信じられない映像

 鮫原家友はいつも通り海で泳いでいた。ガラスの前に、古川景久がやってきた。

「左の胸鰭に、巨大な傷がついている!人間がやったものとは思えない、同じメガロドンの仕業に違いないわ!何があったの?」

「いや、何も。貴様が聞いたら嬉しくも悲しくもなるようなことでな」

 景久は、海岸の方に来てみた。家友もだ。背びれについていたタグをそっと取り外した。

「これで結構よ。海に戻ってちょうだい」

 家友は、言われた通りにした。


 実はそのタグは、録音とカメラの役割もしている。景久、他の古生物学者の前で、

「家友の胸鰭に傷がついていた。何かあったはず」

「では、そのタグを調べてみよう」

 タグをスピーカーとモニターに繋いだ。すると、驚くべき音声が流れたのだ。家友は泳いでいて、そこに他のメガロドンがやってきた。そいつは家友の胸鰭に噛みつき、何かをしている。

「何をする!...支えてくれるのか?」

 みんなはハッとした。

「古川さん、これは!」

「家友はオスと交わったらしい」

「それってまさか...」

「交尾だな」

「嘘だろ!?」

「メガロドンの妊娠期間はどれくらいかわからないが、数年もすれば赤ちゃんが生まれる」

 景久はその場に崩れ落ちた。

「古川さん?」

「私、嬉しいよ。家友のお腹に赤ちゃんができるなんて、思いもしなかった」

 景久は立ち上がってみんなに伝えた。

「どこかの安産祈願の神社にでも行きましょう」

「いや、待ってよ。赤ちゃんがいるかどうか分からないのに行くの?」

「家友のお腹の中を調べさせてもらう。エコーで」


 次の日。古生物学者たちが、研究用の船に乗っていた。

「家友、こっちに来て」

「何用ぞ?」

「ちょっとお腹を触らせて」

 お腹にエコーを当てた。出てきた写真は、人間たちを驚かせた。

「本当にいる!」

「男の子?女の子?」

「人間でもしばらくしないとわからないんだから、今わかるわけがない」

「何のことを話している?」

「家友、交尾したんでしょ?その赤ちゃんのことだよ」

「そうだ。何か悪かったか?」

「私は嬉しいから、何も悪くないよ」

「お腹の子が生まれるのを楽しみに待っていることだな」


 蛇塚隆弘は魚を食べていた。器用な尻尾でリモコンをつかみ、テレビをつけた。

「次のニュースです。鮫原家友氏のお腹に赤ちゃんがいることが判明しました」

「何!?わしはどうすればいいんだ!?」

 鎧倉政平、猛川淀成は隣の部屋にいた。人間の姿で。

「うるさいわね、何があったの?」

「汝ら、これを見てくれ!」

 古川景久らが鮫原家友のお腹を調べている映像が映った。

「鮫原家友氏が妊娠したのは、つい数日前のことだとされています。このことにより、メガロドンの妊娠期間を調べることができましょう」

「かわいい赤ちゃんが生まれることだろうね」

「そうとなれば、どこかの神社に安産祈願に行こう!」

「すぐに生まれるわけではないだろう」

「だとしても、赤ちゃんが無事に育つようにと」


 そのニュースは福井にも伝わった。

「家友が赤ちゃんを授かった!?いいなあ、僕も赤ちゃんがほしい。でも僕の赤ちゃんなんて、どうせすぐに死んじゃうよ」

「それはどうか分かりません!」

 飼育員の人間だった。

「あなたが頑張って育てれば、巨大な恐竜になるでしょう」

「でも赤ちゃんができるためには、女の子がいなきゃ。ここにはいないよ」

「もしかしたら、あなたと同じくエジプトから難民としてやってくるメスのスピノサウルスがいるかもしれません」

「そうかなあ」

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生き残りのゆく道 齋藤景広 @kghr

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