幕間その二 太陽のしずく・後編
私は、どうするべきなんだろう。
今、お手洗いから帰ってきた私がこの光景を見て。まっさきに思い浮かんできた言葉はそれだけだった。
光景というのは、美波ちゃんと冬菱が仲良さそうに笑いながら話している風景。美波ちゃんは私と冬菱を応援してくれていたけど、冬菱と美波ちゃんはお互い美男美女でお似合い。
——前から冬菱がアタックしていて、美波ちゃんがそれに惚れちゃったとか。十分に、ありえる。
冬菱と私は放課後デートを約束しているけど、別にそれ以上でもそれ以下でもない関係。もしかしたら幼なじみに片思い中っていうのは女除けのためのウソで、実は二人は相思相愛なのかもしれない。
「ど、どうしよう……」
自転車のカギが入っているバックは二人の間にちょこんと置いてあるから、彼らに何か言わないと帰れない。でも、二人の邪魔をしてしまうのは何か気がひけた。
(私、絶対に帰った方がいいよね)
別に美波ちゃんと夜明けを見に行くなんて、今度でも大丈夫。せっかく慣れない早起きをしたのになぁ、って思った時。
「あっ、蕗桐じゃん。あまりにも遅くて、ナンパでもされてんのかと思った」
いつの間にか、美波ちゃんと冬菱が二人で私のところにやって来ていた。
「冬菱くんが、天音のこと探しに行こうって。見つかって良かったよ、天音遅すぎー」
二人が手をつないでいないのを見て安心してしまう自分も、ナンパされるのを想像するってことは少しはかわいいって思ってくれてるのかなって変なことを考えちゃう自分も、全部嫌い。
これじゃあまるで、私が冬菱のことす、好きみたいじゃん。
「あっ、二人の邪魔しちゃってごめんね? 私、帰るから。かばん持っててくれてありがとう——って、私のかばんはどこ?」
そおっと顔を上げると、そこには呆れた顔をした方が約二名。え? 私なんか変なこと言っちゃった?
「天音、私と冬菱くんは今日話したばっかだよ。話せる話題も天音のことくらいだし」
「そーそー、俺はこの人がお前の友達ってことしか知らないから、名前も知らねー」
も、もしかしてだけど。さっきまで私が考えてたことは、全部ただの私の妄想!?
(やっぱり、私変かも)
良かった、なんて思ってしまう自分が、おかしい。そんなことを感じる理由が何も、どこにもないのに。
「そ、そっかぁ。私の勘違いだったんだね。てっきり、二人は恋人なのかなぁって——」
「天音!! 見て!」
私の言葉をさえぎるなんて美波ちゃんらしくないなぁって思ったら。
そこにはキラキラと太陽の光に照らされて輝く波しぶきと、眩しい太陽の綺麗な光。そして紅から群青へと変わる、空の鮮やかなグラデーション。こんなに夜明けが素敵だなんて、思ってもいなかった。
ただ、私はやっぱり思ってしまう。まちがいなく絶景という言葉の例である夜明けの景色でも、隣で立つ冬菱の金色の光には勝てない。
彼の金色の光はきっと、世界で一番美しい。
——そう思いながらも、夜明けの光は。太陽のこぼしたしずくのように光る波しぶきは、私の心に金色の光と一緒に深く残っていた。
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