第6話 初めての冒険
「流石に五匹は聞いてないんだけど……!」
目の前に現れたゴブリンは五匹だった。
五匹のゴブリンはそれぞれ曲刀、槍、弓、メイス、杖を持ったゴブリンだった。
加えてブカブカの兜や、鉄製の防具まで身につけている。
恐らく、パーティーを一つ壊滅させて手に入れたのだろう。
ゴブリンたちが僕を見つけると、声をあげる。
「ギィッ!」
「ギィッ! ギィッ!!」
多分ゴブリン一匹一匹のレベルは僕と同格か、それ以上。
加えて先程の粗末な棍棒とは違い、しっかりと武器と防具を身に着けている。
そのゴブリン五匹を同時に相手にするのは自殺行為だ。
「ギィヤッ! ギィギィッ!」
しかし杖持ちのゴブリンが僕に向かって杖を構えたと思ったら、背後の通路の天井がガラガラと崩落して、通路ごと埋められてしまった。
つまり、退路が塞がれてしまったというわけだ。
杖を持っているゴブリンはどうやら何らかの《魔法》を持っているようだ。
人間が《スキル》や《魔法》をもっているのと同じく、モンスターも《スキル》や《魔法》を持っていることがある。
そういった個体は、大抵が同じ種族の他のモンスターと比べて厄介であることは冒険者の間では有名な話だ。
「逃さないってわけか……!」
ゴブリンたちがニタリと笑う。
乱戦が始まった。
曲刀を持ったゴブリンが突っ込んでくる。
僕はそれを短剣で受け止める。
耳障りな金属同士がぶつかる音。
ジン、と強い衝撃が手に伝っていく。
何回もこの攻撃は受けられない。手がしびれて短剣自体持てなくなる。
それに、武器自体も消耗して使い物にならなくなってしまう。
曲刀持ちのゴブリンを強引に蹴飛ばすと、同時に槍持ちとメイス持ちのゴブリンが僕へと得物を振り下ろしてきた。
突き出される槍を躱すとメイスを短剣で受け止め、弾き飛ばそうとした。
「!」
背筋に悪寒が走った瞬間、思い切り首をのけぞらせる。
すると飛んできた矢が頬を少し切っていった。
傷から血が数滴空中に舞う。
そちらに視線を向けるとゴブリンが弓矢をこちらに構えていた。
今の矢を放ったのはあのゴブリンだ。
(飛び道具持ちはやっかいだ。今すぐに潰さないと──)
白炎を放つために弓矢持ちのゴブリンに手のひらを向けようとすると、体勢を立て
直した曲刀持ちがまた攻撃をしてくる。
「白炎っ!!」
弓矢持ちへの攻撃を諦めた僕はすかさず手のひらを曲刀持ちへと向け、白炎を放つ。
──しかし。
「なっ……!?」
鍔迫り合いをしている曲刀持ちのゴブリンは燃えていなかった。
あり得るはずのない光景に即座に思考を巡らせ……とある結論にたどり着く。
「
武器なら切れ味を上げたり、全く錆ないようにしたりと、効果によってはその武器は最強になる。
この曲刀持ちゴブリンが着ている鎧の場合は恐らく……炎耐性だ。
「がはっ……!?」
背中に強い衝撃。
振り返ればメイスを持ったゴブリンが、僕の背中へとメイスを叩きつけていた。
僕が付与魔法に驚いている隙に接近していたのだ。
「う……あぁッ!!」
痛みに歯を食いしばりながら耐え、メイス持ちを足で蹴り飛ばす。
その隙に曲刀持ちのゴブリンの鎧の隙間から炎を流し込む。
「ギイィィィィッ!!!」
鎧の中で炎が荒れ狂う。
曲刀持ちのゴブリンが悲鳴を上げて燃え尽きる。
燃える仲間を見て怯んだ隙に、僕はもう一度弓持ちへと白炎へと放とうとする。
しかしそれは許されなかった。
「っ……!?」
迷宮の壁から伸びてきた土の柱が、僕の脇腹を打った。
その魔法を放ったのは杖を持っているゴブリンだ。
強烈な一撃に動きを止めた僕に、槍持ちとメイス持ちのゴブリンが飛びかかる。
「っ……ぐッ!!」
飛びそうになる意識を何とか持ちこたえる。
そして目の前に迫りくる槍を──左手で掴み取った。
同時にメイスを後ろ手に回した右手の短剣で、気合を込めて受け止める。
「ギッ!?」
「ギャッ!?」
「ふんッ!!」
僕は力任せに槍の柄をそのまま折る。
そして槍の穂先の部分を逆手に持ち変ええると、
「はあッ!!」
──槍持ちのゴブリンの喉に突き刺した。
「ギッ……!?」
僕の顔に返り血がかかる。
視界の端に弓矢持ちのゴブリンが僕へと矢を放つのが見えた。
飛来した矢を、槍持ちゴブリンの身体で受け止める。
「ギイャッ……!?」
「白炎ッ!!」
槍持ちゴブリンの身体を捨てると、今度は右手の力を緩め、バランスを崩したメイス持ちの頭を、フリーになった左手で鷲掴みにして、白炎を撃った。
悲鳴を上げるメイス持ちには目もくれす、弓持ちと杖持ちのゴブリンへと向き直る。
慌てて弓矢を装填しているゴブリンへと白炎を撃つ。
今度こそ燃えた弓持ちゴブリンは地面に倒れ伏す。
残すは後一匹、杖持ちだけだ。
「ギッ……」
自分だけになったゴブリンは慌てて逃げ出す。
「逃がすか……!」
僕はその後ろ姿を全速力で追いかけた。
その差はすぐに縮まり、僕が追いつきかけたところで。
ニタリ、と邪悪な笑みを浮かべたゴブリンが後ろを振り返った。
杖持ちの手前の地面から、土の槍とでも言うべき尖った円錐が伸びてきていた。
それはちょうど僕の心臓を突き刺すコースだった。
全速力で走っていたせいですぐには止まれない。
杖持ちのゴブリンが勝ちを確信した。
「それは、もう知ってるんだよっ……!!」
手のひらに出した白炎で土の槍に触れる。
すると魔法で生み出された土の槍はまるで砂細工のように、さらさらと元の土へと戻っていった。
白炎の能力、《スキル》と《魔法》の無効化だ。
「ギィィィッ!?」
驚愕に目を見開くゴブリン。
「死ねええええええええッ!!!!!」
僕はその喉元に思い切り短剣を叩き込んだ。
最後の一匹が絶命する。
ゴブリンの身体が塵になっていくのと同時に、僕は地面に両手をついた。
「はぁっ……! はぁっ……!!」
危なかった。一歩間違えば僕が死んでいた。
さっきの死の瀬戸際ギリギリの感覚がまだ残っている。
ドクドクと脈打つ心臓。
曲刀やメイスを真正面から受け止めたせいで未だに痺れている右手。
ぽたぽたと汗が落ちて染みを作る地面。
「ははっ……!」
思わず笑みがこぼれてくる。
これだ。
これが、僕のしたかった冒険だ!
僕は今、どうしよもなく冒険している!
【シン・アドヴェンテ】
Lv.11
元素:白(アルバフラム)
筋力:55 耐久:51 敏捷:43 器用:33 知力:49 魔力:64
《スキル》
【炎成】
・常時微量の自動回復効果
・ステータスの成長が早くなる
《魔法》
【白炎】
・炎属性攻撃
・治療効果
・《スキル》や《魔法》による効果を無効化する
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