第18話 【ステータス強化】の使い方
今日、僕たちはダンジョンに潜る前に冒険者ギルドへとやって来ていた。
ステータスがどれだけ上がったかを確認するためだ。
ステータスは自動的に上がっていくけど、それを確認する方法は古代文明の道具か、ステータスを確認できるようなスキルや魔法持ちにしか出来ない。
もちろん僕たちの中にそんなスキルや魔法を持っている人間はいないので、ステータスを確認するにはギルドに行く必要がある。
ステータスを確認できる古代文明の道具は安くないので、買うためにはもっと稼がないといけない。
「本日の御用はなんでしょうか」
「レベルが上ってきたのでステータスを確認させてください」
「かしこまりました。どうぞ」
受付嬢の人が水晶を貸してくれる。
ノクタリアとニアが譲ってくれたので、まずは僕から確認することにする。
【シン・アドヴェンテ】
Lv.20
元素:白(アルバフラム)
筋力:81 耐久:74 敏捷:61 器用:51 知力:70 魔力:83
《スキル》
【炎成えんせい】
・常時微量の自動回復効果
・ステータスの成長が早くなる
《魔法》
【白炎はくえん】
・炎属性攻撃
・治療効果
・《スキル》や《魔法》による効果を無効化する
「おっ、結構上がってるじゃん」
ステータスを見て僕は声を上げる。
通常よりもペースが早いのは、多分【炎成】の「ステータスの成長が早くなる」という効果だろう。
冒険者のレベルは、倒したモンスターから吸収した魔力量により変化する。
ステータスの伸びしろがまちまちなのは、この世界のステータスはレベル上昇と共に数値が上昇するのではなく、その都度の成長具合によって上昇するからだ。
つまり筋トレをしたら筋力が上がるし、逆にずっとサボってたらステータスはどんどん下がっていく。
「次は私ね」
そう言ってノクタリアが水晶に手を当てる。
【ノクタリア】
Lv.18
元素:黒(オブシディア)
筋力:49 耐久:41 敏捷:59 器用:61 知力:42 魔力:48
《スキル》
【
・ステルス性能が大幅に上がり、敵に発見されにくくなる。また少しの間影に潜むこともできる。
《魔法》
【
・闇の糸を出す。強度は魔力の込め方に寄り変動する。自由自在に動かすことが可能。
「器用の上がり方がすごいね。影糸を使ってたからかな」
「そうね。でもまだまだね。もっと精進しないと……」
レベル18にしてはかなり十分といってもいいステータスのはずだけど。
僕の【炎成】スキル込みのステータスを見て目劣りしてるのかもしれない。
「ノクタリア、僕のスタータスが高いのはスキルのせいであって、君のステータスは十分に高いからね?」
「それは分かってるわ。そういうことじゃないの」
「……?」
「では、次は私ですね」
僕が疑問符を浮かべていると今度はニアが水晶に手を当てた。
【ニア】
Lv.14
元素:月(ルナリウム)
筋力:31 耐久:28 敏捷:22 器用:31 知力:41 魔力:49
《スキル》
【
・回復魔法による回復量が極大化される。(回復量が超過した場合、ヒールをかけられた対象は『過回復』状態になる)
《魔法》
【
・ヒール
「魔力が順調に上がってきてますね。私は魔力量が命綱なのでもっと上げないと……」
ニアは筋力や耐久など、身体能力方面のステータスはめっきりだけど、魔法系に関してはかなり伸びていた。
恐らく、最近は魔法を多用していたからだろう。
「さて、ステータスも確認し終わったことだし、そろそろダンジョンに潜りに行こうか……ん?」
僕が二人にそう提案した時、視界にとある人物が映った。
それは先日ノクタリアとニアと出かけた時、公園でバフをかける練習をしていた『風』の元素と思われる少女だった。
その少女は所在なさげにギルドの中をうろうろとしており、他の冒険者に話しかけようとしてはやめる、ということを繰り返していた。
「どうしたの?」
「ちょっと待ってて」
どうしたのかと尋ねてくるノクタリアにそういうと、僕は彼女の元へと駆け寄っていく。
彼女はまた冒険者に話しかけようと手を伸ばして、引っ込めていた。
「あの…………うぅ」
「ねえ」
「はっ、はいっ!!」
僕が声を掛けると背後から声をかけられたせいで驚いたのか、彼女はビクン! と肩を跳ねさせた。
「な、なんですか……!」
びくぅ、と縮こまった彼女は涙目で僕を見上げてくる。
黒髪と、猫みたいな金色の瞳。
身体は平均に比べて小柄だけど、ぶかっとしたローブを羽織っているせいで筋肉がどれくらいついているかはわからない。
「どうしたの? さっきから何か探し回ってるみたいだけど」
「その……わ、私…………探してるんです」
「探してる?」
「はい…………パーティーを……」
「へえ、パーティーを探してるんだ」
視線を泳がせながら話す彼女。
おっかなびっくりしながら話す姿を見てると、まるで警戒心の高い猫と話してる気分になる。
「あ、そうだ。僕はシン。君は?」
「私は……リリィです」
「そっか、リリィ。じゃあ僕のパーティーに入らない?」
「…………へ?」
大きな瞳が見開かれた。
すかさずノクタリアとニアが声をかけてくる。
「ちょっと、何考えてるの?」
「シンさん?」
なぜか二人共笑顔が怖い。
単純に仲間に誘っただけだったんだけど、何が彼女たちの気に障ったんだろう。
「いや、だってパーティーを探してるみたいだったし。どうせ第十層から下に行くには四人いるんだからさ、どうせなら『風』の元素を誘おうかなって」
「あっ、あの……なんで私の元素を知ってるんですか……っ!?」
リリィが尋ねてきた。
「ああ、ごめん。前に公園でバフをかける練習してたところを見かけたんだ。だから『風』の元素だと思ってたんだけど……間違ってた?」
「いえ、あってますけど……」
「じゃあさ、僕のパーティーに入らない? ちょうど『風』の元素の冒険者を探してたんだ。君もパーティーを探してたんだよね?」
僕がそう言って手を差し伸べると……リリィは目を逸らした。
「その……私なんか仲間にいれるのはやめておいたほうが良いと思います……」
「どうして? パーティーを探してたんじゃないの?」
「そ、そうですけど……」
「何か問題でもあるの?」
リリィは少しためらった後、話してくれた。
「わ、私は、他人にバフがかけられない出来損ないのバッファーなんです……」
どこかで聞いたことがあるような話だな……と僕は心のなかで呟いた。
ふむ、と僕は顎に手をそえて考えた後、リリィに一つ尋ねた。
「もしよければスキルと魔法を教えてもらっても良い? 僕ならもしかしたら相談に乗れるかもしれないけど」
「スキルはなくて……魔法は【ステータス強化】です」
リリィの魔法はごく一般的な、所持している人間が多い魔法だ。
「どうして他人にはバフがかけられないの? 他人にってことは自分にはかけられるんだよね?」
先日公園で見た時、リリィは自分にバフをかけることに成功してた。
魔法自体は特殊なものではないから、普通に練習すれ他人にかけられるようにはなるはずだ。
「それが……私には分からなくて……」
リリィは首を横に振る。
「ふむ……ちょっと見せてもらっても良い?」
「いいですけど……」
ちょうどここにはステータスを見れる道具もあるし、本当にバフがかかってるかどうかを確認するにはもってこいだ。
「じゃあ、バフをかけますね……」
リリィは僕へと手のひらを向ける。
【ステータス強化】の魔法が僕へとかかる。
「バフ自体はかかってるけど……」
受付嬢の人にまたステータスを確認する道具を貸してもらい、僕のステータスを確認する。
「バフはかかってるけど……」
「だいたい五パーセントプラスってところかしら」
「なるほど、確かにこれはバフがかかってるかどうかわかりませんね」
この世界でのバフは、何割増しでかけることが出来るかによって変わってくる。
ステータスを三割増しにできるなら一般的なバッファー、五割で優秀。七割以上で一流だ。
なかには十割増しにできる『風』の元素持ちもいるけれど、それは本当に片手で数えられるレベルだ。
一方、五パーセント増しというのは正直に言えばかなり少ない。
ステータスが五パーセント増しになったところで、何となく調子がいい日みたいなもので誤差の範疇だ。
「別にバフのかけかたに問題があるようには見えなかったんだけどなぁ……」
「私がバフをかけるといつもこうなんです。自分でかけるときは成功するのに、他人にバフをかけた瞬間、全然だめで……」
「自分にはかけられるの?」
「はい……自分にかけるのだけは自信があるんですけど……」
「自分にはかけられる……」
僕は何が原因なのかを考える。
(自分には問題なくかけられるけど、他人にはかけられない。なんでだ……?)
その時、脳裏にピンときた。
「ねえリリィ、自分にバフをかけてくれる?」
「え? 自分にですか?」
「そう、自分には問題なくかけられるんだよね?」
「は、はい。分かりました……」
リリィは自分に【ステータス強化】の魔法をかける。
「かけおわりました……」
「じゃあステータスを確認してみて」
「こうですか……?」
リリィは疑問符を浮かべながらも水晶に手を当ててステータスを確認する。
「えっ?」
リリィの目が大きく見開かれた。
「ステータスが……五倍に、なっています」
「やっぱりね」
僕はこの結果を大体予想していたので、訳知り顔で頷いた。
五倍は流石に予想外だったけど。
「ステータスが五倍?」
「シンさん、一体どういうことなんですか?」
ノクタリアとニアが尋ねてくる。
「これはリリィの個人情報になるから、人の耳がないところへ行こう」
「人がいないところとは……」
「もちろん、大迷宮だ!」
「それ、あなたが行きたいだけでしょ」
ノクタリアのほうから冷静なツッコミが入った。
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