第32話 新しい仲間?
僕らとノーズの合同パーティーは大迷宮の第10層までやってきた。
いろいろと不安だったものの、やはり七人という人数で探索すると戦闘はサクサク終わるし、一人ひとりの負担が少ないので楽に潜ってくる事ができるので、いつもより楽ではあった。
ただし、ちょっとした問題もまた起こった。
「ねえねえエルフの君、さっき糸を出してたけど、何の魔法なの?」
「……【影糸】っていう魔法よ」
ノクタリアはノーズのパーティーの一人に話しかけられていた。
いきなり馴れ馴れしく話しかけられたノクタリアが不満げに答える。
「へえ、元素は?」
「……私が教える必要はあるの?」
「あるある。俺達今は合同パーティーなんだぜ? 元素くらい把握しとかないといざというときに連携できないよ?」
一応彼の言葉には一理あると思ったのか、ノクタリアは鬱陶しさを隠さない声色で答えた。
「黒よ。これで満足?」
「えっ、そうなの!? 俺も黒なんだ! 君すごく強いしさ、同じ元素のよしみで今度俺に色々と教えてよ!」
「……」
ノクタリアは辟易したのかもうその話には答えを返さなかった。
そして一方では。
「ニアちゃん、ここから上がったらお茶でもどうかな? 俺、実は回復魔法に関しては自信あるんだよ。魔力を節約する方法とか教えるよ?」
「いえ、そういうのは結構です……」
「リリィって、『風』の元素なんだよな? どんなバフをかけられるんだ?」
「…………」
ニアは苦笑いでお茶の誘いを丁重に断り、それとなく距離を取る。
そしてリリィはノーズの話をガン無視していた。
さっきから、ノーズたち三人が、僕のパーティーの女性陣に向かってずっと話しかけているのだ。
そのせいで、今は僕が索敵と戦闘をこなしている。
というか、さっきからずっと僕がどちらもこなす羽目になっている。
これは流石に看過できないので、僕はノーズたちに注意することにした。
「ねえ、そろそろ索敵交代してくれる?」
「ん? 分かった……」
ノーズは話を遮られたことにちょっと不満そうな顔になった。
「あとさ、僕のパーティーメンバーに話しかけるのはやめてくれない? さすがに戦闘中におしゃべりするは邪魔なんだけど」
本当に迷惑していたので、ちょっと口調を強くしながら注意する。
すると流石にノーズもこれはまずいと思ったのか、申し訳無さそうな顔で謝ってきた。
「す、すまん! 確かにその通りだ! 俺達が悪かった! おい、お前らしっかりしろ!」
ノーズは自分たちの仲間を叱って、ニアやノクタリアに話しかけていたのを中断させる。
そしてちゃんと索敵の業務に戻ったのだが……。
僕は歩くスピードを落として、三人のとなりに並ぶ。
「大丈夫?」
「……ええ」
「あれくらいなら、シンさんと出会うまでにもいましたし」
「…………不快かも」
どうやら三人とも相当気分を害しているようだ。
街でのナンパとは違って立ち去ることもできない以上、彼らが話しかけてくるのを避けるのも難しい。
僕も流石にもう我慢の限界だったのでダンジョンから地上へと戻ることにした。
「そろそろ地上に戻ろうか」
「えっ? まだ潜って二時間しか経ってないぜ?」
「もう実力自体は分かったからこれで十分だよ」
「……まあ、そう言うなら」
ノーズたちはまだ探索を続けたいようだったけど、僕たちは地上へと戻ってきた。
***
地上に戻った後、ノーズたちには「四人で話し合って、明日結果を伝える」と告げて解散となった。
「それで、みんなはどう思った?」
居酒屋にやって来た僕たちは三人に尋ねる。
「絶対に嫌」
「ちょっと無理ですね。生理的に」
「次は多分半殺しにしてると思う」
「だよね」
聞くまでもなく彼女たちの意見は分かってたのだが、案の定即答だった。
三人はうんざりした表情で今日のことを愚痴り始める。
「探索中は世間話をしないでって言ってるのに、ずっっっと話しかけてくるから不快でしかなかったわ……」
「私も断ってるのに何回もお茶に誘われて、すごく不愉快でした……。パーティーを転々としてたときの人でもあそこまで諦めの悪い人はいませんでしたね……」
「じろじろと身体見てくるし、気持ち悪いしすっっっごく殴りたかったんだけど我慢したんだよ!? ねぇねぇシーくん褒めて?」
リリィが僕の腕に手を回してくっついてくる。
「うんうん、偉かったね。それとごめんね」
謝罪の意味も込めてリリィの頭をなでてあげた。
「んふー」
リリィがさっきまでの表情から一転、幸せそうな笑顔になった。
するとノクタリアとニアがむっとした表情になった。
「あっ! 私だって褒められたいのに!」
「……確かに、リーダーとして私達に一言あっても良いと思うけど?」
確かにノクタリアの言うとおりだ。
今回の一見はいわば僕がノーズたちと一緒に探索しようとしたことが原因と言える。
皆に詫びの一つでも入れるべきだろう。
「ノクタリアの言うとおりだね。皆には迷惑をかけたし、今日の代金は全部僕が奢るよ」
これで皆機嫌が直るかな、と思ったのだが思惑とは裏腹にノクタリアたちはどこか不満そうな表情になっていた。
「そういうことじゃないのに……」
「たまにすごく鈍感なときがありますね……」
二人はため息をつく。
リリィは上機嫌で僕の腕にくっついていた。
そのときだった。
「なあ、俺達はどうだった!」
ノーズたちが僕たちのところへとやって来た。
どうやら彼らは酔っ払っているようで、右手にはジョッキを持っていた。
(あちゃー……まさか居酒屋が被るとは)
僕は心のなかで頭を抱えた。
このアウレリアには避けや肉を好む荒くれ者たちの冒険者がたくさんいるので、当然居酒屋もたくさんある。
だからその中で彼らと店が被ることはないと思っていたのだが……どうやら外れていたようだ。
僕たちは四人がけの丸テーブルに座っていたのだが、ノーズ達はむりやりそこへ詰めて座ってきた。
ノクタリア達が心底うんざりしたようなため息を吐く。
ノーズがジョッキ片手に本題へと入ってきた。
「俺達、結構役に立つだろ? パーティーに入れてくれよ。お前も女ばっかりのパーティーで辛いだろ? 俺達が入ったら四対三で、ちょうどいいって」
「てか、ずるいぜ。こんなに可愛い子たちの独り占めしてるなんてよ」
「そうだそうだ。今日だって良いところで話を遮りやがって。俺等みたいなのにもちょっと分けてくれてもいいだろうが!」
ノーズの仲間たちが僕へと文句をぶつけるようにそう言った。
多分、探索のときに僕に彼女たちと話す機会を邪魔されて疎ましく思っていたんだろう。
探索中はちゃん我慢していたようだけど、酒が入ったせいでタガが外れてしまったようだ。
発言的に相当酔っているのだろうが、あまり聴き逃がせない言葉だった。
僕はため息を吐いて、彼らにきっぱりと告げた。
「言っとくけど、君らは不合格だ。僕らのパーティーにはいれないからね」
「…………え?」
ノーズたちが目をまんまるに見開いた。
「探索中ずっと僕の仲間に話しかけて警戒はおろそか、その上戦闘面でも特筆した技能があるわけでもない。これで誰がパーティーに入れたがるっていうのか、逆に教えてほしいくらいだね」
ノーズの顔がカッと真っ赤に染まった。
「てめ、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
「どうせお前なんか、女を独り占めしたいだけだろうが!」
「あのさぁ」
ドンッ!!! と大きな音を立ててリリィがジョッキを叩きつけた。
「ハッキリ言わないとわからないかなぁ? 正直言って、迷惑ななの。あんたたち」
「なっ、はっ?」
「あぁん?」
「い、いや……」
ノーズはリリィの言葉に面食らいながらもなにか言い返そうとしていた。
しかしリリィの肉食獣のような瞳に睨み返され、目をそらす。
「探索中なのにずっと話しかけてきて……索敵すらまともにできないような方とお茶に行くなんて、絶対にありえませんから。誘われるだけで虫唾が走ります」
「ていうか、二度と私達に関わらないでくれるかしら?」
ニアとリリィの二人もニッコリと笑みを浮かべているものの、言っている内容はかなり怒りを滲ませていた。
「って言ってるけど?」
「べ、別に、本気で入りたかったわけじゃねぇし……い、行くぞお前ら!」
ノーズはそんな良くわからない言い訳を述べると、気まずくなったのか急いで席を立ってどこかへと言ってしまった。
「あぁ……今頃三人ともすごく気まずいんだろうな」
居酒屋なのにまるでお通夜みたいな雰囲気になっている三人を想像して、心のなかで手を合わせた。
ノーズたちが立ち去った後、ノクタリアとニアは張り詰めた糸を緩めるようにはぁ、と息を吐き出した。
「はぁ……やっと言えたわ」
「ええ、スッキリしました」
「……殴りたかった」
「殴るのは流石に問題になるからやめようね」
「シーくんが言うならそうする!」
なだめるためにリリィの頭を撫でる。
するとすぐに上機嫌になったので、僕はほっと胸をなでおろした。
「それでさ、新しい仲間の候補が消えたわけで、また探そうと思うんだけど……条件はある?」
僕が三人にそう尋ねると、三人は顔を見合わせた後個を揃えてこういった。
「「「男性以外で」」」
こうして、僕たちのパーティーは男子禁制(僕を除いて)のパーティーになったのだった。
***
「男子以外で、って言ってもなぁ」
僕は食糧の買い出しでアウレリアの通りを歩いていた。
手には果実を持ってかぶりつきながら呟く。
目下の悩みは仲間集めについてだ。
先日の一件で男性冒険者を仲間にいれるのはなし、ということとになったのだけど、女性冒険者のあてなんてないので誰を入れようか迷っていた。
「うーん……受付嬢のお姉さんに仲介してもらおうかな?」
そんなことをブツブツとつぶやきながら歩いていると。
「ん……?」
視界の端に何やら奇妙なものが見えた気がして、僕は立ち止まる。
そして視線を横へと向けるとそこには……
『拾ってください』
という石で引っ掻いて書いた文字と思われる木札を持ち、木箱の中に体育座りしている涙目の女の子がいた。
立ち止まってしまったせいで、彼女とバッチリ目が合ってしまった。
涙目の彼女はまるで捨て犬のように寂しそうな声で、僕へと助けを求めてくる。
「たすけてくださいでござる……」
「えぇ……」
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