淀成と勝長、恐竜映画に出る

 巷では、齋藤景広というネット小説家が人々の人気を博していた。そんな大物が、景久の研究所にやってくるようだ。その時、勝長も静岡に来ていた。家友たちは、人間の姿に変貌した。景広が入ってきた。

「あなたたちが、人間の世界で噂になっている古生物だというのか?」

「いかにも。あとで、我々の真の姿を見せてやろう」

「あちらには、大蛇も寝ている!」

「静かにして。今寝ているんだから」

「して、汝の要件というのは?」

「私の小説が、今度映画化されるのです。だから本人役として、声優になってほしいのです。っていうか、淀成と勝長を映画に出してもいいでしょうか?」

「もとより、映画に出てくれと言われる覚悟です。そもそもどんな映画なの?」

「題名は『共倒れのバラ』です」

「題名に恐竜要素ゼロ。本当に恐竜映画なのか?」

「ご安心を。これはれっきとした恐竜映画。あと、淀成には朗報です!なんとこれは、関ヶ原の戦いが舞台で、だから石田三成が出てきます。しかも主人公枠」

「題名に含まれているのバラの意味は?」

「バラはBLを意味しています。これすなわち、恐竜と人間が男同士ラブラブであるということです。恐竜たちはみんなオスです」

「人間たちもそういう時代なのね」

「恐竜たちをみんなオスにした理由はある?」

「私は、某有名恐竜映画をこないだ見ました。そこでは、恐竜たちがみんなメスということになっていました。しかし百合要素は全くない。人間の男女の恋愛が少し描かれているだけでした。ならば恐竜をみんなオスということにしようと思った」

「貴様のことだから、きっとひどい結末になっているのであろう。どのような結末になっているのだろうか?」

「それはネタバレになるから言えません。ただ悲惨な結末だというのは事実です」

 景広は、淀成の耳元でひそひそと話した。淀成は目を見開いた。

「相変わらず家康は、人間達に嫌われているのだな。だから家康を極悪人に描くことができるのだ」

「家康が神格化されて、モササウルスが神格化されない理由がわからない。家康なんかより、モササウルスの方が絶対人気あるだろ、そう思うこともあります」

「モササウルスよりティラノサウルスの方が、この小説の主人公にはふさわしいということだな?実際、東軍でも重要な地位にあるようだから」

「スピノサウルスも結構重要だけどね」

「どんなふうに重要なの?」

「これまた、ネタバレになるから言えません。映画が完成し次第、試写会にご案内します。恐竜映画だから、恐竜が好きな子供たちもやってくることでしょう。ただ、一つだけ問題が…」

「悲惨な結末だから、子供たちのトラウマになるということね?」

 景広はうなずいた。

「ほかの恐竜映画だって、戦国武将の映画だって、Generalなんです、ほとんどはね。しかしこの映画は、Rがついてしまいそう、下手したらR18かもしれない!しかし私は、小さい子達にこそ、人間と恐竜の愛を伝えたいんです。何卒、よろしくお願い申し上げます」

「汝の願い、受け入れた。声優として最高の演技を見せてやろうぜ」

「勝長は難民なのに、戦争の映画に出るの?」

「そもそも、戦国時代の戦と、今世界で起こっている紛争は、全くの別物です。勝長は、後者に苦しんでいました。しかし、この映画は前者を取り扱います。ゆえに、勝長がこの映画に出ても、国際社会から『難民なのになぜ戦争映画に出演するんだ』とかは言われません」

「わかった。僕はやってみる」

 あっという間に試写会の時は訪れた。家友は、隆弘を起こそうとした。

「起きろ!出かける」

「どこへだよ…眠いなあ」

「俺と勝長が出てくる映画の試写会」

「わしなんか絶対寝るから、行っても意味ない」

「行こうよ!」

 勝長は、隆弘の手を引っ張って行ってしまった。

 景広は映画館で待っていた。

「結局、Generalがつきました。しかし、子供達が泣かないか心配です」

「淀成、どうだと思うか?」

「結末は、家康に義憤が湧いてくるような終わり方だ」

「僕も、家康が大嫌いだよ。子供たちもそうなりそう」

 映画が終わった。マイクを持った人間たちがやってきた。

「この映画の感想は?」

「家康が怖かった。恐竜達が可哀想だった」

「恐竜たちが幸せでいてほしい」

「猛川くんと砂島くんがカッコよかった!」

「恐竜と人間が仲良しだった。だから悲しかった」

 淀成と勝長の前に、大量の色紙とサインペンが置かれた。ふたりは、色紙にサインを書いていく。

「猛川さんに会えてよかった!」

「砂島さん、今度は福井で会おう!」

 景広はほっとしていた。そして、思い出したかのように、淀成の方を向いた。

「噂によればあなたは、霊感があるとのことですね?もし、家康や三成をはじめとする関ヶ原に出てきた武将の幽霊、あとこの映画に出てきた恐竜たちの幽霊に会ったなら、挨拶しておいてくださいな」

「もちろんだ。三成様の幽霊には会えるのか楽しみだ!」

「そこなんだ…でも、よろしく頼みますよ!」

 景広は手を振りながら離れていった。

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