第36話 拠点の案内


「というわけで、今日から彼女がパーティーに加わる事になりました」

「カエデと申します! 元素は『空』です! よろしくお願いするでござる!」


 僕はカエデをノクタリアたちへと紹介した。


「………………」

「………………」

「………………」


 あれ、おかしいぞ。

 なんで皆無言で僕を見てくるんだ。

 喜んでくれると思ったのに。


「み、皆? どうしたの?」


 僕がおーい、と手を振ると皆は「はぁ……」とため息を吐いた。


「確かに男は嫌といったけど……」

「こんなにすぐに女性を口説いてくるとは思いませんでした……」

「シーくんってもしかしてたらし?」


 あれ、なんか皆の視線が冷たいな。せっかく新しい仲間を連れてきたのに。

 とりあえず不名誉なレッテルは否定しておく。


「いや、口説いてないから。たらしでもないし」

「そうですよね。シンさん”は”そう思っていますよね」

「カエデ、だったかしら。一つ質問しても良い?」

「はいでござる!」

「彼のことはどう思ってる?」

「そ、それは……。シン殿は主君ですし、カエデにとって、命と同じくらい……大切です」


 カエデが隣りにいる僕を見上げてくる。 

 その瞳がちょっと潤んでいて、熱を帯びている気がした。


「やっぱりですね……」

「彼を見上げる目がもう……」


 二人共何の話をしてるんだろう。

 話を切り替えるために、僕はぱん、と手を叩く。


「皆、今日からカエデをパーティーに入れても良いよね?」

「私はシーくんが選んだ人なら誰でもオッケー!」

「わ、私もです!」

「まあ、あなたが選んだ人なんだから間違いはないでしょうし……」


 どうやら三人ともメンバーの加入には反対、ということはなさそうだ。

 これで本当に正式にカエデは僕たちの仲間になった。


「仲間になったカエデを拠点を紹介しておこうと思うんだ。こういうのは、早めに教えておいたほうが良いでしょ?」

「あー……、そうだね。確かにそれは早いほうが良いかも」

「そうねこれから拠点で活動することになるのだし」

「きょてん?」


 カエデが首を傾げる。

 そんな彼女を見て、僕は悪戯めいた笑みを浮かべた。


「きっと驚くと思うよ。さ、行こうか」



***



「なななっ、なんでござるかここは!?」


 拠点の中の神殿を見たカエデは目を見開いて驚いた。

 その反応も無理もない。薄暗くいダンジョンの中に、急に明るい神殿のような場所が現れたのだ。

 その上、目の前には目が眩むほどの大量の黄金。

 驚かないほうがおかしいというものだ。


「どうしてこんなに金貨の山が……!」

「ここを見つけたときにあったんだよ。でも金額が大きすぎて、今はどうやって換金するかを考え中。ほら、こっちに着いてきて」


 僕はカエデへ手招きする。

 そちらの方向には、すでにノクタリアたちが金貨の山には目もくれずすたすたと歩いていっていた。

 カエデにとっては初めて見る光景だろうけど、僕たちは毎日ここを通るたびに金貨の山を見ているので、もう慣れてしまったのだ。

 するとカエデはそんな僕たちを見てゴクリとつばを飲み込むと、戦慄したように呟いた。


「カエデは、もしやするととんでもないパーティーに加入してしまったのかもしれません……」


 そんな大げさな。

 僕たちは階段を下っていきながら、この神殿の設備や構造について説明していく。

 そして八階に入ったところでカエデが目の色を変えた。


「こ、これは……! 温泉でござるか……っ!?」

「そうよ。そう言えば、あなたの国では温泉が有名だったわよね?」


 ノクタリアの問いかけにカエデが大きく首を縦に振る。


「はい! カエデ、温泉大好きです!」


 そしてその視線を目の前に広がる温泉へと戻す。


「こんなに広い温泉をカエデたちだけで使えるなんて、とても贅沢でござる……!」

「まあ、今は軽い仕切りしかないんですけどね」


 ニアが頬に手を当てて笑う。

 一応男女で湯を分けているけど、簡単な仕切りがある程度でまだ完全に分けれてないので、入るにはまだ不便なところがある。

 いずれはここをしっかりとした施設にして、温泉旅館みたいにするのが僕のささやかな夢だ。


「そうなのでござるか? でも、カエデ、シン殿なら別に見られても良いです、けど……」


 ちら、とカエデが僕のことを見上げてくる。

 なんか、カエデがじっと僕を見つめてくる。

 なにか言ったほうが良いのかな?

 そんなことを考えていたせいで、僕とカエデは見つめ合ってしまった。

 僕とカエデの間に妙な雰囲気が漂い始めたそのとき。


「あー、次に行きましょう。早く」

「ええ、時間も押していますし、次に行きましょう」


 するとノクタリアとニアが話を切り上げて次に進めようとする。


「えっ、ちょっと、急に何?」

「ほらほら、いくよー!」


 リリィが僕の背中を押す。

 そうして僕とカエデの間に流れた雰囲気は全部流れていった。

 そして九階で簡単に部屋を決めると、本命である十階へとやって来た。


「ここは……一体何をする部屋でござるか?」

「ここで、カエデの《九つの失宝ロストナイン》を選ぶんだよ」

「ろすとないん?」


 こてん、とカエデが首を傾げる。


「《九つの失宝ロストナイン》はこれだよ」


 僕は壁にかかっているアイテムを手で示した。


「これが、どうしたのでござるか?」

「パーティーに加入した仲間はここの九つのアイテムの中から、一つ身につける事になってるんだ」

「つまり、シン殿とのお揃いでござるか!?」

「え? まあ、うん。そういうことになるのかな?」


 自信がなくて疑問系になってしまった。

 いや、でもこの場合どうなるんだろ。

 確かに《九つの失宝ロストナイン》というひとつの枠組みではあるものの、アイテム自体はそれぞれ別々の種類のもので統一感なんてないし……まあいいか、お揃いということにしておこう。


「とありえずカエデに合いそうな《九つの失宝ロストナイン》はもう決まってるんだ。ほら、これ」


 僕は壁にかかった《九つの失宝》の中から腕輪を手に取り、カエデへと手渡す。


「これは……」

「それは『再起の腕輪』。『一日に一度だけスキルや魔法の使用回数をリセットする』っていう効果があるんだ。カエデにはぴったりでしょ?」


 『再起の腕輪』の効果を聞くと、カエデがぱぁっと表情を明るくした。


「確かに、これならバリアをもっと張れるようになるでござる! ありがとうございますシン殿!!」


 カエデはにっこりと笑って『再起の腕輪』を受け取った。

 そして腕輪を受け取ったカエデは腕輪をぎゅうっと握りしめると。


「これも、小刀と同じくらい大事にしますね!」


 と嬉しそうに笑みを浮かべるのだった。

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