第20話 宝物殿
突然だけど、僕はRPGやオープンワールドのゲームではマップの隅々まで冒険する派だ。
なぜなら行き止まりであっても、そこに宝箱があるかもしれないから。
伝説の武器やアイテムが入ってる部屋の扉があるかもしれないのだから。
というわけで、僕はこの大迷宮ではできる限りマップの隅々まで歩くようにしている。
「ねえ、ちょっとそこの角の先まで見てきても良い?」
「また? さっきの角も見たじゃない……」
僕の言葉にノクタリアが呆れたようにため息を吐く。
「だ、だってもしかしたら宝箱とかあるかもしれないし……」
「そんなことあるわけないでしょ。迷宮エリアはもう探索され尽くしてるんだから。それは地図を暗記してるあなたが一番分かってることでしょ?」
ノクタリアの言う通り、僕は第五層から第二十層まで続くこの迷宮エリアの地図を、完全に暗記している。
迷宮エリアはもうすでに探索され尽くした後なので、完全に地図化されてその地図は安価で出回っているのだ。
マップを暗記してるなら、行き止まりって分かってるところに行っても意味ないって? そういうことじゃないんだよ。
「それはそうだけど……こう、ロマンというか。やっぱり目で確認しないとでしょ?」
「そうは言っても限度があるわよ。現に私達、先週からまだ二層しか到達階層を更新できていないのよ?」
ノクタリアの言う通り、僕たちは四人パーティーになったものの、一週間かけて二層しか到達階層をプラス出来ていなかった。
原因は間違いなく、僕が隅々まで確認しようとするせいだ。
でも仕方ないんだ。
曲がり角の先に何があるかは見てみないとわからない。
地図に行き止まりと書いてあっても、何かありそうならワクワクするのが冒険心というもので……。
「何を一人でブツブツ呟いているのよ……」
おっと、どうやら独り言が漏れていたらしい。
僕は慌てて口を閉じる。
「あなた達からも何か言ってちょうだい……」
ノクタリアはニアとリリィに助けを求めた。
「まあ、確かに隅々まで歩いて確認するのは困りますけど……」
「私はシーくんがいくとこについてく」
ニアは苦笑いでごまかし、リリィは笑顔でそう断言した。
ノクタリアは無言でこめかみに手を当てた。
まずい、これはかなり怒っているときの兆候だ。
「分かった。細かい探索はほどほどにするから…………ん?」
僕は違和感に気がついた。
ここ、暗記したマップの記憶とちょっと違うような。
そこは行き止まりになっており、長い事誰も来ていなかったせいかどうも埃っぽい場所だった。
行き止まりは行き止まりなんだけど、壁の辺りに違和感があった。
「どうしたんですか?」
「いや、ちょっとね」
石造りの壁をペタペタと触ってみたり、床の石を押してみたりする。
そしてとある普通の石を押したら。
ガコ、と音を立てて石が沈んだ。
すると目の前の壁が扉のように横にスライドしていき、奥に空間が現れた。
「………………まじ?」
奥の空間を見て、僕は思わず呟く。
「うそ……」
ノクタリアもまさか僕が隠し扉を見つけるとは思っていなかったのか、驚愕していた。
「流石ですシンさん!」
「おおぉー!」
ニアとリリィも目の前の光景を見て驚いていた。
僕は呆然としながら呟いた。
「間違いない……これ、宝物殿だ」
扉の先にある金銀財宝を見ながら。
***
宝物殿。
それは大迷宮に稀に現れる場所だ。
宝物殿の中にはその名の通り金銀財宝、果てはレアなアイテムや武器が眠っている場所だ。
宝物殿を見つけることができれば文字通り一攫千金。
大抵は死ぬまで遊んで暮らせるだけのお金が手に入る。
だから冒険者にとって、宝物殿とは誰もが夢見る場所だ。
一時的に扉が繋がっているだけで、時間が経てば消えてしまう系の宝物殿もあるけど、僕たちが探し当てたのは隠し部屋系のずっと残るタイプの宝物殿だった。
「凄い……こんな場所があるなんて……」
ノクタリアが部屋の中を見渡して感嘆のため息を漏らす。
部屋の中は神殿のような建築様式で、床や壁、そして柱が金銀で装飾された巨大なホールになっていた。
「こんなに金貨や宝石がたくさん……」
そして、ホールの真ん中には金貨や財宝が山のように積み上げられていた。
「こんな場所がどうして十層の中に……」
「多分、最初にマッピングした人がかなりの面倒くさがりで、普通の行き止まりだったから、地図に書き写すだけでろくに調査しなかったんだろうね」
「それを調査済みと勘違いして、誰もここを調査することはなくなり……くまなく探した私が見つけたというわけね」
「ねーねー! これ全部売ったらいくらになるかな!」
リリィが積み上げられた金貨に近づいてザブーン! とお尻から飛び込んだ。
「たぶんいっぱいだ!」
僕も一緒にリリィみたいに背中から金貨と財宝の山に飛び込む。
「痛いけど楽しい!」
「もしかして、楽しんでる……?」
「もちろん! だって、宝物殿は全冒険者の夢だし!」
ダンジョンをくまなく探索した果てに、自分たちだけが見つける大量の金銀財宝。
これこそ冒険だ!
「実際、これを換金したらいくらになるかしら……」
ノクタリアが顎に手を当てて金貨の山を見上げる。
「資産として取っておくのも手だとは思いますが、この量となると持ち運ぶのは実質無理ですね……」
「いくら僕らが冒険者とはいえ、この量はちょっとね。保管する場所もないし」
僕たち冒険者はレベルが上がり、常人を遥かに超えた力を持つことが出来る。
しかし僕らはたった四人しかいない。
その人手でこの金貨を全て運び出すのは無理だし、それを置いておく場所もない。
僕らが大量の金貨を持っていることがバレたら詮索されてしまう。
「あれ……?」
その時、金貨の山の奥へと回り込んでいたニアがそんな声を上げた。
「シンさん、ちょっとこっちに来てもらってもいいですか?」
少し焦ったような声だったので、僕は慌ててニアの方へと駆け寄った。
僕とノクタリア、リリィが駆け寄るとそこには扉があった。
ニアは引きつった笑みを浮かべて、
「シンさん、ここ……下の階があります」
扉の先に続く階段を見つめていた。
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