幕間その一 極彩のキャンディ・中編二
「きれい、だな……」
横から聞こえた彼の小さな声に、目の前の景色に見惚れていた当時の私は思わず肩をビクッと震わせる。
「たしかに、何か流れ星の一つ一つが宝石みたい。……って、お祈りしなきゃ!」
「え? 天音まだ祈ってなかったの~?」
そう言った彼も、流れ星からは目を離さない。夢を見ている私には、彼の気持ちなんて分からないけど。
(きっと、流れ星をはじめて見たんだろうな)
それだけは分かる。……彼の瞳も、流れ星に負けないくらい感動で輝いているから。
(夢の中の二人は、何を流れ星に祈ったんだろう)
それを、知りたい。……夢を見ている最中の私には思い出せる。私はこの夢を何回も見ているけど、彼らが何を祈ったのかは知らない。
──彼らがそれを夢の中で言う前に毎回、私は目覚めてしまう。
理由は小鳥のさえずりで起きたり、ベッドから寝返りで落ちたり、頭が痛くて起きたりと様々だけど。
必ず、絶対に、私は答えを知ることが出来ない。
「天音、願い事はそろそろ終わった?」
「う、……ん」
夢の中の私が緊張しているのは、彼の願い事が『かわいい彼女ができますように』とかそういうものじゃなかったら怖いからだ。
(彼がきっと、大切な存在なんだろうな)
夢を見ている私にまで、少しではない緊張が伝わってくる。
「じゃあまずは天音から」
「分かった。って、ん? 何で私から? それって不公平じゃん! こういう時はジャンケンでしょ!!」
ほおをほんのり紅潮させながら願い事を言おうとした夢に中の私は、ふと気付く。
「あー、バレた? それじゃあサイショハグー」
彼の何故か棒読みのセリフに合わせて、二人の手が動かされる。
「「ジャンケンポイッ」」
同時に開いた二つの手は、小さい方の手がパー、大きい方がチョキだった。
(彼の右手のほくろ、どこかで見覚えが……)
右手の中指の付け根あたりにある、小さいけど目立つ位置にできたほくろ。
「それじゃあ天音、お願い事をどぞー。ってかジャンケンした意味なかったなー」
その時、私は微かな違和感に気付く。さっきよりも、声が聞こえにくいような……。
「えっと……。××くんが将来、幸せになりまずようにって祈ったよ」
「ふーん?」
そう言った私の耳は赤いけど、今はそれどころじゃない。どんどん声が聞こえずらくなってきている。
きっと、現実の私が目を覚そうとしているんだ。
「あ、××くんは!?」
「え? 俺が流れ星に願ったことそんなに気になる?」
(お願いだから、早く答えて……っ!)
もう音と音の区別もつきにくくなっていた。視界も段々ぼやけてきている。
「俺が願ったのは、──」
「────?」
「──────……」
最後に、かろうじて見えたのは。
彼の悲しそうな口元と、永遠に降り注ぐ眩しい光の雨だった。
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