幕間その一 極彩のキャンディ・後編
急に意識を夢の世界から現実に戻される間、私は色んなことを思った。
どうして普段は二人の願い事が聞けないのに、今回は聞こえたんだろう、とか。
もっと二人の続きを知りたいな、とか。
そもそも彼は夢の中の私ととっても仲が良かったけど、一体誰なんだろう、とか。どうして私はあんなにかっこいい彼のことを覚えていないんだろう、とか。
——そもそもこの夢は一体どこまでが実際に起きた現実で、どこからが私の願望なんだろう、とか。
考え出したらきりがなくなって、色んな思いが私をゆっくり押しつぶしていく。
『俺が願ったのは、誰かさんが俺のことを恋愛対象として意識してほしいなってこと』
『レンアイタイショー? なぁに、それ?』
『あー、天音は知らなくていいんだよ。……俺の迷惑な気持ちなんて』
夢から覚める、直前。私の鼓膜をかろうじて揺らしたのは、こんな会話だった。
……彼が、夢の中の私に告白する場面。多分これは私の願望が創り出した、現実ではありえないこと、だとは思うけど。
『俺のことを天音が見ますように』
最後に悲しそうな彼の口元がつむいだ、夢の中の私には届くことのない小さな言葉はそんな想いだった。
(流れ星の景色、すごく綺麗だったな……。今度、見に行ってもいいかも)
なんて考える私は、現実から目をそらしてばかり。理屈をつらつら心の中で並べて、諦めるなんて本当はだめ。そんなこと、私が世界で一番分かってる。
——ふわっ。
少し気持ちのよい浮遊感に包まれたあと、私が目覚めたのはベッドの上……ではなくて。
参考書とか筆記用具の散らかるセレストブルー色の机に、私は突っ伏して寝ていたみたいだった。
(そういえば昨日の夜も、邪念をはらうために面倒だけど勉強していたんだっけ。真面目に参考書を読むなんて、私も成長したなあ)
勉強している途中に寝落ちしたのは誰だ、なんてそんな突っ込みをしちゃいけない。一秒勉強しただけでも、私はとっても偉いんだから!
(さっきまで夢を、たしか見ていた気がする。何の夢だっけ)
思い出そうとして、でも違和感がなんとなくする。何か、とても大事なことを忘れている気がした。
「たしか、私が流れ星を見る夢を見たんだよね。ちゃんと、願い事もしたし……」
大丈夫、ちゃんと内容は覚えてる。——だけど、やっぱり何か違う気がした。こんな薄っぺらい、中身のない夢じゃない。
もっと、綺麗で素敵な夢を見た。感動する、夢を見た。言葉で表すなら、『儚い』がぴったり当てはまるような、そんな夢を見たはずなのに。
「も、もしかして私。
重要な夢を、見たはずなのに。心にしっかりと、夢で見たことをきざみこんだはずなのに。
覚えているのは、流れ星のことくらい。それと、願い事。あとは何にも覚えていない。
「ど、どうして……?」
自分の震える声が、早朝に静かに響く。
唯一覚えている景色は、きらめく虹色の流れ星が映る、私じゃない誰かの藍色の瞳。
——それはこの前どこかで見かけた映画の題名の、『極彩のキャンディ』にぴったりな輝きだと思った。
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