ダンジョンで、かつて夢見た冒険を。〜迷宮で冒険&仲間集めをしてたらいつの間にか美少女だらけの最強パーティーが完成していた件について〜

水垣するめ

1章 ダンジョンで、かつて夢見た冒険を。

第1話 転生したらファンタジー世界だった。

 僕は、ファンタジーの世界で心躍る冒険がしたかった。


 でも、地球という場所はすでに殆どの場所に人の調査が入り、もうすでに目欲しい遺跡だとか、そういうのはなかった。


 金銀財宝や幻想的な景色もない。


 SF小説や映画のように、地面を掘り続ければ地底に人間より遥かに大きいきのこが乱立する世界や、恐竜がいる海や、見たこともない生物が生息している世界があるのかも知れないけれど、それだって途方もないお金がいる。


 まずそこまで掘り進める技術力も人類には存在しない。


 そもそも魔法もなければモンスターもいない。

 モンスターはそこらへんの猪とか熊とかがそれっぽいけど、残念ながら日本では勝手に狩るのは犯罪だ。


 というわけで、僕は自分の夢はが実現不可能だ、ということが人生の早い段階で分かっていた。


 でも人間というのは惰性で行きれる動物で、一旦その冒険心は胸の内に潜め、高校生になるまで生きてこれた。


 それでもかなり生き辛かった。

 ファンタジーの世界で冒険したいなんて、ただの厨二病。

 夢を話せば笑われ、「いつまでそんなこと言ってんの?」と嘲笑の的になった。


 でも僕は諦めることは出来なかった。


 心躍る強敵との戦い。壮大な景色。困難。試練。それを乗り越えた先に手に入れることができる莫大なと富。

 そういったものに憧れを捨てきれずに生きていた。




 トラックに跳ねられた。




 一瞬の出来事だった。

 信号待ちをしていたら脇見運転をしていたトラックが突っ込んできたのだ。

 もちろん僕は即死。あんな鉄の塊を高速でぶつけられて生きている人間なんていないだろう。

 幸いだったのは、信号待ちをしていたのは僕だけだったということだろうか。


 そんなわけで、死んだと思った束の間。

 僕は転生していた。

 どうして転生しているのかがわかったかって?

 僕を取り囲む大人がどう見ても日本人じゃないうえに……僕自身が赤ちゃんになっていたからだ。




 三年が経った。

 僕は三歳になった。


 同時に、この世界のことがだいたいわかってきた。


 この世界は僕が渇望していた剣と魔法のファンタジー世界だ。

 魔法もある。モンスターもいる。冒険をするための迷宮もある。

 なんなら、超魔法文明というステキな名前の古代文明だってある。


 そしてこの世界には『六大元素』と呼ばれているものが存在しているそうだ。

 心躍るね。


 この世界での僕の名前はシン・アドヴェンテだ。


 そう言えば僕の家は貴族だったらしい。

 貴族といっても男爵家、それもほとんど平民と変わらないような貴族だ。

 かろうじて狭い領地と、お屋敷があるもののって感じ。


 アドヴェンテ男爵家。それ僕の家の名前だ。

 家族構成は僕、姉、父、母だ。姉は二歳上。


 転生した僕の容姿は黒目黒髪の普通の見た目。

 容姿は中の上ぐらいだろう。

 だけど、姉はかなり顔が整っていて、将来は美人になることが確実な見た目だった。

 同じ姉弟なのに格差を感じる。


 そうして男爵家の長男として暮らしている中、僕の人生を変革する出来事が起こった。


 『大迷宮』の存在だ。

 大迷宮はこの国にある迷宮の一種だが、その規模は他の迷宮を遥かに凌ぐ。


 大迷宮は広く、そして深い。


 地中にあるというのに太陽がある層、氷山になっている層、ジャングルのようになっている層。

 まるで地中とは思えないような光景がそこには広がっているそうだ。


 一般的な迷宮が10層あれば大きな規模だと言われているのに対して、大迷宮は100層以上はあると言われている。

 百年以上も前から存在が確認されているのにも関わらず、未だに全容は把握しきれず、毎日新たな発見があるらしい。


 絵本から得られた情報はそれだけだった。


 これだ。

 これが僕の行くべき場所だ。


 大迷宮を知った時、僕はそう思った。

 胸の鼓動が早い。

 ワクワクする。


 この時、僕の人生の目標は決まった。


 いつか、大迷宮に行く。

 そしてそこでいつか夢見た冒険をして……あわよくば、大迷宮の全容を明かしてやるのだ。



***



この世界には、『六大元素』と呼ばれているものが存在している。


 『炎』の元素フレイムテラ。

 『月』の元素ルナリウム。

 『風』の元素エルヴァ。

 『盾』の元素アーガシア。

 『空』の元素エーテリス。

 『黒』の元素オブシディア。


 これらが六大元素と呼ばれているものだ。


 初めて聞いたときは僕の元の世界の六大元素と違うな、と思ったけどすぐに思い直した。

 ここは異世界だ。僕の元の世界の六大元素と違うのは当然だろう。


 この六大元素にはそれぞれ司る神が存在している。

 神の名前は元素の名前とイコールだ。


 僕の住んでいるエルドラド王国では、十三歳になるとこの六神のうちのどれかから加護を受け、元素を割り当てられるための儀式を行うことになっている。


 この儀式は割とポピュラーで、他の国でもやっているようだ。

 なんとこの儀式、ただの儀式ではなく《スキル》と《魔法》を授かる儀式だそうだ。


 ほとんどの人間はスキルも魔法も授からないのが普通だが、もしここでスキルか魔法を授かれば将来はかなり明るくなる。

 もしスキルも魔法も授かることができれば……神童扱いだ。


 そして、元素により授かる《スキル》と《魔法》の傾向は大体決まっている。


 『炎』は攻撃系。身体強化、剣技、武技に補正がかかったり、攻撃系のスキルや魔法。

 『月』は治癒系。身体の損傷、欠損を回復したり、治癒に関係するスキルや魔法。

 『風』は支援系。仲間の身体能力、魔法威力を格段に上昇させるなど、バフに関係するスキルや魔法。

 『盾』は防御系。敵のヘイト買い。身体能力、防御力に補正がかかるなど防御に関係するスキルや魔法。

 『空』は空間系。結界の構築や空間探知など、空間系に関係するスキルや魔法。

 『黒』は阻害系。相手の動きを阻害したり防御力を削ぐなど、デバフに関係するスキルや魔法。

 がそれぞれ得られやすくなっている。


 まぁ、要は、

 『炎』がアタッカー。

 『月』がヒーラー。

 『風』がバッファー。

 『盾』がタンク。

 『空』がシーフやサポーター。

 『黒』がデバッファー。

 ということだ。


 僕としてはどの元素でも構わない。強いて言うなら『炎』が良いかな。

 今から儀式の日が楽しみだ。




 一足先に姉が十三歳になり、儀式の日がやってきた。

 神殿の祭壇の前にはスイカほどの大きさの水晶が置かれ、その前に姉さんと同い年の子供が跪いている。

 ちなみに水晶は古代文明の遺産であり、ステータスを確認できる道具らしい。


「タタル・フレネイの元素は……『盾』! 《スキル》【身体強化!】」


 周囲から驚きの声が上がる。


「おおっ……!」

「スキル持ちか」

「いいなぁ……【身体強化】なんて、引く手あまただよ」


 大人たちは驚き、子どもたちは羨ましそうな目を向ける。


「よしっ!!」


 今しがたスキルを授かった男の子はガッツポーズを取っていた。

 この世界ではスキルか魔法、どちからを授かるだけでも当たりなのだ。


 そして、姉のネムの番がやってきた。

 姉さんが神官の前に跪く。


「ネム・アドヴェンテの元素は……『炎』! そして《スキル》と《魔法》は……こっ、これは!」


 水晶を覗き込んでいる神官が驚いた声を上げる。


「スキル【剣聖】に、魔法【聖剣刃】!」


 あっ、聞くからに当たりのスキルと魔法だ、と思った。


 しかもスキルと魔法の両方を授かっている。

 これ以上ないほど素晴らしい結果だ。


 神殿にいた他の人も、姉さんのスキルと魔法を聞いて「おお……!」と声を上げている。


『剣聖って、王国の歴史の中でも最後に出たのなんて、もう100年以上前じゃないか?』

『俺も伝説の中だけだと思ってたよ』


 周囲の人たちが話している声が聞こえてくる。


 どうやら当たりどころか、大当たりのスキルと魔法のようだ。

 いつもは寡黙な父さんも嬉しかったのか小さくガッツポーズをしていた。


 僕たちのもとに戻ってきた姉さんに「おめでとう」と言ったら、嬉しそうに抱きつかれた。

 僕も、こんなスキルと魔法があったらいいなぁ。


 なんて思っていたけど。




「シン・アドヴェンテの元素は……し、『白』!」




 十三歳の儀式の日、僕が授かった元素は聞いたこともないようなものだった。

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