第17話 デートと新しい仲間?

 ニアが回復魔法を習得した後、僕は明日の予定を二人に伝えた。


「明日はダンジョンの探索をお休みにしよう」

「えっ? せっかく回復魔法も習得したのにですか?」

「うん」

「珍しいわね。あなたがダンジョンの探索をしないなんて」

「休息は大事だからね。ニアは回復魔法の習得で精神も体力も消耗してるから、それを回復するために明日はお休みだ」

「わ、私は大丈夫です! ポーションを飲めば……」

「だーめ。無理やり魔力を回復させても身体に悪いだけだからね」


 ダンジョンという場所の性質上、無茶をする日がいつかやって来る可能性は十分にある。

 でもそのときにする無茶と、準備を怠ってダンジョンに潜る無茶は別物だ。

 僕がニアの提案を断ると、ニアはポッと頬を赤らめた。


「そんな、シンさん……。そこまで私の身を案じてくださるだなんて……」

「明日は僕も装備を整えたいしね。これもそろそろ変え時だし」


 僕は一番最初に買った短剣、スレイドブレードを撫でる。

 最初の武器をできるだけ使いたかったけど、性能的に十層以降の敵にはさすがにこの短剣だけじゃ太刀打ちできない。

 そろそろグレードが上の武器を買うべきだろう。


「……へえ、それなら私もついていこうかしら」

「え?」

「私もちょうど、武器を新調しようと思ってた頃だし」

「いや、先週片手剣を買ってなかった?」


 僕は首を傾げる。


「買い替えるの」

「そ、そう……」


 ノクタリアの圧に押されて僕は頷いてしまった。


「それなら明日一緒に武器屋に行こうか」

「ええ。そうしましょう」


 僕とノクタリアが明日の予定をすり合わせていると、ニアが慌てたように手を上げた。


「じゃ、じゃあ私も買い替えます!」

「えっ、ニアも?」

「はい! 短剣を買い替えます!」

「いや、短剣はまだ一回も使ってないし買い替える必要は……」

「だめですこれ安物なので命に関わります買い替えます! 折角のデー……お出かけですから、仲間同士親睦を深めないと!」


 顔を近づけてまくしたてるニアに、また僕は根負けした。

 確かにニアの言うことも一理あったから、言い返せなかったのだ。


「そ、そっか……じゃあ、明日一緒に行く?」

「はいっ!」


 ニアは満面の笑みで頷く。

 その後、ノクタリアとニアが意味ありげな視線を交わし合っていたが、僕には何のことか分からなかった。



***



 翌日、僕たちは大迷宮の入口前で待ち合わせることにした。

 別に店がある通りの方で待ち合わせしても良かったけど、冒険者である僕たちにとってはここが一番待ち合わせしやすかったのでここにした。

 しばらく待っているとノクタリアがやってきた。


「おまたせ」


 ノクタリアはお洒落をしていた。

 彼女の落ち着いた雰囲気を引き立たせる大人っぽいコーディーネートだった。


「おまたせしました!」


 次にニアがやってきた。

 ニアも同じくお洒落をしていた。

 なんだかやけにふたりともお洒落してるし、そわそわしてる。

 単に武器を見に行くだけなのに。

 まあ、戦闘するわけでもないからそれでいいんだけど。

 店のドアを開けるとカランカランと鐘が鳴る。

 店の中には他にも僕たちと同じく冒険者と思われる人たちが武器を見ていた。

 僕が片手剣の棚を見ていると、ノクタリアが尋ねてきた。


「短剣じゃないの? いつも使ってるから、短剣使いなんだと思ってた」

「ああ、短剣は一番最初に買った安い武器があれだっただけだよ。僕が一番慣れてるのは剣の方。どちらかと言えば短剣は苦手なんだよね」

「えっ? その割にはかなり習熟しているように見えたけど……」

「大体の武器はある程度使えるようにしてるんだ……あ、これとかいいね」


 僕は壁にかかってある剣を手に取った。

 プロテクションソード。盾鉄鋼が使われていて、肉厚で幅がやや広い刀身が特徴の剣だ。

 値段は10万コラ。

 前回かったスレイドブレードよりかなり高くなるが、元々あの短剣自体が格安過ぎただけで、これくらいの値段が普通だ。

 つまりで言うなら、これくらいの値段帯の剣がちょうど一番使われる剣だ。

 切れ味や耐久力はさることながら、剣の作り自体がしっかりしてるので強化による拡張もできる。

 難点としてちょっとだけ重いけど、それは耐久力とトレードなのでまあ仕方ない。

 パーティーの役割的に僕が前線を張ってタンクの役割を背負うので、剣は頑丈な方が良い。

 手にとって剣の感触を確かめる。


「うん、悪くないね」


 これは強化したら20層の後半まで使えそうだ。

 僕はプロテクションソードを購入した。

 鞘と一緒に購入すると、合計は10万8000コラになった。

 剣についてる鞘じゃなくて、そこそこ良い頑丈な鞘を買ったからだ。

 もしプロテクションソードが手元からなくなったり、使えない状況に追い込まれたときは鞘を棍棒代わりに出来る。

 そして僕の剣を購入すると、今度はニアの剣を見ることにした。

 短剣の棚を確認しながら、僕は良さげな短剣がないかを確認する。

 流石にスレイドブレードは買っても意味ないし……そこそこ使えそうなやつがいい。

 近接戦闘はしないし、ニアは筋力もないからできれば軽くて頑丈なやつが良いだろう。


「これはどうかな」


 僕はライトブレードをニアに渡す。

 軽くて頑丈。そして切れ味はかなり高い一品だ。


「これにします」


 ニアは僕が短剣を渡した瞬間即決した。

 鞘に収められた短剣を胸の中で握りしめている。


「いや、もうちょっと考えたほうが良いと思うけど……」

「どうせ剣の良し悪しはわかりませんし、それならシンさんが選んでくれたものの方が確実に良いものに決まってます。シンさんが選んでくれたものを使いたいです、し……」


 隣にいるニアが上目遣いではにかむように僕のことを見上げてくる。


「ねえ、私の剣も選んでくれないかしら」


 その時、ノクタリアが声をかけてきた。

 自分の片手剣も選んで欲しいということだ。


「はいはい」


 ニアの短剣はもう選んだので、ノクタリアの方へと歩いていく。

 なんだか背後のニアから視線を感じたような気がしたけど、気のせいだろう。


「私の剣はどんなのが良い?」

「君はスキルの【潜影】もあるし、軽い暗殺用の剣がいいんじゃないかな。ほら、これとか」


 僕は手に取ったニードルソードを手渡す。

 刀身は通常のサイズよりも細く、どちらかと言えばエストックに近い形状。

 刺突や軽さを活かして戦う剣だ。

 しかしちゃんと撃ち合いが出来るくらいには耐久力はある。


「あなたが選んでくれた剣……大切にするわね」


 ノクタリアは僕が選んだ剣をとても大事そうに抱きしめた。

 二人とも剣を選んだだけなのに、なんでこんなに大げさなことを言うんだろう。




 そしてそれぞれ新しい装備を購入した僕たちは店から出ると、街を歩いていた。

 ノクタリアとニアはまるで何かをアピールするみたいに、それぞれ分かりやすい位置に剣と短剣を下げている。

 僕の方からアイテムボックスにしまおうか? と提案したのだが二人には断られてしまった。

 分かる分かる。買ったばかりの剣って、なんだか持ってるだけでワクワクするんだよね。


「これからどうしますか? 折角ですから通りで買い物でもしますか?」

「そうね。せっかくの休日だしね」

「じゃあ付き合うよ」


 パーティーが三人になってから初めてのお出かけだ。

 ここらへんで親睦を深めておくのもいいだろう。

 僕がそういうと二人共嬉しそうな声を上げた。

 そして商店が立ち並ぶ通りへと移動しようとしたその時。


「ん?」


 公園の中に一人、少女がいた。


 黒髪に金色の瞳の、小柄な少女だ。

 彼女はなにかの練習をしているようだった。

 自分が手に持っている短剣に念を送るように手を向けて唸る。

 すると彼女の身体が光った。

 あれは魔法の光だ。


(ああ、彼女は『風』の元素なのかな?)


 僕が心の中で呟いていると、黒髪の彼女は暗い表情でため息を吐いた。


「やっぱり一人だと成功するんだよね……なんでだろう……」


 バフをかけることには成功したみたいだけど、彼女は悩んでいるみたいだった。

 なんとなくその少女を見ていると、ニアから声をかけられた。


「シンさん、どうしたんですか?」

「いや、なんでもない」


 特に気にするようなことでもなかったので、僕はその場を後にした。

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