後日談その一  言葉が羽ばたく

「どうしよう、美波ちゃんに舜くんと付き合うことになった、って伝えちゃおうかなぁ」

 スマホを両手で持ちながら、私はベッドの上で転がりまわる。それよりも、実は記憶喪失だったことを先に謝った方が良いかも。うん。

(にしても、私が舜くんと幼なじみだったなんて……)

 こんなことあるんだねって感じ。まだほとんどは思い出せていないから、情報が多すぎて混乱——みたいなことがなくてありがたい。

 さすが私の身体! 私の情報処理能力が遅いことを、ちゃんと分かってる! ってか、分かってるなら処理能力を早くしなさいよ! このせいで、何回苦労したことか……。

(最近何を苦労したのか思い出せないのも、きっと処理能力が遅いせいだよね。うん!)

 現実逃避って、必要なことだと思う。あっ、早く美波ちゃんに謝罪メッセージ送らなきゃ。

『美波ちゃん、実は謝りたいことがあって……』

『何!? 私がこの前貸したマンガなくした? はぁ、しょうがないねぇ。ファミレスの特大スペシャルベリーパフェをおごってくれるなら良いよーん』

 相変わらず、美波ちゃんは既読が速い。——私が逆に遅いのが、申し訳なってくるよ……っ。

 ちなみに、美波ちゃんの言っている特大スペシャルベリーパフェは二千円。ファミレスなのか疑いたくなる値段だよねー。

『さすがに借りたマンガは無くさないよ! ただ私、実は部分的な記憶喪失で』

『あのねぇ、冗談言ってないでさっさと本当のこと言いなさい! こっちはマンガを読むのに忙しいのっ』

 マンガを読むのに忙しい? それ、マンガにはまっているの間違いじゃなくて……?

『本当だよ! それで、舜くんと私は幼なじみだって思い出して——』

 既読がついたのに、中々返信が来ないなぁ。

 そう思いながら、暗くなったスマホの画面をボウッと眺めていると。

『ま、……マジ? 舜って、冬菱くんのことだよね?』

『だから、本当! 冬菱のこと! それで、さらに重大発表! なんと私、舜くんとお付き合いすることになりました……っ!』

 わーいっとハリネズミが踊っているスタンプを一緒に添えて送る。このスタンプ、使いやすいし可愛いから好き。

『良かったじゃん! もう私から見たら二人とも両想いなのに、二人がお互いに告白しないから! どれだけ私がじれったい思いをしていたか……』

 送られてきたのは、あきれているおばけのスタンプ。美波ちゃんの使っているスタンプって、何かオシャレなやつ多いんだよねー。

 今まで応援してくれてありがとう! ——そう入力して、送信ボタンを押そうとした時。

 ——ピコンッ。

『しゅん:次の土曜日、デート行ける?』

「……っっ!」

 今夜は、中々寝付けないかもしれない。

 私のその予想は、残念ながら今夜当たることになる。

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