第19話 お頭
二刀流の剣士、ディカスの目を打ち抜いた人物は弓と矢を左脇に抱え、身軽に今まさに戦場となっている海賊本船までロープを伝って移動してくる。
「U.N.!」
真っ先にチェスカが叫んだ。
そう。
レミィたちを援護してくれた人物は他でもないチェスカの義娘、ホムンクルスのU.N.だったのである。
「あんたがそんなに戦えるなんて知らなかったわよ」
「マスターたちが私の戦闘能力について訊ねた回数、0回。よって答える必要なしと判断して過ごしてまいりました」
「じゃあなんで今回は内緒でこっそりついてきて援護してくれたわけ!?」
そうなのだ。
どうして孤児院で働いているはずの彼女が自分たち冒険者の仕事についてきて、しかも姿を現さずピンチのときに狙って助けてくれたのだろう?
「全て私自身の判断です、マスター。商船に密航したのも、弓矢を自作しておいたのも。マスターの危機に姿を現し加勢したのも、まったく命令されずに自分の意思で行いました」
話している間にレミィの魔法で傷が癒えたケィンがディカスの刀を遠くへ弾き飛ばしていた。そのうちの片方をディカスの喉元に突きつけている。
ついでに自分の剣で相手の腰の宝石袋を斬り取った。青や白の宝石が甲板に散らばる。これで目の傷も癒せない。
「形勢逆転だな」
U.N.が来たことは理解しているようだが、さすがケィンは戦闘中は冷静だった。チャンスを逃さない。
レミィはそんなケィンに思わず見惚れそうになり、ぶんぶんと首を振った。
「U.N.、こいつの心臓を矢で狙え。徒手空拳でも反撃してきたら厄介だ」
「了解です、ケィン様」
U.N.は矢を番え、言われたとおりにディカスの左胸に向けた。
「質問だ、お前らの頭はどこにいる?」
ケィンも油断なく剣を握り締めながら問い詰める。
「そこの階段を下りて左の船長室だ。『自分が出るまでもない』と余裕でお前らが片付くのを待ってる」
「そのお頭はお前より強いのか?」
「俺はこの船のNo.2だ。お頭が一番強い」
それを聞いてケィンはなにかを決断したようだった。
「レミィ、チェスカの傷は治ったか?」
「う、うん、幸いプレートアーマーの厚いところに刺さったみたい」
「戦えってんなら戦えるわよ、U.N.にいいとこ見せなきゃ」
刺されたときに口から吐いた血を拭いながら、チェスカは不適に笑った。
「よし、このディカスとやらを縛れ。手と足と口をぐるぐる巻きにな。矢は抜かなくていい。後レミィ、こいつの宝石拾っとけ。結構いいのが落ちてるぞ」
「くっ……」
ディカスは歯噛みしたが、喉元と心臓、二つの急所を同時に狙われていては詰みだ。
ケィンの指示でレミィとチェスカの二人は腰に身につけていた捕縛用の縄でディカスを縛った。
甲板ではまだ戦っている連中もいる。が、一進一退で、まだ冒険者たちは粘れそうだ。
「お頭とやらのところへ行くぞ。U.N.、俺たちと一緒に戦ってくれるな?」
「はい! そのために来ました」
「色々聞かせてもらいたいことはあるが、大将首を取ってからだ。それでこの戦いの勲功第一は俺たちになる」
罠に注意しつつ、4人はお頭とやらの部屋に向かった。木造船の上なので難しいが、なるべく足音を殺しながら。
まずチェスカがドアノブに手をかける。彼女の場合、体が小さい上にプレートアーマーを着込んでいるのでもしものときも一番安全だ。
「(せーの!)」
U.N.が弓を構えた。本当にどこでこんなに高度な戦闘技術を身につけたのだろう?
ギィ!
ドアが開くと「お頭」の姿が詳らかになる。
海賊がよく被っているキャプテンハットが目立つ少年だ。腰には軍刀を下げている。
「なんだてめ……」
おそらく前の襲撃の戦利品であろう宝石を並べてにやついていたその少年はレミィたちが部屋に押し入ると、声を上げると同時に立ち上がり抜刀した。
レミィは「お頭」とやらの若さに驚いていた。
もっとこう、髭面か、眼帯でもしているか、とにかくおそらく中年のおっさんだと思っていたのだ。
「覚悟!」
ケィンが不意打ちで斬りつける。
だが、防がれた。相手が左手に持っていた金属製のバックラーに弾かれたのだ。
続いて軍刀での刺突が来る。
ケィンは間一髪でかわし、剣に魔法をエンチャントさせる。
「アイスソード!」
炎の赤の宝石は節約中なので、青の宝石を使って発動させた斬ったものを凍りつかせる氷の刃だ。
「いつも思うけどあの魔法剣、殺されて奪われそうよね」
ドアを開いて後方から敵が援軍に来ないか確認していたチェスカがのんきにそんなことをつぶやく。
「エア・スピードアップ!」
レミィはチェスカを無視し、ディカスとの戦いからバフ魔法の考課が切れているケィンを援護する。
ケィンは凍りついた剣を左斬上げに振ると、キャプテンハットを掠めた。
「かわされたか!」
と。
そこでお頭とやらの様子が一気に変わる。
「あああ、俺の宝物がああ……、お頭の形見がああ……う、ああああ!」
全身から闘気が噴出し、4人は動きが固まる。
「お前ら皆殺しだぁ! 外にいる連中も! この俺が全員ぶっ殺してやる!!」
あまりの豹変振りにケィンは少し後ずさった。
何だか知らないがこの「お頭」の逆鱗に触れてしまったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます