美咲と清美の密談
美咲は、田中の身体に宿った自分としての新たな生活に、ある程度の満足を覚えていた。
田中の地位と社会的な信用を手に入れ、仕事をするだけで周囲からの尊敬を受けるという状況は、これまでの悩みや苦労を一気に解消してくれた。
美咲は、元の自分に戻る必要がないとすら感じ始めていた。
そんな中、美咲は清美と二人で会うことにした。
清美も、翔の身体での男子高校生としての生活に慣れてきており、その自由さを満喫している様子だった。
しかし、元に戻るべきか、それともこのまま新しい生活を続けるべきかについては、まだ決めかねているようだった。
清美と会う場所は、静かなカフェ。
夜の帳が降り、店内は落ち着いた雰囲気に包まれていた。
美咲は田中のスーツを着こなし、堂々とした姿勢で清美を待っていた。清美もまた、翔の制服を着て現れた。
「美咲…じゃない、今は田中さんって呼んだ方がいいのかな?」清美は、困惑した表情で美咲に話しかけた。
「呼び方なんて気にしないで。ただ、清美さんに話があるんだ。もう、元に戻らなくてもいいんじゃないかって思うんだよね」美咲は、清美の目を真剣に見つめた。
「元に戻らなくても…?」清美は少し驚いたような表情を浮かべた。
「そう。考えてみてよ、清美さん。今の生活って、以前の自分たちよりもずっと楽じゃない?僕は今、田中さんとして社会的な地位を手に入れてる。しかも、悩みなんてほとんどなくて、仕事をするだけで周りから認められるんだ」
美咲の言葉は、清美の心に響いた。
確かに、翔としての学生生活は自由で楽しいものだった。
元の清美としての生活に戻ることを考えると、仕事や責任が再び押し寄せてくるのではないかという不安があった。
「でも、元に戻らないってことは…今のままで生きていくってことだよね。それって、本当にいいのかな?」清美は、まだ迷いを感じていた。
美咲は、そんな清美の手をそっと握った。「一緒に考えようよ、清美。私たちが今どう感じているか、それが一番大事なんじゃないかな?」
清美は、美咲が持つ田中の身体に抱かれることで、心の中に湧き上がる不安を少しずつ取り除いていった。
美咲の強い意志と、田中の身体が持つ力強さに包まれることで、清美は次第に今の状況に納得するようになっていった。
「でも、美咲、もし元に戻らなくて後悔したら…?」清美は、最後の不安を口にした。
「大丈夫だよ。清美も私も、今の生活に適応してる。それに、私たちはお互いに支え合うことができる。だから、心配しないで。私はこのままの生活を続けていきたいんだ」
美咲の言葉は、清美の心に響いた。
二人で支え合い、今の生活を維持するという提案に、清美は次第に意を決していった。
「わかったわ、美咲。あなたがそう言うなら、私もこのままでいいかもしれない。翔としての生活も、今は楽しいし…何より、あなたが協力してくれるなら、きっと大丈夫だって思う」
美咲は、清美の言葉に微笑んだ。「ありがとう、清美。これで、僕たちは新しい生活を始めることができるね」
清美は、再び美咲の田中の身体に抱かれながら、心の中で大きな決断を下していた。
二人はこのまま新しい生活を歩むことを決め、元の体に戻る必要がないと確信した。
夜が更け、二人は静かにカフェを後にした。
清美は、翔としての新しい生活を受け入れる決意を固め、美咲は田中としての生活を楽しむことを選んだ。
それぞれの心にあった不安は消え、二人は手を取り合い、これからの新しい生活に向けて歩み始めたのだった。
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