第7話 難癖

 ゴブリンの集団を倒した僕は、その後しばらく探索した。

 探索の間、遭遇したモンスターを倒していく。


 幸いにもさっきのように集団のゴブリンには遭遇しなかった。

 ゴブリンとの戦闘で受けた傷は白炎で治した。


 自分で治癒できる手段がある、というのはやっぱり便利だ。


 そして探索の末、僕は二層に到達したのでそこで探索は終了することにした。

 正直に言うと、まだ探索はしたい。魔力も半分くらいは残ってる。

 でも無理は禁物だ。僕はあくまでソロだからね。

 危険で孤独。でも得られるもの経験値も財宝も感動も全て独り占め。

 それがソロ攻略の醍醐味というものだ。



***



 確かな手応えとともにギルドに帰ると、今回の探索で手に入れた魔石やドロップアイテムを換金することにした。

 話しかけたのは最初に受付をしてもらったお姉さんだ。


「換金をお願いしたいんですけど」

「あなたは……おかえりなさいませ」


 どうやらあちらも僕のことを覚えていてくれたらしい。

 まあ、異端の元素使いの顔は強烈だったから記憶に残ったのだろう。


「これ、多分行方不明者のやつだとおもうんですけど」


 まずは回収したゴブリンたちが持っていた武器だ。

 ゴブリンたちが使っていた武器はそのまま残っていた。

 元々モンスターの持ち物だったならそのまま塵になるはずなので、やはりあれらはゴブリンたちに殺された冒険者のものだったのだろう。


 厳しいがダンジョンとはそういうところだ。

 一応心のなかで手を合わせてから武器をアイテムボックスに入れ、持ち帰ってきた。

 こういった冒険者の武器は魔石と同じく、ギルドが買い取ってくれるからだ。

 ダンジョンの中で死んだ冒険者は行方不明扱いとなり、ギルドの行方不明者一覧に追加される。

 もし武器がその冒険者の持っていたものと一致していれば、正式に行方不明者一覧から外され、死亡したと記録されるのだ。


「これはどこで手に入れられたんですか」

「ゴブリンの集団と遭遇して、倒したらその場に残ったのでそのまま持って帰ってきました」

「えっ、ゴブリンの集団を? 一人で?」

「はい。そうですけど」


 何かおかしなことを言ったかな?

 僕が首をかしげていると受付嬢のお姉さんは「いっ、いえ」と言って武器と防具を奥へと持っていった。

 いやあ、善行は気分がいいね。

 お次は今回狩ってきた魔物の魔石やドロップ品だ。

 アイテムボックスから魔石とドロップ品を取り出してジャラっとトレーに置く。


「じゃあ次はこれをお願いします」

「はい……えっ」


 置かれたドロップ品を見て、受付嬢が驚いたような声を上げた。


「どうかしましたか?」

「いえ、あの……これ、本当にお一人で狩ったんですか?」

「はい、そうですけど……なにか問題が?」


 僕は首を傾げた。


「いっ、いえ。……それでは確認させていただきます。ゴブリンの魔石が11個。それとスライムの魔石が5個。キリングラットの魔石が4個。ヒュージバッドの魔石が3個。そしてドロップ品がキリングラットの毛皮、ヒュージバッドの牙ですね……」


 まあ、正直に言ってまずまずの戦果だ。

 多分今日の宿代と食事代ぐらいにはなるはずだ。


 と、そのとき横から声をかけられた。


「おいおい、嘘はいけねぇな」


 突然肩を組まれた。

 横を見てみれば、いかついおっさんの顔が間近に合った。

 いかにも荒くれ者の冒険者って感じの、人相の悪い顔だ。


「嘘って?」

「そりゃあ、その量を一人で倒したっていうのだよ」

「いや、別に嘘はついてないんだけど」

「大迷宮のモンスターは他よりも強いんだぞ? それに、駆け出しの冒険者なんざ仲間と一緒に潜ってモンスター1匹狩ってくるくらいが関の山なんだ。レベル10でその量は無理だろ。登録のときも変な元素の名前を言ったらしいが、どうせ注目を集めるための嘘なんだろ?」


 ニヤニヤと笑いながら強面の冒険者はそう言った。

 他人のレベルというのは、相手から発される雰囲気でなんとなく察することができる。

 そして、強面の冒険者のレベルは恐らく30程度。

 真正面から戦った場合、レベル10の僕じゃ逆立ちしても勝てないようなステータスだ。

 それは相手も分かってる。だからこそ挑発してくるのだろう。

 はあ、めんどくさ。こういうのには関わらんどこ。


「そう思うなら思っとけばいいよ」


 僕はさらりとそう返す。

 すると躱されたことが不満だったのか、額に青筋を浮かべた。


「今回の報酬の10万コラとなります」

「ありがとうございます。ではこれで」

「おい、待てよ。このまま帰れると思ってんのか。てめえ?」


 そのまま立ち去ろうとしたところ、肩を掴まれた。

 結構痛い。骨折ギリギリぐらいまで力を入れられている。


 痛みに顔をしかめて冒険者の方を見ると、楽しそうにニヤリと笑った。

 はたから見ればどれくらい力を入れてるかなんて分からないだろうし、判断のしようがない。

 嫌らしいやり口だ。


「はぁ……やってることが小物みたいだよ。おじさん」


 嘲笑を向けると強面の冒険者は激昂した。


「っ! そこまでボコボコにされてぇなら、お望み通りやってやるよッ……!」


 強面の冒険者が拳を大きく振りかぶる。

 速い。さすがは僕よりレベルもステータスも高いだけある。

 でも、それだけだ。


「なっ……!?」


 次の瞬間、強面の冒険者は床に叩きつけられていた。


「なにをしたテメェ!」

「なにって、アイキドーだよ。君の力を利用したんだ」


 僕がしたのは至って単純。

 殴る力の流れを変えて、空振るようにしただけだ。

 レベル差があり、ステータスが離れていても戦う方法はある。


「テメェ、ぶっ殺してやるッ……!」

「へえ、今までは手を抜いてたんだ。でもそれで転がされてるんじゃ世話なくない?」

「っ!」


 怒り心頭、といった感じの強面の冒険者が僕へとストレートをお見舞いしてきた。

 さっきよりも格段にキレもよく、これが彼の本気の一撃であることがよく分かる。


 というか、これ食らったら僕死ぬな。

 顔面直撃コースだけど、頭が地面に落ちたザクロみたいになる。


 僕は反撃の態勢を取る。


 交錯は一瞬。

 決着も一撃だった。


「かはっ……!?」


 膝をついたのは強面の冒険者。

 レベルが圧倒的に下の僕が勝つという結果に、周囲は驚いたような声を上げる。


「テメェ……っ、何を、した……っ!」

「単純に鳩尾をついただけだよ」

「バカな……10レベルのステータスで俺より早く動けるわけが……」

「おい、もうやめとけ」


 そこで強面の冒険者の肩を掴んだのは、彼の仲間と思われる他の冒険者だった。

 冒険者は諭すように彼に告げる。


「さすがにやりすぎだ」

「けどあの野郎を……」

「これ以上はギルドから出禁にされるぞ」

「……くそっ」


 強面の冒険者は悔しそうに顔をしかめると、胸を押さえたまま肩を担がれてギルドから出ていった。

 僕はその背中を笑顔で手を振りながら見送る。



***



 その日の夜、僕は宿に泊まることにした。


 手持ちのお金ならたぶん小さめの家なら買えたはずだけど、ここはあえて宿にした。

 いずれは家を買うことになるかもしれないけど、やっぱり宿ぐらしというのはいかにも冒険者っぽい感じだったからだ。


 ここ、迷宮都市アウレリアには思ったよりも沢山宿がある。

 高級なホテルから大人数で相部屋するような安宿まで、よりどりみどりだ。

 恐らくここが迷宮都市で、冒険者が沢山いるからだろう。

 この都市では冒険者はありふれた職業だけど、それでも収入が不安定な職業であることは間違いない。

 冒険者もピンキリで、貴族もびっくりするような豪勢な生活を送る冒険者もいれば、その日暮らしで食事代と宿代を稼ぐのが精一杯の冒険者だっている。

 そういった稼げない冒険者のために様々な値段帯の宿があるのだ。


 僕が選んだのは至って普通の宿。

 でも、明確に一つ気に入っている点があった。


「うーん、やっぱり綺麗だなぁ」


 僕は窓から夜景を眺める。

 街の灯りと、道行く人々。

 それを窓から見下ろす僕。


 この宿には屋根上部屋があり、そこも部屋として貸し出している。

 そしてこの宿は地形上小高い丘になっている部分にある上、乱立している周囲の建物よりも高い。


 つまり、屋根上部屋の窓からここら辺の景色を一望できるのだ。


 ちょっと不便なところもあるけど、この景色が見れるならそれも我慢できる。

 あまりにもこの部屋が気に入ったので、一ヶ月分泊まれるように先に代金を支払ってきたくらいだ。


「明日の冒険も楽しみだね」


 僕は夜景を眺めながら、明日の冒険に心を踊らせた。

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