、美咲の手をしっかりと握り返した。
その瞬間、二人の間に流れる空気が変わり、お互いの心が少しずつ開かれていった。
美咲は、今の田中の体だからこそ感じる強さと包容力を、翔は清美の体だからこそ感じる繊細さと温かさを互いに感じ取っていた。
やがて、美咲はゆっくりと翔の肩を引き寄せ、自分の胸に抱きしめた。翔はそのぬくもりに包まれ、心が穏やかになっていくのを感じた。
そして、お互いの存在を確かめ合うように、男女が逆転したまま静かに寄り添いながらベッドに横たわった。
「こうしていると、清美さんとして生きるのも悪くないかもしれない…でも、やっぱり元に戻りたい、男として寄り添う側になりたい。」翔は胸の内を打ち明けた。
「私は戻れなくてもいい。今のこの瞬間を大切にしたいんだ。少しだけ、このままでいさせて。」美咲も素直な気持ちを口にした。
二人はそのまま、静かに抱き合いながら眠りに落ちていった。
お互いに感じる温もりと、心の繋がりを大切にしながら、明日を迎える準備をしているかのように。
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