生き残りのゆく道

齋藤景広

最強の巨大ザメ

 それは静岡県のことであった。駿河湾の深海に巨大ザメが潜んでいた。全長は20mにも及び、その鋭い歯はヒトの大人の手と同じぐらいであった。その巨大ザメは絶滅したものだと思われていた。しかしその巨大ザメは、とある古生物学者によって発見されることとなったのである。

 ある日、漁師がその巨大ザメの背鰭を海で目撃した。

「おお、こいつはいいフカヒレが取れそうだ」

 巨大ザメは、自分が人を襲ったら逆に自分が殺されると思い、無残にも背鰭と胸鰭を取られてしまった。

 巨大ザメは、海岸に打ち上げられてしまった。そこに、ひとりの人間がやってきた。その名を古川景久という。景久は、巨大ザメを見るなり目を見開き、その場に座り込んだ。そして巨大ザメの肌にそっと触った。

 「この子は巨大だな。しかも背鰭と胸鰭を取られてしまっている。治してあげて、海に返さなきゃ」

 景久は魔法使いの姿に変貌した。ステッキのようなものを取り出すと、それを一回振った。鰭は元通りになった。

 「この子に人間の言葉を話す能力をあげよう。そうすれば、この巨大ザメをよく知る人たちと話ができる」

 景久はもう一回ステッキを振った。巨大ザメは喋り始めた。

「貴様が我を助けてくれたのか?」

「そうだ、名前を付ける。あなたの名前は、鮫原家友(さめはら いえとも)にしよう。鮫原という苗字は、あなたがサメであるからつけた。名前に『家』が入っているのは、かつてこの静岡にいた、徳川家康という人間の名前に由来する」

 人間の歴史について全く知らない家友は、徳川家康とは誰なのか、いつ存在したのか分からなかった。そう考えているうちに、景久がタグのようなものを取りだした。

「これはGPSと言って、あなたについて研究してもいいか許可を取りたいの」

「よかろう。我の存在を世界に知ってほしい」

 景久は、背鰭にタグを取り付けた。サメは海に向かって泳ぎ出した。景久は手を振っている。

「元気でね」

「貴様こそな」

 サメは、やがて沖の方に消えた。

 これは、古生物学の中でも最大の発見だった。

 景久は自分の研究室にいた。そして他の研究者に話をした。

「この度私は、絶滅したと思われていた巨大ザメを見つけた」

「嘘だあ。そのサメは絶滅したんじゃなかったのか」

「でもその巨大ザメは、話題に上がる度に『生存説』というものがあるといわれていた。私が発見した巨大ザメ・メガロドンだけではない。モササウルスやニホンオオカミにも、生存説はある。今回その生存説が明かされたというわけ」

「証拠はあるのか?」

「もちろん。私は巨大ザメが打ち上げられていたのを見つけたんだが、それより少し前に、この鋭い歯を見つけた」

 景久は、巨大な歯を手に持って、それを見せた。

「間違いない。これは化石でなく、生きた巨大ザメの歯だ」

「私が常備している研究専用のタグも取り付けた」

「そういえばお前は魔法が使えたな」

「故に、人間のような名前を付けて、人間の言葉まで喋れるようにしてあげた」

「そうとなれば、明日ニュースにしてもらおう。世界中が驚くであろう」

 次の日。世界中のテレビに、ニュースサイトに、このキーワードが現れた。

「静岡で巨大ザメ発見 メガロドン生存か」

 とりわけ静岡市の人々は、海辺に行ってその巨大ザメを探し始めた。

「おーい、巨大ザメはどこだ」

「なんか人の言葉を話せるらしいよ」

「襲ってくることはないであろう。探し続けよう」

 そのとき、タグから音がした。

「なんだ?」

 このタグは電話の機能をなしているらしい。

「人間たちがあなたを探しているそう。打ち上げない程度に、陸に近づいて」

「わ…わかった」

 家友は陸の方に向かって泳ぎ出した。人々も家友に近づいた。

「これが噂の巨大ザメか」

「はじめまして。鮫原家友だ。以後お見知りおきを」

「人間のような名前まであるのか」

「ところで…昨日聞いたんだけど…徳川家康って誰ぞ?」

「ああ、この国では有名だよ。特に静岡では英雄とされている人間だ」

「そうなのか」

 家友は、全くわからなかった。どうせ、徳川家康とメガロドンでは、後者の方が強いのだから。

「徳川家康に敵はいたのか?」

「大量にいたよ。武田信玄とか、島津とか、上杉景勝とか、そして関ヶ原の戦いでの石田三成」

「武田信玄?島津??上杉景勝???石田三成????誰だその人間たちは」

「名前だけで人間ってわかるのね」

「そういえば石田三成には生存説があるそうだ。メガロドンと同じくね」

「私の同類に家康の敵がいるのか」

「まあそういうこと」

「そろそろ呼吸が続かなくなる故、戻る」

 人々は手を振った。

「さようなら」

「我に遇ったこと、周りに自慢するべきだ。ニュースで話題の巨大ザメに遇ったとな」

「もちろん!私たちの一生の思い出になることだろう」

「ダンクルオステウスやモササウルス、スピノサウルス、ティタノボアなどに生存説が存在する。もし彼らに出会ったら、仲良くしてくれよ」

「承知した」

 家友は沖の方に向かって泳いだ。泳いでいる間、家友は考えていた。

「ダンクルオステウス?モササウルス??スピノサウルス???ティタノボア????奴らは誰だ?????まあ、そのうち解るだろうか」

 気づけば、もう夜になっていた。海は穏やかだった。






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