幕間その一  極彩のキャンディ・中編一

「そういえば××くん。××くんは流れ星に、何を願うの?」

 この会話を聞いて、夢を見ている私は思い出す。

 この二人は流れ星を空から出来るだけ近いところで見るために、山にのぼっているんだって。

 ──これも、この夢の不思議なところ。夢を見終わっても、次の日の朝になると夢の流れとか結末とかを全て忘れてしまう。

 だから、今夜みたいに夢をもう一回見ないと思い出せないんだ。……明日の朝にはもう、また忘れてしまうけど。

「んー、俺はまだ考え中。何にしよっかな。やっぱり──」

「おおおお小遣いを、増やしてもらいたいたいとか!? それともテストで満点を連発したい、とか!?」

 当時の私が、不自然に彼の言葉を自分から聞いたくせにさえぎってしまった理由。

 ──それは、彼の口からかわいい彼女がほしい、などという言葉が出てくるのが嫌だったから。それを自分が聞くのも、すごく嫌だったから。

「天音、どした? 何か急にまくしたてはじめたけど」

「な、何でもないよ!?」

 そう言ってごまかす私だけど、あきらかに挙動不審で、不自然。

「……天音から聞いてきたくせにーっ」

 日光を反射して光る棒つきキャンディをひらひらと夕焼け空にかざして、笑ってくる彼はとっても意地悪な顔。

「それじゃ、俺は流れ星にお祈りしてから天音に何を祈ったか教える」

「……うん。分かった」

 彼が流れ星に何を祈るのか、当時の私はとても気になっている様子。

(夢の中で、彼の答えも見れるかな……? 私の身体、まだ起きちゃだめだからね!?)

 夢がクライマックスへ段々と近づくにつれ、私は夢から覚めてしまわないか心配になる。

 ——そう、これはあくまでも夢。現実の私はこんなに笑顔が素敵ではないし、私の願望で夢の流れが記憶と一部変わってしまっている可能性は十分にありえる。

「天音は? どうすんの?」

「え? どうするって、何をどうするの……?」

 棒つきキャンディをなめ終えた二人は、再び並んで歩き始める。彼の方が少しだけ背が高いけど、私から見てもこの二人はお似合いに見えた。

(夢の中の私は、何だかすごく芯があるっていうか……)

 今の私とは、違う。当時の彼女は、私と似ている所が見た目以外に一つもない。彼も輝きを持っているけど、彼女も負けないくらいに輝きをはなっている。

(生きることに希望を持っている、のかな。何か日常とかも全部ひっくるめて、とっても楽しそうに見える)

「天音は流れ星が見たいって言ってたけど、流れ星にお祈りはするのかっていう話」

「あっ、そっか……」

 空は段々と暗くなっていて、夕焼け空が夜の闇に塗り替えられていく。だけど、何だかその情景も夢を見ている私には素敵に見えた。

 ちょっとだけ、夢の中の私が彼に染められているかのような感覚におちいる時と似ている感じ。

「私だって、お祈りする! 流れ星に二人でお祈りしたあと、お互いに何を祈ったか交換しあおうね!」

「……ん、いいよ」

 文法のおかしい言葉を彼に投げかけながら挑発的に笑った夢の中の私は、やっぱり今の私と似てない。

 ただ、自分もこういう風になれたら世界が灰色じゃなくなるのかなって思う自分もいて。

 やっぱりまだ夢から目覚めたくないと思う自分は、とっても卑怯。だって、それは今の自分から逃げているのと変わらない気がするから。

 本当に今の自分から変わりたいと思っているなら、今すぐ願望のつまった夢から覚めて現実の自分を見つめるべきだと思うから。

 ……でも。

「でも、もしも流れ星が見えなかったらどうするの? ここへ来た意味がなくなっちゃうよ?」

「あー、そういう時はそういう時じゃね? ……それから、ここへ来た意味はなくなんねえよ」

「え? 何で?」

 こてんと首をかしげる私を、あきれたように見つめ返す彼は。

「俺と天音が一緒に二人きりで流れ星を見に来たっていう事実は絶対に変わんねーじゃん」

 最高にかっこよくて、でも最近会った誰かに似ているような気がした。——誰のことだろう? 何でかは分からないし、思い出せないけど。

「ほら、それに頂上着いたぞ」

「え? ほんとに? って、わっわあぁ……っ!」

 流れ星が絶え間なく降り注ぐ夜空を見上げるのは、私と隣の彼しかこの場にいなくて。世界に、たった二人きり。

 ……そんな感覚に、ふとおちいってしまう。

 同時に夢を見ている私は、この幸せな夢が永遠に覚めなきゃいいのにって。

 かなわないことを考えながら、でも心のどこかではそろそろ目覚めようとしている自分もいた。

 ——私が見ていたら、夢の中の二人は本当の二人きりじゃないでしょうって。そんな自分が、言っていた。

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