第4話 マリ、リュカにお世話になって、アルデンヌ男爵と出会う
リュカの家は、とても大きな木をくり抜いて作られた、いかにも森の番人らしい家だった。
家の中は物は多いが、すべて森の管理に必要なものらしく、きちんと整理されていた。ちらかっている印象はなく、職人ぽい家だ。
棚には10冊程度本がならべられていて、マリはこの世界の本はどんなものなのか興味を引かれたが、今回は我慢しておいた。
背表紙に書かれた字は知らない言語のはずだが、なんとなく読めた。
ふしぎなことに、知らない言語を読めるし、話せてもいた。異世界チートというやつかもしれない。だとしたら、さらにふしぎな力が使えてもよさそうなものだけど、今のところそういう気配はない。
リュカの家には、ほかに家族はいなかった。この時間帯にいないのだから、リュカはベルとふたり暮らしなのだろう。リュカも特になにも言わなかったので、マリもなにも聞かなかった。
リュカはお茶をいれてくれた。はじめて飲む味だったが、心まで温かくなるような味で、マリはおかわりまでした。
それからいっしょに寝た。ベッドがひとつしかなかったからだ(ちなみにベッドは巨大な木の幹を加工してつくられていた)。
リュカは床でベルにくるまって寝るから寒くないと主張していたが、そんなのズルい。それならわたしも床でいっしょに寝るとマリが主張して、あーだこーだ言っているうちに、ベッドでみんなで寝ることになった。
マリはうれしかったし、ベルもふたりの枕元でしっぽをぶんぶんふり回していた。
リュカだけが表情を固くして、寝付けないようだったが、五分もすると静かな寝息が聞こえてくる。
マリもいつの間にかねむっていて、気づくと朝が来ていた。
目覚めはこれまでに味わったことがないほど、爽快だった。もう、超がつくほど爽快だった。
起き抜けから今日はなんでもできちゃうっていう万能感がある……。マリーさんって、よっぽど健康だったのね。ちょっとこわいくらいかも……。
朝食は、リュカの手料理をごちそうになった。
何のタマゴかわからない水玉模様のタマゴと、サーモンピンクの野菜をはさんだサンドイッチだ。
「おいしい……!」
おせじぬきで、これまで食べたどの料理よりもおいしかった。
「あはは!うれしいです!」
リュカはニッコリと笑う。
それからベルの朝の散歩(という名の追いかけっこ)を楽しみ、マリはリュカとベルと別れた。
アルデンヌ家にもどることにしたのだ。
立場上、リュカくんにあまえすぎると、リュカくんに迷惑がかかるかも……。
「リュカくん、今日のことはわたしたちだけのヒミツにしときましょ」
「え、あ、はい……」
リュカはうつむいて、なんだか残念そうな顔になった。
「また遊びに来ますね」
「……はい!」
コロコロと表情が変わり、今度は元気いっぱいのうれしそうな顔になった。
「ベルさんもまた」
マリがベルの眉間をなでると、ベルは「ぐふっ」と笑って返事をする。
リュカはいつまでも手をふって見送ってくれた。
マリもふりかえっては手をふり返した。
家にもどると、大さわぎだった。家中の人々がマリーのことを探していたようだ。
ちょっと遠回りしてきてよかった。これでリュカくんの家に泊まったことはバレなさそう。
青ざめた執事長に連れて行かれる間、マリは自分の慎重さをほめてやった。
連れて行かれた先には、アルデンヌ男爵が待ちかまえていた。寝ていないのか心労なのか、目は血走り、髪の毛は油っぽく乱れ、神経質そうに爪をガジガジかじって、貧乏ゆすりをしている。
「旦那様、旦那様!」
執事長が声をかけると、ようやく我に帰った様子になった。
そして、まるで呪いの呪文でも唱えるかのような地をはう声で「よくも……!よくもやってくれたな……!とんでもないことを……!これで300年続いた我がアルデンヌ男爵家は終わりだ……!お前のせいでなあっ!」と言った。
最後は大声でさけぶかのようだった。
壁にならんで立っていた執事たちがおびえて、ビクッ!と体をふるわせる。
しかし、マリは表情一つ変えなかった。
ただ真顔で、平静な調子で「はあ、そうですか」とだけ返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます