幕間その三 夜めぐる天の川・前編
これは、私が美波ちゃんと友達になったばかりの頃のお話。
「うわぁ、綺麗! 美波ちゃんが選んでくれた水族館、すごく素敵……!」
私と美波ちゃんは今日、友達になってから初めてのお出かけに来ていた。横浜から電車で二十分の、有名な水族館。
「ふふっ、そんなことないよ。ネットで口コミが良かったからさ」
そう言って美波ちゃんは謙遜するけど、きっと真剣に考えてくれたんだろうな。だって、駅から水族館までの行き方とか調べてくれてたもん。チケットが安く買えるサイトも教えてくれたし。
「わっ、美波ちゃん、すごい! こんなに足長いクラゲ初めてみたかも……! 一メートルくらいは絶対にあるよね!」
「分かる。何て言うクラゲだろ? ピンク色でふわふわだしかわいい」
私はクラゲが好きだから、正直嬉しい。写真も撮りたいんだけど、センスがなくて何かボケちゃうんだよね。——クラゲが写真だとただの紙切れに見えてきて悲しい。
「これ、名前乗ってない。何かの雑種クラゲかな? ってか、名前ないクラゲを水族館に置くとか反則じゃない?」
えー、美波ちゃんがキレてます。たしかにできればクラゲの名前ものっけて欲しいけど。
「まぁまぁ、ここの名前アクアパークだし? 水族館じゃないからしょうがないよ」
「そういう問題じゃないよ、天音ぇ。ここも水族館だし」
クラゲの名前がどこかに乗っていないかと円柱の水槽の周りを何周もする美波ちゃん。……何か、リスみたいでかわいいー。
「ほら、天音もクラゲの名前がのっていないか探す!」
「え?」
「天音は身長が私より高いんだから、水槽の上よろしく!」
私の抵抗もむなしく、私も背伸びしながら水槽の周りを回らさせられた。——女子中学生二人が水槽の周りを回るって、結構シュールな光景だよね。
ちなみに、クラゲの名前は見つからなかった。悲しい。
「ねぇねぇ、天音! ここのポップコーンを食べながらイルカショー見ようよ!」
大水槽とかアクアトンネルを見てすっかり機嫌を直した美波ちゃんは、イルカショー会場にある売店を指さす。
英語で書かれた売店の名前は、ちょっと意味が分からないけどお洒落な売店だった。いや、きっと私の理解力が乏しいんだろうな、うん。
「ポップコーンは、キャラメルと塩どっちにしよう……。塩の方が百円安いけど、キャラメルの方が美味しそうなんだよなー」
私の隣にいる美波ちゃんはポップコーンのフレーバーで悩み中。私はもちろん塩だよ。——塩の方が安いからね! 百円って大きいよ!
「キャラメルと塩、一つずつでお願いしまーす」
結果、美波ちゃんはキャラメルにしたらしい。うん、キャラメルも美味しいよね。分かる。
「天音、このキャラメルポップコーン、甘い。甘いから、塩と交換してくれない……?」
イルカショーが始まる直前に美波ちゃんが渡してくれた、キャラメルポップコーンは。普通に丁度良い甘さで、美味しかった。
——あとから聞いたけど、別に美波ちゃんは甘いものが苦手とか、そういう訳ではないらしい。
ダイエット中なのを忘れていて、キャラメル味は美味しかったけど泣く泣く私にキャラメルポップコーンを渡したんだとか何とか。塩味でもキャラメル味でもカロリーは大して変わらない気がするけど。
私がダイエット中だったら、美波ちゃんはどうしたんだろう……っ?
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