第2話 家を追放されることになった

「シン・アドヴェンテの元素は……『白』!」


「…………え?」


 え、六大元素って炎、月、風、盾、空、黒じゃなかったっけ?

 白なんて聞いたことがないんだけど。


 周囲も静まり返っている。

 それも当然だ。だって『白』なんて存在するはずのない元素なのだから。


「あ、あのー……白ってなんですか?」


 僕は恐る恐る神官に尋ねる。


「私にもわかりません。だが水晶には確かにそう記されています」


 どうやら神官も白の元素なんて知らないようだ。


「そんな、間違いじゃないんですか。白の元素なんて……!」


 姉さんが僕の横に並んで神官に問い詰める。


「そうです! これはなにかの間違いです!」

「もう一度儀式をお願いします! そうすればきっと……」


 父さんと母さんも神官へと歩み寄った。

 しかし神官は首を横に振った。


「これは古代文明の遺産です。今まで間違えたことは一度もありません」

「そんな……」


 姉さんが絶望の表情に染まる。

 なぜなら……。


 神官が張り詰めた表情で告げる。


「認めねばなりません。シド・アドヴェンテは……『異端』であると」


 異端。

 このエルドラド王国では六神が信仰されており、それ以外の神は邪神と定められている。


 つまり、六神の元素以外の元素を持つ僕は……邪教徒となってしまうのだ。

 この中世ほどの文明の中で、国王ですら信仰している国教からの異端宣言。

 ……うん、死ねる。



***



 家に帰ると緊急で家族会議が開かれた。


「シン、お前は──アドヴェンテ男爵家から追放処分とする」

「父さん!」


 姉さんが椅子から立ち上がり、父さんに抗議した。


「ネム、これは当主である私の決定だ」

「それでも追放なんて酷いわ! それに六神の加護を授からなくても、シンはシンなのよ!」

「そんなことは分かっている!」


 ドン! と父さんが机を叩いた。


「私だってこんなことはしたくない! だが、こうしなければアドヴェンテ男爵家はどうなる! 異端者に与する家だと謗られ、家ごと潰されるかもしれんのだぞ!」

「っ、そんな下らない理由で……!」

「家だけではない! お前や母さんまでもが危険に曝されるんだ! それでもいいのか!!」

「っ……!!」


 悔しそうに唇を噛んだ姉さんがもの凄い形相で父さんを睨む。

 一触即発の雰囲気だ。

 場をとりなすために僕は発言する。


「姉さん、仕方ないよ。僕が変な元素を授かったのが悪いんだ」


 もし仮に、僕の元素が白であることを神官や僕たちだけしか知らならければ、隠し通すことも出来ただろう。

 でも、あの場には大勢の人間がいた。

 すでに僕が異端者であることは広まっている。

 もう、僕が家から追放されるのは決定事項だ。


「そんなこと……」

「僕は大丈夫。何とか生きてけるよ。そのために今日まで鍛錬してきたからね」

「でも……」

「それに、僕だって姉さんや家族に危害が及ぶのは嫌だ。もし僕のせいで姉さん達が路頭に迷ったらって考えたら、それが一番嫌なんだ」

「シン……」


 ちょっとずるい言い方かもしれないけど、こうでもしないと姉さんは止まらない。

 そこで父さんが諭すような声色で姉さんに話しかける。


「ネム、何も今すぐに追放するわけじゃない。十五歳だ。成人である十五歳まではシンを育てるという大義名分があるから、匿うことができる」

「……」


 じわ、と姉さんの瞳に涙が浮かび上がった。

 そして突然僕に抱きついてきた。


「うわっ、姉さん……?」


 姉さんは何も言わず強く強く、僕を抱きしめる。

 僕は姉さんの背中に腕を回した。


「僕のために怒ってくれてありがとう」


 抱きしめる力がさらに強くなった。



***



 その日の夜、僕はベッドから抜け出した。


 自分のステータスを確認するためだ。

 実は結構楽しみにしてたんだけど神殿では異端騒ぎで、僕がどんなステータスなのかまったく分からなかったんだよね。

 ステータスが分かるなんていかにもファンタジーなイベント、僕が逃すわけがない。


 屋敷の中の色々と重要な物が置いてある倉庫の中から、ステータスを見るための水晶を取り出す。

 神殿にあるのよりは小さく、手のひらサイズだがステータスを確認するのには十分だ。




【シン・アドヴェンテ】

Lv.1

元素:白(アルバフラム)


筋力:21 耐久:19 敏捷:14 器用:15 知力:9 魔力:13



「おお……筋力と耐久が結構高い。筋トレとランニングのおかげかな」


 この世界では、一般人の平均が10程度だ。

 ということは、僕のステータスは平均に比べてかなり高いことになる。

 レベルが1なのに高いのは、この世界のステータスはレベル上昇と共に数値が上昇するのではなく、その都度の成長具合によって上昇するからだ。

 つまり筋トレをしたら筋力が上がるし、逆にずっとサボってたらステータスはどんどん下がっていく。


「さてさて、お次は《スキル》と《魔法》だね」


 僕の一番の楽しみだ。


「どれどれ……え?」


 《スキル》と《魔法》の欄を見て、僕は目を見開いた。




《スキル》

炎成えんせい

・常時微量の自動回復効果

・ステータスの成長が早くなる


《魔法》

白炎はくえん

・炎属性攻撃

・治療効果

・《スキル》や《魔法》を無効化する。




「……………………あれ、『スキルと魔法無効化』って、めちゃくちゃ強くない?」

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