第29話 決着
ステータスは明らかにあちらのほうが上回っている。
武器と装備の質でも、あちらの方が勝っている。
なら、僕はガウェンには勝てないのだろうか。
答えはNOだ。
力が及ばずとも、装備で劣ろうとも、勝負はそれだけでは決まらない。
勝敗を決するのは駆け引きであり、手札を出すタイミングなのだ。
僕とガウェンは向き合う。
「──ッ!!!」
先に動いたのはガウェンの方だった。
正中線に構えていた剣を地面まで落とすと、そこから僕まで数歩かかるはずの間合いをたった一歩で詰め、下から切り上げた。
まさかそんな最小歩数で詰められるとは思わず、僕は少し反応が遅れてしまった。
何とか回避が間に合ったが、鼻先を切っ先がかすめ、髪の毛が数本空中に舞った。
追撃するようにガウェンが距離を詰め、剣を振るう。
(しまった、完全に先手を取られた……!)
ガウェンの猛攻は留まるところを知らず、次々と繰り出される攻撃に僕は防戦一方になった。
──先程までの荒々しい剣とは明らかに違う。
緻密かつ鋭く、最短最小の動きで無駄がない剣。
それに加えてフェイントや駆け引きまでも交えられていく。
鍛錬の末に洗練された剣技と、聖剣化によって強化された攻撃力によって、僕は徐々に追い詰められていく。
「くっ……!」
これは一度仕切り直すべきだ。
僕は後ろに飛んで猛攻から逃れようとした。
「──ッ!!」
ガウェンが剣を振る。
聖剣化された刀身が輝き、聖剣のエネルギーが光の刃となって僕へと飛翔した。
「それは……姉さんで何度も見てるんだよ!」
姉さんとの模擬戦で聖剣化の使い方を知っていた僕は白炎を使い、刃を無効化する。
自分の魔法が打ち消されたことに虚を突かれたように動揺する。
同時に一気に五メートルの距離を詰めた。
「それを飛ばすと、もう一度聖剣のエネルギーをチャージする必要がある、でしょ?」
聖剣化のエネルギーを大きく使う行動をすれば、刀身から減った聖剣化のエネルギーを充填する必要がある。
つまり現在、ガウェンは強力なバフを失った状態というわけだ。
弱体化している今こそ、攻め時だ。
「はあ……ッ!!」
「──ッ!!!!」
裂帛の気合を込めた一撃をガウェンへと御見舞いする。
ガウェンはそれに応えるように剣を打ち合った。
一撃を防ぎはしたものの、不利な体勢からだったため大きく身体をのけぞらせた。
そのアドバンテージを活かすように僕は何度も連撃を仕掛ける。
【聖剣化】の魔法を持つ姉さんと何度も打ち合ってきたからこそ身にしみて理解している事がある。
聖剣化された剣と何度も打ち合うのは無謀だと。
ステータスも大きく差をつけられている今、ガウェンにもう一度聖剣化されることは一番避けたい。
そして、とうとう僕はガウェンを追い詰めた。
あと一手。
ガウェンがリカバリーが出来ないほどに体勢を崩すことができれば、僕が勝つ。
──だけど、目の前に勝利の二文字が見えたときほど、人は油断してミスを犯す。
「は……ああああッ!!!」
振り下ろされるガウェンの剣を、真下から跳ね上げさせた剣で迎え撃つ。
ガキィィィィンッッッ!!!!!
ガウェンの剣が真上に跳ね上げられた。
「ここだ……ッ!!!」
僕は剣を引き、突きを繰り出そうとする。
そのとき、スローモーションの世界の中で、ガウェンが少し動いた。
それは首を傾げて、最小限の動きで僕の突きを避ける動きだった。
このままいけば突きがガウェンの首をギリギリ掠める軌道を描いて外れてしまう。
「しまっ……」
僕の突きのタイミングも、間合いも読まれている。
そう思ったときにはすでに遅く、僕は攻撃の動作へと入っていた。
ここで動きを中断しようとして力を入れれば不自然に動きが硬直し、そこをガウェンから攻撃を食らうだろう。
しかし突きを打ってもギリギリで躱されて、カウンターを食らう。
──ミスった。
ガウェンはリリィのときと同じように、激しい攻防と連撃の中でガウェンは冷静に僕の間合いを読み切った。
僕は読み間違えたことを悟り、苦しげに顔を歪ませる。
兜の下で揺らめく幽鬼の光が、ニィ……と笑ったような気がした。
「…………と、思うよね」
僕はニヤッと笑う。
絶体絶命の状況でそんな表情をすると思わなかったのか、ガウェンが驚いたように目を見開く。
──全部、読み通りだ。
連撃をしかけたのはガウェンに僕の動きに慣れさせて読み切らせるため。
トドメの一撃に突きを選択したのは、この技を一度ガウェンに見せているから読むのが容易なため。
そして読み切った、と相手に錯覚させるため。
──勝利を確信したときほど油断するものだから。
すべてはこの一撃を確実に当てるための布石だ。
僕が旅立つ日。
姉さんとの駆け落ちを賭けて行われた模擬戦で見せた、初見殺し。
大量の魔力を使って、身体の一部分──剣を持った腕に魔力を集めていく。
僕はリリィのように【ステータス強化】の魔法は持っていないけど、幼少期に魔力の研究をしていたため、魔力を使って身体強化の真似事が出来る。
いかんせん魔力効率がすこぶる悪いけど、それでも体の一部分、たった一瞬だけに絞ることで、その効果を極限まで上げることが出来る。
それこそ、普通のバッファーには出来ない領域まで。
魔力による極限まで高めた身体強化の一撃。
これこそが姉さんに使った奥の手だ。
姉さんは最強だった。
技量でも読みでも勝てなかった僕は、どうにかして姉さんに勝つ方法を探していたときに思いついた方法だった。
それがこの魔力による身体強化だ。
効率が悪すぎて魔力の身体強化なんて使っている人間はいないから、完全に相手の意表をつくことができる。
それに加えて戦いの中でそれまでの僕の剣の速さで目を慣らしているせいで、何倍にも速度が上がったこの一撃を目で追うのは難しくなる。
つまり、ほぼ確実にこの技を当てることが出来る。
でも一度この技を経験してしまえば、次からは相手も最初から警戒しているため、二度と意表を突くことはできない。
「これは、姉さんでも初見で見破れなかったよ」
──僕の手に集めた魔力の光がきらめく。
まるで夜空で輝く星のように。
「は……あああああッ!!!!」
一閃。
流星が駆け抜けた。
ガウェンは突きを避けきれず、心臓がある位置へと僕の剣が突き立っていた。
心臓がないガウェンは、剣を掴んで引き抜こうとする。
「終わり…………だあああッ!!!」
それでもまだ動こうとするガウェンに、ありったけの魔力を使って【白炎】を撃つ。
「────ッッッ!!!!!!!!」
燃え上がったガウェンが悲鳴を上げる。
白い炎に前進を焼かれながらゆらゆらと後退して……膝をつく。
ガウェンはそれでもまだもがいていたものの、不意にピタリと動きを止める。
そして僕の目をじっと見つめると──身体が塵になり始めた。
僕とガウェンは視線を交わす。
その身体がすべて塵となっていくのを、僕は静かに見送った。
ガウェンの身体がすべて塵となったとき、その場にはいくつかのドロップアイテムと、白銀の剣が落ちていた。
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