第33話 忍者の少女
「ござる……?」
明るい亜麻色の髪をポニーテールにした、和風の服を着た少女がそこにはいた。
謎の語尾に一瞬気を取られたものの、うるうるとした瞳で見上げてくる彼女に僕は話しかけた。
「ええと……どうしたの?」
「カエデをニンジャとして拾ってくださいでござる……」
「ニ、ニンジャ……!?」
聞き覚えのある単語に思わず僕は食いついた。
「忍者をご存知なのでござるか?」
「ああ……うん。確か……色々とすごい技術を持ってるんだよね?」
「はい! 相伝の魔法や技でかっこよくモンスターを倒す職業のことでござる!」
「あ、うん。そっか……」
どうやら僕の知っている忍者とは違うようだ。
前世の忍者は間違っても魔法なんか使わなかった。
まあそりゃそうだよね。ここは異世界だし。
忍者はたまたま名称が被っただけだろう。
「それで、なんでそんなことしてるの?」
「その、カエデ……実は先日アウレリアにやって来たのですが、お金や大切なものが入っていた巾着をなくしてしまって……」
カエデはしょぼん、とした表情になった。
ぐぅぅぅぅぅぅ。
その時、大きなお腹の音が鳴った。
「あ、えっと、その……お金がないので、一昨日から何も食べて無くて……」
カエデは頬を赤く染めてそう言った。
まあ、流石に困っている人を放って置くわけにもいかなかったので、僕は頬をポリポリとかくと手を差し伸べた。
「えっと……ご飯でも奢ろうか?」
「っお願いします!!!」
僕の申し出にカエデは嬉しそうに立ち上がった。
***
僕とカエデは適当な飲食店に入り、カエデの事情を聞いていた。
「それで、整理するけど。カエデはここよりも東方の国からやってきた。冒険者になるためにギルドに行こうとしたところで、お金が入った巾着をなくした。お金がない上に異国の地だからどうしていい分からず、ああやって誰かに助けを求めていた。これでいい?」
「ふぁい、ほのほおりです!」
よほどお腹が空いていたのか、カエデは一心不乱に食事にありついていた。
食べ物を口いっぱいに頬張ったカエデがそのまま返事をする。
「とりあえずゆっくり食べなよ。別に食事は逃げないから」
僕がそう促すと、カエデは落ち着いて口いっぱいに詰め込んだ食べものを飲み込むと、僕の質問に答えた。
「カエデは仕えるための主人を探していたのでござる」
「主人を? なんで?」
「カエデは忍者でござるので。忍者はどなたか一人の主人に仕えるものなのでござる」
「ふーん。そういえばだけど、なんでアウレリアにやって来たの? ここで主人を探さなくても、カエデの国ならいっぱい主人がいるんじゃない?」
「それは……」
カエデの表情が暗くなった。
「ああ、ごめん。言いにくいことだったら答えなくてもいいから」
するとカエデは首を振った。
「いえ、一飯の恩義にそんな背くようなことは出来ません。シン殿には命を救っていただいたのですから、それにはお答えしなければ。それにこれは私が未熟だったゆえに起こったこと。恥を隠すのは、さらに恥を生むのです」
「な、なるほど……?」
カエデは真剣な表情になると居住まいを但して椅子の上で星座になり、アウレリアにやって来た訳を話し始めた。
「実はこの都市へとやって来たのは才能がなく忍者としてはやっていけなくなったため……要は、忍者の里を追放されたからなのです」
カエデは膝の上で拳をぎゅっと握る。
「忍者の里を追放されればもう忍者として雇われることはありません。不出来だったと烙印を押されたようなものですから、そんな忍者を誰も雇いたがりはしないのです。それでも、ずっと忍者としての修行はしてまいりましたので、才能では劣ろうとも、技術では負けません。ですからその技能を活かせるのではないか、とカエデの故郷でも名を轟返せる冒険者の集う街、アウレリアへとやってきたのでござる」
***
「シン殿、重ね重ねお礼を申し上げます。本当にお食事を恵んでいただきありがとうございました! あそこでお食事を恵んで頂いていなければ、野垂れ死ぬところでした! この御恩は必ず返しますので!」
飲食店から出ると、ぺこぺこと何度もカエデが頭を下げてきた。
「いやいや、いいよ。気になるなら今度会ったときにでもなにか奢ってくれればいいし」
「シン殿……なんて懐の深いお方なんでしょう……!」
カエデが感動したように僕を見上げてくる。
「そうだ。これからどうするの?」
「はい! 動ける気力も出て来たので、これからはギルドに冒険者登録に行こうと思うでござる!」
「へえ、冒険者登録……ん?」
「それではここで! また会いましょう!」
「ちょっと待った!」
「ん? どうしたのでござるか?」
僕は走り出そうとするカエデを引きと止める。
「冒険者登録って言ったよね? ギルドで冒険者登録するにはお金がかかるけど大丈夫?」
「…………へ?」
カエデがぽかんとした表情になった。
そしてさーっと顔が青くなる。
「カエデ…………お金がありません」
「……建て替えておいて上げるよ」
「ありがとうございます!」
カエデはにぱっ、と明るい笑顔を浮かべてお礼を述べた。
ころころと表情が変わる子だなぁ。
そこで僕はとある懸念が頭に浮かんだので、尋ねることにした。
「ちなみにギルドはどこにあるか分かる?」
「……そういえばどこかわからないでござる」
「……ついて行ってあげるよ」
ということで、僕はカエデにギルドまで案内した後、冒険者登録に必要なお金を建て替えて上げることにした。
***
「シン殿、本当にありがとうございました。シン殿とであっていなければ、カエデは今頃どうなっていたことか……」
「ああ、別に構わないよ。それでまたもう一つ聞きたいことがあるんだけど……ダンジョンの場所、わかる?」
「…………わかりません」
カエデはきょとんとした顔になったあと、うじゅ、と瞳を緩ませた。
「よし、分かった。こうなったらとことんまで付き合おう。僕もダンジョンに行くよ」
「えっ? そんな……ここまで助けていただいたのに、シン殿のお手を煩わせるわけには……」
「ダンジョンには初挑戦でしょ? 何があるかわからないし、僕が案内するよ」
僕の場合、大迷宮にぶっつけ本番で挑んだが、これは普通やらない。
まずはダンジョンに潜る前に先輩冒険者や、ギルドのインストラクターに一緒に潜ってもらうか、最低限モンスターなどの対処法を教えてもらうのが常識だ。
「武器は持ってる? 持ち物は失くしたって言ってたけど」
「ないでござる……」
「それでどうやって探索するつもりだったの……」
「カエデには忍術がありますので、なんとかなるかと」
カエデは手で印を結ぶと、いかにも忍者な構えを取った。
いや、さすがに忍術がすごくても素手は無理だと思う。
「武器は僕のを貸してあげるよ。いつもはどんな武器を使ってるの?」
「短剣でござる」
ちょうどよかった。アイテムボックスの中に放置してあるスレイドブレードが放置してある。
「はい、じゃあこれ。ちょっと強化して重くなってるけど」
カエデにスレイドブレードを渡す。
スレイドブレードを受け取ったカエデは刀身を観察するように眺めると、感心したような声を漏らす。
「良く使い込まれたいい剣ですね……」
「まあね。日にち自体は短いけど、それも相当使い込んだから。それじゃ、早速ダンジョンに潜ろうか」
「はい! カエデの忍術、お見せするでござる!」
そう言って僕たちはダンジョンへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます