2章 仲間集め
第31話 合同パーティー
エリアボスとの戦闘から一ヶ月が経った。
「そろそろ仲間を増やしたいなぁ……」
僕がぽつりと呟くと、ノクタリア、ニア、リリィの三人が身構えた。
ニアが恐る恐る尋ねてくる。
「その……理由をお聞きしても?」
「前に『亡霊騎士・ガウェン』と戦ったでしょ? あれでちゃんと仲間を増やさないとなぁ。って思ったんだ」
僕がそう言った瞬間、皆は悲しそうな表情を浮かべた。
「そんな……やっぱり私達では力不足でしたか!?」
僕の言葉で真っ青になって詰め寄ってくるニア。
「あなたの期待に応えられなかったんだもの。見捨てられて当然だわ……。大丈夫、覚悟はできてる。あなたがそう言ったら、潔く身を引くって決めてたもの」
言葉とは裏腹にすごく傷ついてそうな悲しげな顔をしながら、胸の間でぎゅっと拳を握るノクタリア。
今にも泣きそうな表情が心をえぐってくる。
「うそ……やっぱりシーくん、私みたいなのはいらなっくなったんだ……」
この世の終わりみたいな絶望の表情になるリリィ。
それぞれ悲しげな表情になった三人に対して僕は待ったをかける。
「ちょ、ちょっと待って。なんでそういう話になるの? 別に僕は皆のことを追い出そうとなんかしてないから」
「ほんと?」
「私達、役立たずじゃないですか?」
「ちがうちがう。僕のほうが助けられてるくらいだよ。ていうか三人ともこの一ヶ月で信じられないくらい強くなってるし、役立たずとかあり得ないって」
なぜかあの亡霊騎士ガウェンとの戦いの後から、三人は厳しい訓練を積むようになった。
血が滲むような努力を続けたことで三人の実力は信じられないくらい伸びていた。
まだまだ未熟なところがあった技や駆け引き、魔力のコントロールの部分でも僕ぐらいとは言わずとも、あと数歩のところまで近づいてきている。
「それなら良いんだけど……」
僕の言葉を聞いてもまだ疑っているのか三人の表情は晴れなかった。
「もっと修行を積まないと……」
「私達がシンさんのお役に立てるようにならないとですね……」
それどころか新たに修行を厳しくしようと決意を新たにしているくらいだった。
「なんで三人とも最近こんな感じなんだ……」
僕は頭を抱える。
この一ヶ月、三人はやけに僕がノクタリアたちのことをパーティーから追い出すんじゃないか、という恐怖に駆られているようだった。
どれだけ僕が彼女たちにそんなことはない、と説明してもその疑惑が払拭できないようで、それどころかさらに鍛錬に打ち込むという悪循環が完成していた。
「僕の方が追い出されないか心配してるくらいなんだけどな……」
「「「それはない「です」「から」わ」」
三人の声がハモった。
なんでだ。意味のわからない元素を使ってる僕の方が
調子が戻ったみたいなので空気を切り替えるようにパン、と手を叩く。
「仲間を増やすのもそうだけど、そろそろ資金繰りについて考えないとね。ガウェンの魔石が結構高値で売れたからよかったけど、最近出費が多かったし」
ガウェンを倒した後、その場にはいくつかのドロップ品と、大きな魔石を置いた。
魔石を換金するときに驚かれて、色々と根掘り葉掘り聞かれることになったけど、収入は結構なものになった。
ガウェンの魔石、そして防具などのドロップ品も含めて約5000万コラ。
冒険者にとってはかなりの大金だ。
本当はここにあるものを追加すれば、もう少し収入もプラスされたのだが……。
「ごめん、私達が訓練でお金を使ったせいだよね……」
リリィがしゅんとして、ニアとノクタリアも追随して申し訳無さそうな顔になった。
まずい、また雲行きが怪しくなってきた。
僕は慌てて話題を変える。
「ていうか今更なんだけどさ、僕が貰ってよかったの? ミスリルの剣」
僕は腰に差している、ガウェンが使っていたミスリルの剣に視線を落とす。
ミスリルの剣はかなり高価だ。それこそ売ってればもう少し資金も持っただろう。
「いえ、それはそもそもシンさんのものですから」
「そうね。私にどうこう言えるような権利はないわ」
「そうだね」
しかし頑として三人は「自分たちにはその剣も、それを売ったお金も受け取る資格はない」と言って頑なに受け取ろうとはしなかった。
パーティーで手に入れたものだから、どう使うかは皆で決めたほうが良いと思うんだけど、三人の意見は僕とは全く真逆のようだった。
「それはそうと、絶対に、確実に皆を追い出そうとはしないけど、そろそろ仲間を増やしても良い頃だと思うんだ」
変な誤解を招かないように、あらかじめとびきり強く釘を打ってから僕は話題を切り出す。
「この一ヶ月で迷宮エリアの攻略もだいぶ進んだでしょ? そろそろ次のエリアが見えてくる頃だけど、だからこそ仲間を増やしたいんだ」
「前に行っていた魔力リソースのお話ですね。総体として魔力の総量が多いほど、深くまで潜れるという」
「そ、だから仲間を増やしたいけど、皆はどんな人がいいとかある?」
「私はあなたが選んだ人ならいいと思うわ」
「私もシンさんが選べば問題ないと思います」
「わたしもー!」
三人とも僕に丸投げすることにしたようだ。これは信頼のあらわれなのか、それともただ押し付けられてるだけなのか……前者ということにしておこう。
「それならパーティーに入りたい希望者の中から選ぼうと思うんだけど、どうする?」
打診、というのは僕たちのパーティーに入らせてくれ、というお願いのことだ。
現在、僕たちのパーティーに入りたいという希望者が、結構な量が来ていた。
「エリアボスとの一戦以降、注目度が上がったものね」
単独パーティーでエリアボスを倒した、という事実は冒険者から一目置かれるほどの功績だ。
そのおかげで、僕たちは若手かつ新人のなかではかなりの有望株と見られていた。
当然、その評判を聞きつけた冒険者の中には、僕たちのパーティーへと入りたいという人間も出てくる。
「わたしはシーくんが選んだ人なら問題ないと思うから、それでいいよ」
「私もです」
その時、とある冒険者が僕たちへと話しかけてきた。
「なあ」
声の方向を振り返ると、そこには僕たちと同い年くらいの三人の男性冒険者で構成されたと思わしきパーティーが立っていた。
「君たちは……僕たちのパーティーに入りたいと言ってた……」
「そうそう。ノーズだ」
「いきなりどうしたの?」
「ちょっと聞こえたんだが、応募してる中から新しいメンバーを選ぶんだよな」
「そうだけど」
「それなら、今から俺達と一緒に迷宮に潜らないか」
「え?」
「加入審査ついでにさ。メンバーを探してるってこと人手が足りてないんだろ? 俺達も迷宮エリアに慣れたあんたらがいたら心強いし、あんたらは人手不足を補える。お互いに得じゃないか」
要は合同パーティーを組もうという話らしい。
合同パーティー自体は冒険者の間で珍しい話じゃない。
ノーズの話は理路整然としてる。
でもどこかで用意したものを読み上げているような、そんな印象を受けた。
僕がその違和感について考える前にノーズが話を続ける。
「どうだ? 俺達が役に立てると思ったらメンバーに入れるか検討してくれればいいし、逆に役立たずだと思ったらそう言ってくれて構わない」
「そうは言っても仲間に確認を取らないと……」
僕はノクタリアたちへと視線を向ける。
「まあ、構わないけれど……」
「審査ということなら致し方ありませんが……」
「ほら、お仲間もこう言ってることだしさ。いいだろ?」
「……分かった」
若干引っかかる部分はあるものの、僕は加入審査としてノーズたちと一緒にダンジョンに潜ることにした。
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