海の重戦車

 ついに、古川景久によって、メガロドンが発見された。世界中が彼女の功績を讃えた。しかし、景久の発見は、そこで終わるものではなかった。

 景久はアメリカに向かう飛行機に乗っていた。メガロドンを発見したことの報告と、その他の古生物について研究するためである。

 数時間後。景久は、群衆の前に立っていた。景久は、こういうところで緊張するタイプである。思いっきり深呼吸をした。

 これは数日前の出来事である。

「あなたのことを伝えに、アメリカに行きます。この静岡の海にいてね」

「我がついて行ってはならぬのか?」

「あなたが行ったら、向こうが大騒ぎになるから」

「仕方ない、わかった」

 そう言って、景久は日本を出発した。

 景久は、短いスピーチを始めた。

「先日、静岡でメガロドンを発見しました。静岡には深い海があります。だから、未知の生物が潜んでいても不思議ではなかったのです。今、メガロドンについて調べています。ちなみに、発見したメガロドンには名前をつけました。個体としての名前です。名前は鮫原家友です」

 スクリーンに、鮫原家友と漢字で映る。ひらがな、ローマ字も一緒に。

「彼女の名前は侍のようね」

「私は徳川家康を意識してこの名前をつけました。残念ながら、彼女は今ここにいないのです。静岡の深海にいます」

 景久がそう言った矢先、すぐそばの海が波立った。近づいてくる巨大な背鰭には、タグのようなものが付けられている。

「あの背びれは家友のだよね?」

 次の瞬間、巨大ザメが水面から勢いよく飛び出した。

「メガロドンだ!なんて巨大なサメなんだ!」

「景久の発言を本物と認めていただくために日本より参った、鮫原家友だ」

「なんて大きいんだ!そして日本語しゃべった!」

 しかし、家友の隣にも巨大魚がいた。その巨大魚は10mぐらいで、頭のあたりを頑丈な鎧で武装している。家友と比べたら1/2にしか及ばないが。巨大魚の名をダンクルオステウスという。デボン紀の王者なので、新第三紀のメガロドンと比べるとかなり古参者であることがわかる。家友は横を向いた。

「貴様、見ない魚だな。いずこより参った?」

 もちろん返事はない。家友は、この魚が原始的なものだと考えた。

「景久、我の隣に魚がいる。こやつも、絶滅したと思われていた生物か?」

 景久が駆け寄った。そして家友のそばに居る魚を見ている。

「これまた、絶滅したと言われている生き物だ。この種類はダンクルオステウスだ。3億年ぐらい前に絶滅したと言われているが、まさか生きていたとは!」

 景久は壇上に戻った。

「つい先ほど、絶滅したはずの生物を見つけました。ダンクルオステウスという種の魚です」

「どこ!?どこなんだ!?」

 景久は壇上から降りた。先ほどの巨大魚をみんなに見せるために。

「あちらです」

「そこだ!本当に巨大だな!」

「人間たちは、なぜ我ではなく、あの魚に釘付けになるのだ!我も珍しいぐらい巨大ではないか!」

 ひとりの人間が、家友と巨大魚に話しかけた。

「君たち2人はとても大きいね!どこから来たの?人間の言葉を話せるんだろ?」

「我は静岡の深海より参った、鮫原家友だ」

「そうか。静岡には深海があるから、そこに潜んでいたんだね」

「景久よ、人間たちは我のことをどう思っている?所詮、恐ろしいサメが現れたとでも思っているのだろう」

「そんなことない!みんな、あなたに会いたいと思っているよ」

「何をぬかすか!皆、我を恐れておろう。我に会いたいと思う者なぞおらぬわ」

 そこに、巨大魚が割って入った。言葉こそ話せないものの、何かを訴えかけるような目をしていた。景久は魔法使いの姿になると、巨大魚に魔法をかけた。

「何をしているの?みんなあなたを怖いと思っているよ。だけど、それと同時に、あなたに憧れている」

 その言葉は景久ではなく、家友に向けたものであった。

「貴様…景久に魔法をかけられたのか!?」

「この子にも名前をつける。鎧をまとっているから…鎧倉政平という名前にしよう。ちなみにこの子は、デボン紀のダンクルオステウスという魚だよ」

「聞き覚えがある。生存説があるとな。そしてそれがここで明かされた。…我は帰る」

「ついて行ってもいい?」

「よかろう。貴様は歓迎されるであろう」

 時を同じくして、大阪。三日月が出ている。その月を、1匹の巨大な海トカゲが見上げている。海辺では、歴史好きの人間たちが話をしている。

「あの武将さ、他の武将に嫌われてたっていうけど、亡き主君のために戦ったの、超カッコイイよね?」

「マジそれな!しかも、メガロドンがこないだ発見されたらしいけど、いわゆる生存説ってやつがその武将にもあるんだって!メガロドンと戦国武将が同類とか、超ウケる~!」

海トカゲには、人間たちが言う「その武将」が誰のことか解った。海トカゲは、再び三日月を見上げた。そして、その場を離れた。三日月は隠され、雨が降りはじめた。彼がもし人間だったら、大好きなその武将について、他の人間たちと話せるのに。海トカゲは、声を出すことはできないし、できたとしても、全長18mにもなる海トカゲである、人間たちに恐れられて、最悪の場合殺されてしまうかもしれない。しかし、彼が属する海トカゲの種は「白亜紀の海の王」であり、それが生き残っているのだ。人間の歴史を愛することすら許されないのかもしれない。いずれにせよ、彼に救いは訪れない。そう、ある時までは……。



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