第20話 決着
「お前ら皆殺しだぁ! 外にいる連中も! この俺が全員ぶっ殺してやる!!」
「お頭」とやらのあまりの豹変振りにケィンは固まった。
チェスカも、レミィも、U.N.も声を出せないでいる。
「まずはてめえだ、薄汚ねえ剣でお頭の帽子を切りやがって!」
動けなくなっているケィンの心臓目がけて軍刀の切っ先が飛んでくる。
そこへチェスカが横からタックルをかけてケィンは命拾いした。
「な、なんなのよこいつ、いきなりキレちゃって……」
「てめえから先に死にたいか、チビスケェ!」
「っ!」
お頭の鋭い蹴りがチェスカの無防備な顔面を捉える。
「氷の牢縛鎖アイスジェイル!」
レミィが「バインドミスト」の高位魔法、氷でできた鎖で相手を縛る術を放った。
今節約するべきは白と赤の宝石だが、他の色も無駄にはできない。が、レミィはためらいなくA級の青の宝石を使った。
宝石の力で水を生み出しつつ一瞬で凍らせて相手を束縛する高位魔法だ。これで相手はしばらく身動きできないはず。
「今よ、ケィン!」
氷のエンチャントが効いたままの魔法剣でケィンはお頭の両腿を斬り払った。相手の足が凍りつく。
殺してしまうわけにはいかない。
こいつは人間、しかも賞金首の海賊なのだ。更正の余地はともかくとしてまずは生かして軍に引き渡さねば。
「この程度でぇ!」
お頭が腰掛けていた机の上で赤の宝石がまばゆく輝く。透明度から見て、B級だろうか。
「筋力限界突破リミットブレイク!」
お頭の腕が赤く光ると鋼鉄以上の強度を誇るはずのレミィの氷の縛鎖にひびが入る。
まずい、このままでは数秒後には割られる――!
バリィン!
あっけなく、レミィの切り札は破られた。
しかし、腕を広げむき出しになったお頭の胸に矢が突き立った。
1本、右胸に。
2本、脇腹に。
3本、は発射されなかった。
お頭が麻痺して後ろ向きに倒れたからである。矢を射たのはもちろんU.N.だ。
「神経毒を使いました。しばらくは目を覚まさないはずです。皆さん早く捕縛を」
「またお前さんにいいところを持っていかれたな」
ケィンが腰からロープを取り出しながら笑う。
チェスカも無事のようだ。縄できつくお頭の腕を腰の辺りで縛った。
レミィは床に散らばった宝石を赤と白を優先して拾っていく。他の色もかなり価値のありそうな宝石ばかりだった。
U.N.が猿轡をかませながらつぶやく。こっちが命じてもいないのに魔法や自害を警戒して口も封じておくとは本当に彼女は冒険者としてやり手だ。
「この部屋は財宝庫も兼ねているようです。宝石だけでなくいわゆる金銀財宝ザックザクのウッハウハです」
「だからお前神経毒とか、そんな言い回しとかどこで覚えてきたんだ」
「培養液の中で私の製作者が胎教中に」
いったいU.N.の製作者は彼女に、いや彼女たちに何をさせたかったのだろう?
とにかく今回戦力になったのは間違いない。彼女がいなければ少なくとも自分たちPTはディカスにやられて全滅していただろう。
とにもかくにも、海賊の頭を捕らえたことを甲板で戦っていたPTたちに告げると大きな歓声が上がった。
「よくやってくれた!」
「これで俺たちの勝ちだ!」
戦いを続けていた海賊たちもボスが捕まったと知るや武器を捨てて降参した。こいつらの中にも賞金首はいるだろう。今回の冒険は大儲けだ。
縛り上げた海賊たちを軍に引渡し、海賊船にあった財宝も渡して軍支部を出る。
ガサキの軍支部はナパジェイにある支部の中では大きい方になる。
海賊船も拿捕し、港まで商船で引っ張った。こっちも軍が徴集するそうで、やがてはガサキ・ブドーキバ間などを航海する商船か軍船に作り変えられるのだろう。
今回の活躍でレミィたちのPTはPT名を名乗ることを海軍の将校から提案された。
U.N.も含めて4人、結構な実績も積んだ。他のPTと協力しての達成だったからか、まだ脇差級には認定されなかったが、そろそろPT名を名乗ってもいいころだろう。
「それは酒場で酒呑みながら決めましょうよ。早く一杯やりたいわ」
チェスカがそう提案してきたのでレミィたちは意気揚々と「森の家」亭に凱旋した。
「おお、おかえり! 帰ってくるのを待ってたぞ!」
お世辞にも愛想が良いとはいえないマスターだが、うちのPTが大きな手柄を上げたのを聞いてか妙に機嫌よく迎えてくれた。
「ほらよ、海賊討伐の報酬に賞金首の捕縛報酬だ」
マスターが渡してくれた皮袋の中にはA~C級の宝石がたくさん入っている。もちろん赤や白もある。
「やった! これでラバマシーの怨霊退治に一歩どころか三歩くらい近づいたわ」
「レミィ、その中から黒の宝石一個使って今夜はパーッと盛り上がろうぜ」
「え? 確かにアンデッド相手に闇の魔法は効果が薄いけど、ゴーレム作ったり使い道は多いわよ? そんなに贅沢してもいいの?」
そう返すとケィンはU.N.の方を向いた。
「いいんだよ、今夜はこいつの歓迎会も兼ねてる」
「ありがとうございます」
U.N.が表情を変えずに応える。
「これからも一緒に戦ってくれるんだろ?」
「はい、マスターやケィン様、レミィ様のために働きます。よろしくお願いします」
そこでチェスカが話に割り込んだ。
「なによ、あの弓の腕。胎教であそこまでうまくなるものなの?」
「ホムンクルスは基となった人間の細胞によって才能の差が大きく出るのです。私はたまたま弓に秀でた人間の細胞が使われたのでしょう」
「矢に神経毒を塗ってたりもしてたな。あれも胎教による知識か?」
「ホムンクルスは基となった人間の細胞によって才能の差が大きく出るのです。私はたまたま毒の調合が得意な人間の……」
「わかったもういい。同じ台詞を一字一句繰り返すなもどかしい」
「なんで商船に潜んでたのよ。そもそもどうやって潜り込んだわけ?」
チェスカが問うとそこでU.N.はぴたりと口を閉ざした。
「なによ?」
「等身大の人形の振りをしました。そして棺桶上の箱に入って船の中に運び込まれるのを待ちました」
「なるほど、万が一開けられてもナパジェイ土産の人形扱いされるってわけか」
「ナパジェイは世界的に見て少女型の人形作成も盛んな国ですので」
「だからなんで胎教でそんな知識を……」
「いえ、これは孤児院の院長先生に聞きました。欧州でもナパジェイ製の等身大少女人形は人気だと。そこで皆様のお役に立つ案を閃いた訳です」
それで自分たちには内緒で船に忍び込み、タイミングを見計らって助けてくれた訳か。助かったのは事実なので「危ないことに首を突っ込むな」と叱る気にもなれない。
とりあえずU.N.に訊きたいことは聞き終えたのでレミィは話題を変えた。
「で、パーティ名どうする?」
「俺たちってPTてか家族みたいなもんだろ。『一家ファミリア』」とでも名乗っておけば良いんじゃないか?」
ケィンがあっさりといい案を出してくれる。
「そうね、リーダーはケィン、PT名はファミリア、それでいいんじゃない」
チェスカも反対はないらしい。
「マスター! 今日からあたしたち『ファミリア』ってPT名でやっていくから!」
大声でマスターに報告するチェスカ。
「おお、それなら記念にこいつを空けてやろう。あのシモーヌさんが置いていったブドーキバの名産、フォーティ・ファイド・ワインだ」
「おおっ、粋なことしてくれるわね、シモーヌさん」
「本当は店に『世話になった礼』として土産物なんだがな。お前たちに呑んでもらうのがあの人も一番喜ぶだろうよ」
コルクで栓をしてあったのでコルク抜きを借りてそれぞれの前のグラスに注いでいくチェスカ。
呑み慣れないルビー色のワインでこの夜は4人で大いに盛り上がった。このワインは栓を開けた後も日持ちするとのことなので、半分はラバマシーの件が片付くまでとっておくことにした。
こうして頼もしい仲間を加え、「ファミリア」はまた次なる冒険に胸を馳せながら眠りに就いた。
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