第8話 新しい仲間?


 それから一週間が経った。

 大迷宮の探索は順調に進み、五層の手前までやって来た。

 いつもの通りモンスターを倒し終えると。


「ん……?」


 ふと違和感に気がついた僕は、スレイドブレードの刃先を注意深く見た。

 僕の予感はあたった。


「あちゃー……欠けちゃったか」


 刃先が少し欠けている部分があったのだ。

 この一週間、この短剣を使い倒していたので限界が来てしまったようだ。

 普通ならもうちょっと持つんだろうけど、安物の剣だから仕方ない。


「今日は早いけど切り上げて戻ろうかな」


 短剣をしまうと、予備の旅立ちのときに貰った剣をアイテムボックスから取り出して装備する。

 そして地上までの道を歩いていった。



***



 次の日、僕は最初に大迷宮にはいかず……鍛冶屋にいくことにした。

 目的はシンプル。武器を強化するためだ。

 というわけで鍛冶屋にやってきた。


「こんにちは」

「おう兄ちゃん、なにか用か」


 カウンターにいる頭がツルツルで汗だくな褐色のムキムキおじさんに声を掛けると、おじさんは気前のいい笑みを浮かべてそう答えた。

 ちょび髭がチャームポイントのおじさんだ。

 奥には工房が見えており、火がごうごうと燃えている炉と金床、そしてハンマーが置いてあった。


「武器の手入れと強化をしたいんですけど」


 僕は短剣のスレイドブレードをカウンターに置く。

 おじさんは置かれた短剣を見て眉をひそめる。


「これを強化したいのか?」

「はい」

「素材は持ち込みか、それともこっちで素材を用意するか?」

「あ、素材はないのでお願いします」

「……兄ちゃん、言っちゃあなんだがな。これを素材込みで強化するくらいなら、その金で新しい武器を買ったほうが得だと思うぞ?」


 想像してた答えだ。

 おじさんの言葉は正しい。

 この武器は武器屋にダンジョン初心者用の武器として売っている、一番最低限の性能の武器だ。

 素材費込みで武器を強化するくらいなら、他の強い武器を買ったほうが得だ。

 このおじさんが僕にそんなことを教えても一切の得にならないので、単純に善意で言ってくれてるのだろう。

 でも、僕はあえてこの初心者用の短剣を強化する。

 一番最初に手に入れた武器を使い込んで限界まで強化して使い込むのって、なんか”いい”からね。


「はい、分かってます。でもこれは一番最初の武器なので思い入れがありますから」


 まあ、買ったのは一週間前なんだけど。


「ほぉ……兄ちゃん、分かってるじゃねぇか! そう、そうなんだよ! 武器ってのは性能とか使われた素材の質だけじゃねぇ! 使い込まれてそいつだけの唯一無二の相棒になるんだよ!!」


 なんだかおじさんが凄く上機嫌になった。

 カウンター越しからバンバンと肩を叩かれる。


「気分がいいから素材分は半額にしてやる! 好きなの選びな!」

「えっ、ありがとうございます」


 棚からぼた餅。

 半額は結構でかい。


「元が元だからな、混ぜれる金属は一種類が限度だろう。鋭さ、軽さ、耐久性、重さ、魔力伝導性……どこを強化したい?」

「じゃあ、耐久力と錆防止のやつをお願いします」

「おっ、強化も安易に切れ味とか選ばないのも良い筋してるじゃねぇか。初心者は大抵鋭さとか、軽さとかを選びがちなんだがな」

「武器に一番求めてるのは丈夫さだからね」

「いいぜ、耐久力の強化は本体の素材的に中程度の硬さの鉱石が限度だろうな。錆防止はどうする?」

「よくわからないんで値段的に10000コラまででよろしくお願いします」

「あいよ。じゃあ8000コラの中級錆止めだな。すぐに終わらせるから、ちょっとそこら辺で買い物でもしといてくれ」

「あ、ちょっと見てても良いですか?」

「もちろんだ。こんな地味な工程を見たいなんて奇特なやつだな」


 武器の手入れも強化も初めて見るから、ちょっとワクワクしている。


 おじさんが剣の強化を始めた。

 まず、今回使う金属の素材と短剣の刀身を炉の中に放り込む。

 金属の方は器に入れてドロドロにする。

 金属と短剣を炉から取り出し、赤くなった刀身の表面に丁寧にドロドロの金属をかける。

 そして後は鉄床の上に置いた短剣を鎚で何度も打ち付ける。

 何度も打ち付けることによって、短剣と素材の金属を融合させているのだ。


 カン、カンと工房の中に音が響く。

 刀身に金属が融合した後、もう一度炉の中に刀身を放り込んで熱する。

 また刀身が赤くなってくると炉から取り出して、刀身に何かの液体を塗り始めた。

 多分錆止めだろう。

 定着するように何度も丁寧に塗っていく。


 そして水の中に入れて冷却すると、今度は丁寧に刀身を磨く工程だ。

 砥石で手際よくシャッシャッと剣を研ぐと、最後にチェックをして完成だ。


「ほら、出来たぞ兄ちゃん」


 ゴト、とカウンターに置かれた短剣を手に取る。

 ずっしりと、強化される前よりも確実に重くなった短剣を手に取る。

 錆止めの液体を塗られたからか刀身は鈍く光り、剣自体に深みのようなものが出た気がする。


「おお……すごい……!」


 僕は思わず興奮した。


「どうだ。見違えるくらい変わっただろ? どんな武器でもある程度はいい武器にしてやれる。これが強化の良いところだ」


 僕の様子を見て嬉しそうに胸を張るおじさん。


「ちと重くなったが、耐久性は格段に向上したはずだ。ちょっとやそっとじゃ刃こぼれしないぜ」

「いや、これくらいの重さでも大丈夫です」


 くるくると手で回してみたり、ちょっと振ったりしてみた。

 おじさんは重くなったと言ってたけど、このずっしりとした重さが僕には逆に心地良い。

 強化に出す前より確実に手に馴染んでいるのが分かる。


「うん、これならドラゴンもやれそうだ」

「ハハハッ! さすがにそこまで丈夫じゃねえよ! まあ、もしお得意様になって、ゴリゴリに強化できるようないい武器を持ってきたら、ドラゴンも真っ二つにできるようなやつに仕上げてやるよ」

「じゃあそのときは頼みます」


 僕は鞘を剣に収める。


「武器の強化と手入れ、それと半額の素材代で、しめて20000コラだ」

「ありがとう、おじさん」


 僕は鍛冶屋のおじさんに武器の強化の代金を渡す。


「まいど、また来てくれよ、兄ちゃん」


 鍛冶屋のおじさんに手を振り返して僕は腰の鞘に収まっている短剣に手を触れる。


「さて、さっそく強化した武器を使わないとね」


 僕はワクワクしながら大迷宮へと向かったのだった。



***



「ふッ!」


 短剣を振り抜く。


「ギギャア!!」


 鋭い一撃はゴブリンの喉を容易く切り裂いた。

 戦闘が終わり、僕は短剣を眺めながら呟く。


「頑丈さだけじゃなくて、切れ味も上がってるな……ちゃんと研いで貰ったからかな?」


 このスレイドブレードは量産品の安物だ。

 ということは必然、商品の質も低い。

 研ぐ工程が甘かった可能性も十分ありえる。


「ま、今は使えるしなんでもいいか」


 くるくると短剣を回しながら僕は歩く。


「さて、ようやく六層にやってきたぞ」


 ついにダンジョンの種類が変わる五層と六層をつなぐ階段までやってきた。

 ここは重要なポイントだからか、冒険者ギルドの職員と思われる強そうな人が階段の前で門番のように立っている。

 ここから先は、五層までとはまた違った光景とモンスターが待ち受けている。

 ああ、なんてワクワクするんだろう。

 心躍らせながら、早速入ろうとした時。


「止まれ!」


 門番の人が僕の目の前に槍を倒して進むのを阻んできた。


「え? あ、はい」

「お前、パーティーメンバーはどこにいる」

「いや、僕はソロ専門ですけど……」

「冒険者カードを見せてみろ」


 僕は言われた通り冒険者カードを差し出す。

 カードを見た門番の人は「初心者か」とため息を付くと、説明し始めた。


「ここから先は最低でも二人以上のパーティーじゃないと通せない」

「えっ!?」


 衝撃の新事実に僕は驚愕する。


「そ、そんなの聞いてないですけど」

「疑うならギルドへ戻って聞いてみろ。まあ、受付嬢もまさか一週間で五層に到達するとは思ってなくて、説明しなかったんだろう」


 門番の人に嘘を付いてる様子はない。


「分かったらさっさと仲間を作りにいけ」


 しっしっ、と追い返されたので、僕は途方に暮れながらも、地上へと戻ることにした。

 道を歩きながら僕はがっくりと項垂れる。


「まさかこんなところに落とし穴があるとは……」


 せっかく次の層へと行けると思ったのに。

 ソロ専は断念することにしよう。


「でも、パーティーなんて組めるかなぁ」


 そもそも、僕はパーティーが組めなかったからソロなのだ。

 ギルドに戻ってもパーティーを組めるとは思えない。


「どうしようかな」


 悩みながら歩いていると。


「ん?」


 道の先に、人がいた。


「あれは……エルフの女の子かな?」


 長い耳の金髪の少女が、三体のゴブリンと戦っていたのだ。

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