恐竜難民

 エジプトには、巨大な恐竜がいた。全長16m、立派な尻尾、巨大な帆。その恐竜の名はスピノサウルスという。この恐竜も実は生きていたのである。しかし、川の汚染によって、今や絶滅の危機にある。

 古川景久は、華城学園中等部の修学旅行でエジプトに行くことになった。

「エジプトで生存説がある生物を発見できるのだろうか。いや、エジプトで古生物が生きているわけがない」

 しかし、それは全くの嘘になってしまった。

 景久は班行動をしていた。その時、向こうから足音がした。本当にかすかなものである、周りは砂なのだから。ところがそれは人間のものとは思えない。

「向こうから足音がする。人間じゃないわ。もしかしたら恐竜かもしれない」

「冗談はよして。恐竜なんているわけはないわ」

「近づいてくる。みんな逃げて」

 その足音はもう消えてしまった。

「足音が消えたのだから、逃げなくてもいいじゃない」

「ここで待ってて。見に行くから」

 景久は少し走ると、巨大な恐竜が倒れているのを見つけた。景久は魔法使いの姿に変身した。そして彼に魔法をかけたのである。恐竜は意識を取り戻した。

「気がついたわ」

「君が、助けてくれたの?」

 景久は困惑した。この恐竜をどうすればいいのか。班員の元に連れて行っても、怖がられるだけであろうか。それとも歓迎されるのか。

「私、今日はここにほかの人間と来ているの。あなたをどうすればいいのかわからないわ」

「怖がられてもいいから、その人々のもとに行きたい」

 恐竜は歩き出した。景久がそれに続く。

「どこに行ってたの。早く次の場所へ行くわよ」

 ところが班員は、景久の隣に居る恐竜を見て驚いた。

「本当に恐竜だ!なぜここに居るの?」

 恐竜は口を開いた。

「はじめまして。この方に救われました、恐竜です」

「いや、恐竜ってことは見ればわかるよ。でもなんでこうやって生きてたの?」

「それは、僕にも分かりません。しかし住んでいた川が汚れてしまいました」

「私が見つけた恐竜として、静岡に連れて行きたいけど」

「先生に相談しよう。そして、全世界に発表しよう」

 時を同じくして、静岡。家友、政平、そして淀成は浅瀬にいた。

「修学旅行でエジプトとは、なんともすごい学校ね」

「景久が通っている華城学園は、お嬢様学校だから」

「あれを見よ!」

「古川景久氏 エジプトでスピノサウルスを発見」

「まあ!また発見したというの?」

「景久は、スピノサウルスとやらをここに連れてくるに違いない」

「いや、その可能性は限りなく低い」

「何故ぞ!景久が発見したのだから、ここ静岡に来るはずではないか!」

「恐竜王国って知ってるか?」

「唐突になんぞ?恐竜王国は、知らぬ」

「福井県のことだ。スピノサウルスは恐竜である。これに福井県の人々が何て言うかが重要なところになる。きっと恐竜を連れ込みたいと思っているだろう。それも化石ではない、生きている恐竜を」

 同じ時の福井県。恐竜博物館は大騒ぎであった。

「なあ聞いたか!生きている恐竜がエジプトにいるんだってよ」

「ああ、もちろんだとも!その子は、住んでいた川が汚されて、魚が獲れなくなった。だから難民として、日本に来るのかもしれない」

「是非とも、この福井に来てほしいもんだね」

 エジプト。もう、修学旅行は終わりの時間であった。

「古川景久さんだけは、船で帰ります」

「なぜですか、先生」

「恐竜を日本に連れて帰るためです」

「会長のことだ、仕方ないわ」

 景久と恐竜は船に乗っていた。

「私は、古川景久です。静岡に来ない?」

「でも日本には、恐竜王国があるんでしょう?僕が静岡に行けば、恐竜王国の人々がなんというか。恐竜王国に来てというに違いない」

 景久は少し考えた。そして、恐竜にこう言った。

「わかったわ。あなたがその恐竜王国にいけるよう、取り計らう。しかし、静岡にも立ち寄りましょう」

 数日後。静岡の港に巨大な船がやってきた。家友たちは、それを見ている。恐竜が着水した。

「恐竜王国とやらに行くのではなかったのか?」

「こっちに立ち寄るだけじゃない?」

「恐竜にあいさつをせねば」

「我は、鮫原家友だ」

「鎧倉政平です」

「猛川淀成だ」

 恐竜は恐れている。この三者のことを。だから、船に戻ってしまった。船は出港した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る