命名

 恐竜博物館では、例の難民を命名するイベントを開催していた。子供も大人も、投票箱の長蛇の列に並んでいた。

「恐竜はこの近くにいるの?いるんだったら、会ってみたい」

「いるみたいだけど、怖がりなの。会えるかどうかは分からないわ。それに、すごい人気だから、人が多すぎて見えないこともあるかもしれない」

「せっかくこないだ新幹線だって開通してここに来たのに、会えないの?」

「会えるかもしれない。ただ、難民だから、人を怖がるかも。戦争をしたり、環境破壊をしたりする動物として」

 恐竜の前は人でいっぱいであった。恐竜は恐れおののいた。しかし、恐竜は喋り始めた。先ほどの親子もやってきた。

「今日は、僕のためにお集まりいただきありがとうございます。僕は、静岡で恐ろしい三匹の海洋生物を見ました。巨大ザメ、甲冑魚、そして海トカゲ。彼らと仲良くしたいと思ったけれど、それは叶いませんでした」

「なんで?」

 恐竜は返答に困り、人間たちを見つめた。

 実はその映像が、静岡で生放送されていた。恐竜のライブトークとして。

「おお、あの質問した人間、勇気があるな」

「恐竜が好きなんじゃない?化石じゃない、生きている恐竜を見て、きっと驚いてるんだよ」

「景久には、彼を命名する権利がないのか」

「恐竜だもの、みんなが命名したいと思うよ」

 恐竜のトークは続く。

「でも、ここに来て思いました。恐竜の人気者の座は、僕よりもっと強い恐竜に取られてしまうんだろうなあと」

「そんなことないよ!」

「え?」

「この恐竜はとても人気があるし、みんなに知られているから」

 引き続き、家友らは生中継を見ていた。

「いやあ、これは感動するわ。恐竜と人間が共生している」

「もしかしたら、この子が恐竜を命名するのかも」

「我らの仲間にふさわしき名前にしてほしいものよ」

「俺たちの名前がいかつすぎて、あの子が命名するのは大変かもしれない」

 数日後。恐竜の名前が決まった。その名を、砂島勝長といった。

「勝長か、そんな武将いたな」

「まあ命名してくれたゆえ、あまりそのようなことは申すことではない」

「でも結局向こうで暮らすんだろうな。私たちに会うことはせずに」

 その時、放送が鳴った。

「まもなく、福井より船が参ります。ご注意ください」

 それは巨大な船であった。しかもその上には、かの恐竜が乗っているではないか!

「みなさんこんにちは!挨拶に参りました」

 港の人々はどよめいた。

「本物の恐竜だ!しかも喋ってる」

「あれが噂の難民か。きっと食糧難でつらかったんだろうな」

「近づいてっていいと思う?」

「いいんじゃね?あの恐竜は魚を食べると言うし、人を襲うことはないだろう」

 一人の人間が勝長に近づいた。勝長は、その人間にほおずりした。人間たちが爆笑した。

「お前、なつかれてんな!結構いいと思うが」

 一方、家友らは勝長を遠くで見ていた。

「これを見ると、いかに恐竜が人気であるかが判るな」

「どうせ私の種なんて、minorなデボン紀の王よ」

「といっても発見されたことで、有名になったとは思うが」

「そろそろ船が出発するみたい。勝長さん、船に戻って」

「人間のみなさん、今度は福井でお会いしましょう!」

「元気でね!さようなら!」

 船はゆっくりと海岸から離れた。




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