第四章 灰色の世界に祝福を
最終話 金色の儚き世界で
「……あのさ」
遠慮がちに言った彼の瞳は、少し揺れている。でもその深い色をした瞳には、やっぱりいつもと同じように吸い込まれそうになった。
「天音って、さっき昔の記憶を思い出したんだよな?」
「うん、ちょっとさっきの光景が昔の光景とフラッシュバックして」
昔の光景というのは、私がベランダから落ちてたまたま居合わせた彼に受け止めてもらった時のこと。私は彼のおかげで命は助かったんだけど、衝撃とか恐怖で彼のことを忘れてしまった、っぽい。
「まだ、全部は思い出せないんだけど。記憶を失う直前のこととか、印象に残っていることとかは思い出せた。……その、色々ごめんね」
「ん? 俺、天音に何かされたっけ? 逆に俺の方が何かしたんだと思うけど」
「いや、小学校の頃に好きな人がいたのに、私が結構つきまとっちゃってごめんねってことだよ」
あの時の髪を切られた感触は、もう忘れかけてはいるけれど。やっぱり、気分の良い記憶とは言えない。それ前後の記憶も、全部含めて。
「へー、まだ気づかないふりしてんだ。天音って、俺から告白させたいの? ふーん、そうなんだー」
「……っ!?」
鈍い私でも、その、気付いちゃう。だ、だって。 私の記憶の限りでは、舜くんの幼なじみは私しかいなかったし……っ!
「でも、私はさっき告白したじゃん! 次は舜くんからでしょ!」
「は? さっきのは記憶が戻る前なんだからノーカン。よって、天音から」
やっぱり、お前でもなく天音チャンでもなく、天音が一番くすぐったくなる。
「すいませーん、全く理解が出来ないので舜くんからお願いしまーす。どうぞ、さん、にー、いちー……」
「天音のことが好きだから——、俺と付き合え。な?」
「……っっっ!!」
ふ、不意打ちはだめだよっ、舜くん。それに、耳元で話すのも反則だってば……!
「で? 返事はどーなんですか? 俺、こういうの一日待ってとか無理なタイプなんですけど」
舜くんが、私の腕を引いて顔をずいっと近づけてくる。だから、近いって……っ。
「ちょ、ちょっとだけ待って。舜くんが、小学校時代に好きだった人は誰ですか
!?」
知りたい気持ちと、知りたくないっていう気持ちがそれぞれ半分ずつ。ただ、告白に答える前にそれだけは知っておきたくて。
「は? 天音だろ?」
「え? いやでも、緑川さんに舜くんの告白場面を録音したやつ聞かせられたし。本当は、誰かのこと好きになったことあるでしょ!」
あれは、舜くんの声だったもん。幼なじみの私が、聞き間違えるはずがない!
「あー。そういえば、あんなこともあったっけ」
「そ、そっか……。やっぱり、イケメンチャラ男は女取っ替え引っ替えするもんね」
「天音はさっきから変なことゴチャゴチャ言うな。あんなことっていうのは告白シーンの音読をさせられた時だよ。バーカ」
コツンッと頭を叩かれる。だけど、何故か嬉しくなっている私の感情はおかしくなっているに違いない。どうしておかしくなっちゃったんだろう!?
「わ、分かった! その、じゃあ。私と舜くんが付き合うってことで良いの?」
自分で言いながら、恥ずかしくなってくる。私の火照ったほおよ、静まれ!
「ん、まずはそれで良ーよ」
「え? まずって……、何? 私たちもしかして、いつかは分かれる関係なの……?」
「だから、何で天音は毎回変な風に解釈すんだよ。自分で言葉の意味くらい、考えれば?」
やっぱり舜くんは、今も昔も意地悪。だけど、優しい時は優しい。
——そんなことを、彼と話しながらぼんやりと考えていた。
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